閑話 錬金同好会と新ギルド
前回は少し重めの話だったので、今回はギャグ成分多めです。
今回の登場人物※特に覚えなくても大丈夫……な、はず。
山下博 :猫獣人。山下の兄の方。京太に助けられた。
川島省吾:山下の幼馴染。同じく京太に助けられた。
『S』 :変態どものリーダー。
『K』 :変態どもの副リーダー。
※諸事情により山下兄の名前を変更しました。
閑話 錬金同好会と新ギルド
サイド なし
時は少し遡る。
千葉県某所、貸し会議室。指定された部屋に向かい、『山下博』と幼馴染である『省吾』はビルの中を歩いていた。
「緊張するな……」
「俺、スーツ着たのめっちゃ久々だわ」
ネクタイの位置をしきりに直す山下と、その隣でリラックスした様子の省吾。
猫耳をヒクヒクと動かして、山下が幼馴染を睨む。
「お前な。もうちょっとキリッとしろよキリッと」
「つっても、基本喋るのはお前だろう?つうか俺がここにいる意味あるか?」
「ある。向こうは代表が2人で来るってのに、俺だけじゃ気まずいだろ」
「へいへい。ま、お嬢ちゃん達を連れてくるわけにはいかない相手だしな」
「……相手の前では言うなよ」
「おう。それぐらいはわきまえているから、安心しろ」
2人の表情が真剣なものになる。
なんせ、今回会う相手は『錬金同好会』。ネット上ではあるが、良くも悪くも有名な集団だ。
『錬金術』
このスキルを一言で表すのなら、『器用貧乏』である。
覚醒者のもつスキルには、物作りに魔力を用いる事で特別な力を与えるものがあった。
ある者は、使い手の身体能力をノーリスクで高める霊刀を打った。
ある者は、数種類のハーブを混ぜ合わせて如何なる火傷もたちどころに治す塗り薬を作った。
ある者は、市販の糸を使い焚火に放り込んでも燃えないマントを縫いあげた。
ある者は、そこらの土くれと植物から従順かつ怪力のゴーレムを創造した。
確認されているこれらも、ほんの一例に過ぎない。そのどれもが既存の社会や経済に大きな影響を与える効果を持っている。
身も蓋もない言い方をすれば、RPG系のゲームに出てくる生産職の様なスキルだ。それ故に、『生産系スキル』と呼ばれている。
その生産系スキルの中で、錬金術は少々浮いたスキルだった。
鉄の形を変える事は出来るが、精度も付与できる力も弱く。作れる薬の種類も少なく。織った布もそれほどの異能は有せず。ゴーレムの性能も比較的低い。
故の、器用貧乏。
されど、器用万能。
兎にも角にも、出来る事が多い。更に、それぞれのジャンルにおいて1位は取れずとも、複合させる事で相乗効果を生み出す事が狙える。1人で大概の事は出来るし、別の生産スキルと組み合わせる事も出来るのだ。
何より、錬金術は『手早い』。
他の生産系スキルは基本的に、作業スペースと各種道具を用意する必要がある。
対して、錬金術師は錬成陣と材料さえあれば良い。無論、高度な錬成を行う場合は専用の大釜や炉が必要になるが。それでも準備から作成までにかかる時間も、要求される環境の差も大きいだろう。
別に、他の生産スキルよりも錬金術が勝っているわけではない。むしろ、負けている点も多いと言える。だが、ただひたすらに『便利』なのだ。
『便利』さとは、それだけでも大きな力をもつ。
そういった理由から各方面から注目を集めている錬金術。その使い手達が集い、技術を高め合っているのが『錬金同好会』だ。
ある意味、民間においては最も『スキルへの理解と実用性が高い集団』とすら噂されている。そんなスペシャリスト……いいや、ジェネラリストの集まりだ。
なお、彼らの原動力はエロである。一応他にもあるが、8割エロである。
野放しにしちゃいけないけど、法的には縛れない変態ども。それが錬金同好会に対する一般的な評価であった。
癖の強い者達だが、持っているスキルと知識は凄まじい。誘いの手はごまんとあっただろう。
なのに、彼らが手を握った相手は……。
「何故俺達との面会を受けてくれたのか。それはまだ不明だ。気を抜くなよ」
「俺はお前のボディガードのつもりで来てんだ。そこだけは任せろよ」
幼馴染同士、軽く拳を合わせた後。
遂に目的の部屋へと到着し、山下は扉をノックした。
「すみません、打ち合わせをお申込みした山下です。入ってもいいでしょうか?」
『どうぞ、お入りください』
「失礼します」
ガチャリとドアを開け、山下は会社員時代に培った営業スマイルを相手に向けた。
そして、すぐに硬直する。
「お待ちしておりました、山下さん。川島さん」
山下兄と、その幼馴染に向けられた柔らかな声。『くぐもっているものの』、それは落ち着いた男性の声だった。
しかし、性別を予想できる要素は声しかない。
頭部をすっぽりと覆う、黒い頭巾。眼の部分だけ穴が開けられ、素肌は一切見えない。
更に首から下もローブで隠されており、彼が手を広げて歓迎の意を示した際、チラリと視えた腕もスーツの袖と白い手袋で包まれていた。
異様な格好である。まるで、物語に出てくるカルト信者の様だ。
「この様な姿で申し訳ございません。これが『錬金同好会』の制服ですので、どうかご理解ください」
頭を下げてくる、黒ローブの2人組。
申し訳ないと思っているのは、声音からして本心なのだろう。しかし、それでもこの服装をやめる気はないという意思が伝わってきた。
数秒ほどフリーズしたものの、山下は復活して笑みを浮かべなおす。
「なるほど、わかりました。そういう事でしたら、仕方がありません」
省吾が視線で『いいのか?』と山下に問いかけるも、猫獣人の彼は小さく頷いて返した。
錬金同好会は自他ともに認める変態集団。服装がアレなのは、ネットでは好きに喋る事が出来てもリアルでは顔を隠したいという事なのだろう。そう、山下は考えたのだ。
だが、彼は失念している。
こいつらが、単純に『この方が秘密結社っぽくて格好良くない?』という理由で不審者丸出しな服装をしている可能性を……!
