第四十話 未知との遭遇
第四十話 未知との遭遇
『魔道具』
ダンジョンで得られた、あるいはスキルによって作られた『超常の力を有した道具』を指して現在はこう呼ばれている。
レフコースが落とした指輪の様なドロップ品や、自衛隊が回収したダンジョンにて保管されていた物品等といった物は、そうそう手に入りはしない。後者にいたっては、民間に出てくる事などないと言っても良いだろう。
では覚醒者が作った魔道具は簡単に手に入るのかというと、そんな事はない。
まず、単純に『生産系』の覚醒者の数がそれ程いないのである。
あちこちの企業が、新製品開発の可能性を考え生産系スキル持ちをヘッドハンティングしまくったが、それでも大した数は揃えられなかったそうな。分散してしまったのも、理由だろうけど。
その点、やはり自主的に錬金術師が20人前後も集まった『錬金同好会』は異質と言える。集まった理由が理由なので、企業に属すると自由に出来ないから勧誘を蹴ったのだろうな……。
次に、魔道具は全てハンドメイドである事。
元々大していない生産系スキルの覚醒者が、1つ1つ手作りするのだ。売りに出されればすぐに売り切れるし、予約をしようにも半年待ちなんてものはざら。場合によっては1年待ちや2年待ちなんかもあると聞く。
最後。これが個人的に一番大きな理由なのだが……面倒くさいのだ。凄く。
例えば、錬金術の場合。
材料に覚醒者の爪や髪の毛、血などを使うとする。
魔道具作りでは『4大元素』が重要視され、地、水、火、風の要素を揃えなければならない。
まず、鍋。土から作られた、大きな鍋が必要だ。子供が丸まれば簡単に入ってしまうぐらいに大きく、それでいて高温にも耐えられる頑丈なつくりが求められる。
そして、その鍋の内側に1文字1文字丁寧に魔力を籠めて術式を書き込まなければならない。1文字でも間違えたら、その鍋はもう使い物にならないだろう。
次に、水。何を作るにしても、鍋の中には清潔な水をたっぷりと入れなければならない。
ぶっちゃけ、現代日本に暮らしているおかげで水の用意だけは簡単だ。水道水で良いんだから。まあ、作る物次第で『魔力を帯びた純水』とか『ユニコーンの角で清めた水』とかが必要になったりするけど……。
で、次。火について。
鍋を熱する火は、高温でなければならない。家庭用のガスコンロで出せる様な出力では、まるで足りないのだ。それでいて、錬成中は一定を維持しなければならない。
まあ、これも作る物次第では適宜温度を変えないといけないけど……。基本的には高い火力を一定に維持する必要がある。
最後、風。
材料を鍋の中に入れた後、魔力を籠めながら棒でかき混ぜる。
たったそれだけ、と思う事なかれ。棒自体に術式を書き込んでおく必要があるし、どういう錬金をするか作業中頭に強く浮かべていないといけないのである。
結構な量の魔力をゆっくり注ぎながら、だ。少しのミスも許されない、神経を使う工程である。これが、最低でも2時間。長い時は文字通り丸1日。
そうして、魔道具の『材料』となる結晶が出来るわけだ。
……うん。これでやっと材料が出来る。その材料を使い、また別の物と混ぜたり、鍋とは別に『炉』を作って熱した鉄なり何なりに叩き込んだりが必要だ。
唯一の救いは、鍋も棒もある程度までなら使いまわせる事か。
3つか4つ程セットを作れば、大概の物は錬成できる様になるだろう。
そんな事が『魔装』についていた本からわかったわけだが、魔道具を自作しようとは思えなかった。
こんなん副業とかでする事じゃねえよ。専業じゃねぇとやってらんねぇわ。
学校もあるし、冒険者としての活動もある。確かに魔道具を売れば大金が手に入るが、レベルは手に入らないのだ。
……いや。そう言えば、『錬金同好会』の書き込みでひたすら錬金していたら少しだけレベルが上がった、なんて話もあったっけ?
まあ、その話も1年かけてようやくレベルが1つ上がった程度だったが。
とにかく。『比較的用意が簡単』と言われる錬金術ですらコレである。魔道具作りとは、とても大変な事なのだ。
しかし、それだけの手間がかかっている分魔道具はどれも便利な物ばかり。『炎馬の指輪』の様に、ダンジョン探索で非常に有用な物もある。
よって、冒険者は『生産系スキル持ちの覚醒者』との伝手をとても大事にするのだ。何なら、それ目当てで所属企業を選ぶ人もいると、掲示板に書いてあった気がする。
だからエリナさんが自分を『職人』に会わせてくれるのは、非常にありがたい話だったりする。する、のだけれど……。
……相手が、同学年の女子ってどういう事ですか。
* * *
指輪の力を試した、翌日。
学校にて、死刑執行……じゃない。昼休みを迎える。
取りあえず動かなければならない。教室でエリナさんと接触するのは、かなり目立つ。せめて、被害を最小限に───。
「たのもぉ!!京ちゃん、迎えに来たよ!!」
はやぁい。
隣のクラスの方が少し早く昼休みになったのか、うちのクラスが昼休みになると同時にエリナさんが後ろ側のドアを勢いよく開けた。
当然、大声の金髪美少女なんて教室中の視線が集まる。
そして、続けて彼ら彼女らの目は自分にも向けられた。
良くない感情と共に。
「また矢川かよ……」
「あの人、隣のクラスの林崎さんでしょ?」
「矢川ってさ、覚醒者って言うけど地味じゃん……なんであんな奴が」
「なんだ女か。女装じゃないなら帰ってくれ」
敵意、嫉妬、疑惑。あと妙に粘っこい視線。
それらに背を丸めながら、弁当袋を手に早足でエリナさんの所に向かう。
「あの、その、とにかく移動を……」
「そうだね!食堂のいい場所取られちゃうもんね!!」
「うん……あと、出来れば、声をもう少し落として……」
「そうなの?わかった!じゃあ行こ、京ちゃん!」
笑顔でズンズンと歩き出すエリナさんの後を、身を縮こませながら続く。
廊下でも、幾つもの視線を感じた。誰が何を言っているかまではわからないのに、聞こえる音全てが自分を否定している様に思える。
なんで今日、学校に来てしまったのだろう。仮病を使って親に心配をかけるのは悪いなんて考えず、家でふて寝でもしておくんだった。
せめて、学校以外で会わせてくれる様にお願いすれば良かったのに。エリナさんの友達の都合とかも考えて、頷いてしまった自分が憎い。
1階にある食堂は、昼休みなので当然ながら賑わっている。
うちの高校は別に学食とかはないのだが、購買はあるし椅子や机がたくさん並んでいるからこの食堂に色んな生徒が集まるのだ。
ガヤガヤと騒がしい中、エリナさんは器用に人混みをすり抜け進んでいく。それを動体視力と反射神経頼りに追いかけて、隅にある人気が高そうな席へ。
「お待たせ!京ちゃんを連れてきたよ!」
「おう」
「まあ。その人が例の?」
4人がけの席には、2人の女子生徒が場所取りをしていた。
片方は、小柄でショートカットの赤い髪が特徴的な生徒。
気の強そうな三白眼に、不機嫌そうな仏頂面。ブレザータイプの制服の、首元のリボンを緩めている。
身長こそ低いが、胸元は大きく膨らんでいた。トランジスタグラマー、という奴だろうか。
もう片方は、長い黒髪の女子生徒。
垂れ目がちな目に、優しそうな笑顔。大和撫子然とした顔立ちで、こちらを興味深そうに見ている。
背筋はピンと伸び、制服もカッチリと着ている様で、赤い髪の生徒とは色々と正反対だ。
「そうだよ!この子が京ちゃん!そんでこの2人が」
「毒島愛花です」
「……大山雫」
黒髪の方が毒島さん。赤い髪の方が大山さんらしい。
「ど、どうも。矢川京太、です……」
少し噛みそうになりながら、小さく頭を下げる。
お、落ち着け京太。相手は別に敵じゃない。むしろ友達の友達、つまり味方だ。
……いや友達の友達だから、余計にどうすりゃ良いのかわかんないんだけどさぁ!
「座ろ、京ちゃん。あんまりのんびりしてると、昼休みが終わっちゃうよ!」
「あ、うん。はい……」
椅子に座ったエリナさんの隣へ、おずおずと腰を下ろす。
2対2で対面する形。自分の正面には、毒島さんが笑顔で座っている。
「それでね京ちゃん。こっちのシーちゃんが例の職人さん!ドワーフさんなんだよ!」
「……おう」
「ど、どうも……」
エルフと同じく、有名な亜人である。
創作で語られているのと同様に、彼ら彼女らは非常に手先が器用だとか。それでいて力が強く、片手で重い槌を軽々扱うと聞く。
外見的な特徴は、男の人は髭もじゃ。女の人は髭が生えず……その、胸が大きいとか。背が低いのは男女共通らしい。
生産系のスキル持ちが多い種族と噂されているが、そもそも亜人の数自体が多くないので真偽は不明である。
なるほど、確かに大山さんはそれらの外見的な特徴と合致していた。髪が赤いのも、もしかして種族の変化によるもので地毛なのかもしれない。
「ちなみにアーちゃんも覚醒者だよ!」
「私は生産系のスキルを持っていませんが」
エリナさんの紹介に、毒島さんが苦笑する。
なるほど、この3人はそもそも覚醒者の集まりだったのか。
日本において、30人に1が覚醒者だと言われている。1つのクラスに複数人いても、それほど珍しい事ではない。
……僕はクラスで1人だし、孤立しているがな!
……よそう。自分がボッチ街道まっしぐらなのは覚醒だけが原因でもないし。
「その、僕も、覚醒者です……」
「はい。エリナさんから良く聞いています。凄く強くて、目が良い方だと」
「は、はぁ」
「うん!京ちゃんは強いよ!動きは雑なのに、シュバッ!で、ドーンだから!」
「相変わらず何言ってんのかわからん」
「えー。冷たいよシーちゃぁぁん」
「うるせぇ。ほっぺをつまもうとするな」
じゃれつきだした友人と、その友人。
エリナさんは文句なしの美少女で、大山さんも平均以上。そんな女子達が戯れる光景は、心が洗われますね?
こんな近くでアウェー感満載じゃなければな!やだ、凄く気まずい……!
「ほら、エリナさん。矢川さんが困っていますよ」
「おー。京ちゃんのほっぺも触ろうか?」
「え、いや、別に……」
「そなの?」
「ほら、それより例の件を」
「そうだった!」
毒島さんが軌道修正をしてくれて、エリナさんが手を叩く。
「京ちゃんに『素材』を提供してもらって、私の激つよ忍具を作りたいんだよ!作ってくれるシーちゃんの意見も交えたいから、皆よろしくね!」
「おう」
「う、うん……」
「あと、報酬に関しては後でメールとかで決めよっか。今日はまず顔合わせで」
「え、いや、別に報酬とかはいらない……」
「駄目だよ京ちゃん!親しき仲にも礼儀ありだからね!こういうのナアナアにすると、後で困るもん!」
「あ、うん。わかった……」
力強くエリナさんに言われ、思わず頷く。
それを言ったら自分は両親を彼女に助けてもらっているのだが……菓子折りとお礼の言葉だけで、釣り合えると思えないし。
だが言えない。この場で何か発言する度に、頭と心臓に強い負荷がかかる様な錯覚を覚えている。
「それとね。アーちゃん達の」
「エリナさん。それに関しては、私達から伝えます」
「ん、わかった!」
毒島さんが小さく手をあげ、エリナさんの言葉を遮る。
大和撫子然とした彼女は、再び正面からニコリと笑みをこちらに向けてきた。それだけで、どういう表情で応えればいいのかわからず視線を彷徨わせてしまう。
「矢川さん。貴方が強力な冒険者だと見込んで、お願いしたい事があるんです」
「は、はぁ。その、なんでしょう……?」
特に理由もないのに冷や汗で背中を濡らしながら、毒島さんの顔を窺う。
彼女は、真剣な瞳でこちらを射貫いた。
「私達のレベル上げを、手伝ってほしいんです。無論、報酬はお支払いします……分割になるかもしれませんが」
「あと、物々交換でゴーレムを1体譲ってほしい」
「……はい?」
毒島さんと大山さんが発した予想外の申し出に、疑問符を浮かべる。
どういう事かとエリナさんに視線を向ければ、何故かサムズアップが返ってきた。
……いや、マジで何が何やらわからないんだけど……?説明プリーズ?
自分にとって『友達でもない女子高生』なんて未知の生物である。そんなもんと遭遇させておいて、この展開はもうデストラップも同義ぞ?
「どやぁ……」
エリナさんは答えてくれない。謎のドヤ顔をするばかりである。
なに?まさかマジで僕を殺す為の空間だったりするの?
……誰かぁ!助けてくださぁい!殺される!精神的か社会的に殺されるぅ!!
この際残念女子大生でも良いから助けて!未確認生命体に囲まれています!!出来れば身代わりになってください!!
そんな心の絶叫を発する事も出来ず、自分はただ目を泳がせる事しか出来なかった。
タスケテ……タスケテ……。
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