「ご理解いただき、ありがとうございます。では早速ですが、自己紹介を」
そう言って、出迎えた男が綺麗なお辞儀をする。
「私は錬金同好会会長の、『S』と申します」
「同じく、副会長の『K』です。よろしくお願いします」
隠す気のない偽名。それなのにわざわざ偽名の書かれた名刺を差し出してくる『S』に苦笑しながら、山下も礼をしつつ名刺を交換した。
「ギルド、『ウォーカーズ』のギルドマスター。山下博です」
「川島省吾です」
『ウォーカーズ』
それが、山下らが立ち上げたギルドの名前である。
彼らの呼びかけに応え、これまでに10人ほどの冒険者が集まった。しかし、全員覚醒者としての強さはそれほどない。アイラの基準で言うのなら、『C』や『R』ばかりだろう。
しかし、それでも諦めずダンジョンを歩む者達。ギルド名には、そういった意味がこめられていた。
そうして、全身黒ずくめの不審者と猫耳スーツ男の話し合いが始まる。
机を挟んで対面する両者の内、先に喋り出したのは『S』であった。
「さて、本日はそちらのギルドと我々同好会が同盟を組む……という話でよろしいですね?」
「ええ。私どもの様な新興の、弱小ギルドの呼びかけに応えて頂き誠にありがとうございます」
ギルド、あるいはクランと呼ばれる冒険者の集団は、山下が知らなかっただけで『ウォーカーズ』を結成する前から存在していた。
彼ら同様に数人から十数人が固まっただけの、名ばかりなギルドもあれば、有名企業が事実上の傘下にしている数十人規模の物もある。
「いえいえ。新興というのなら私達も同じです。そもそも、覚醒者自体まだ2年そこらの存在ですから」
明るく答えた『S』は、やや前のめりになって山下を……正確にはその耳を見つめる。
「時に……突然で失礼なのですが、その耳はやはり本物で?」
「……ええ、そうですが」
「なるほど」
何やら納得したように頷き、彼は隣にいる『K』に視線を向けた。
どういう事かと山下もそちらに目を向けると。
「うっく……ひっぐ……!!」
「えっ」
何故か、頭巾の下で『K』が泣いていた。
「こんなの……こんなのあんまりだぁ……!!」
「あの、彼は……?」
「失礼。副会長は重度の『ケモナー』でして。獣人の方々のケモ度が足らないと悲しんでいるのです」
「そんな取ってつけた様な猫耳……!どうせ、どうせ複乳じゃないんだろ……!?」
「どうか、彼の発言は気にしないでください。変態の世迷言ですので」
「は、はあ」
想定の2倍ぐらい濃いのが来ちゃったなぁと、山下は思わず遠い目をする。彼も錬金同好会の噂を聞き、妹達を置いてきた。変態の被害にあうかもと警戒したので。
奇人変人の発言に、笑顔で答える覚悟が山下にはあった。だが、まさか己の乳首の数を想像されて泣かれるとは思っていなかった。
もしも彼らの命の恩人がこれを聞いたら、『予想できなくて当たり前だと思います。というか相手を病院に送りましょう。頭か心の』と言うだろう。
「本題に移りましょう。今回我々が同盟を組むにあたって、お互いが相手に求める事の確認をしましょうか」
「ええ、そうですね」
もしもこれで『自分や妹の獣度合いを上げさせる実験をさせろ』と言われたら即座に帰ろうと、山下は心の中で強く誓った。
ただでさえ、彼は最近マタタビや猫じゃらしを視線で追ってしまうのである。これ以上人類から離れるのはごめんだった。
「まず私どもからご提供できるのは、『最新型の戦闘用ゴーレムとそれを操る術者』。そして各種『魔道具』です。目録はこちらに」
そう言って差し出された紙を受け取り、山下は素早く目を通す。
内容におかしな所はない……というか、あまりにも好条件過ぎて逆におかしい。
警戒心を引き上げ、猫耳をぱたりと倒した彼に『K』の鼻息が少し荒くなる。
「……そして、私達『ウォーカーズ』からは『素材の提供』と『レベル上げ』のお手伝い、ですね?」
「ええ。知っての通り、我々は錬金術師。スキル枠の最低1つは非戦闘系の、か弱い生産職ですから。近々解禁される『ドロップ品の自由販売』の恩恵を受けるには、誰かの助けが必要なのです」
「それはわかりますが、ダンジョンの難易度はきちんと規定通りでいかせて頂きますし、無茶な行動は控えて頂けると思って良いんですよね?」
「勿論。餅は餅屋と言いますから。ダンジョンの危険度は、あなた方の方がお詳しいでしょうし。我々は『理想』に出会うまで絶対に死ねない。ダンジョンでは基本的にそちらの指示に従いますよ。そういった内容の誓約書も用意してあります」
「……わかりました。疑う様な事を言ってしまい、申し訳ございません」
「いいえ。貴方も組織の長だ。構成員の心配をするのも、契約を明確にするのも必要な事です」
「恐縮です」
山下らがお願いして組んだ同盟だが、珍妙な格好こそしているものの錬金同好会に高圧的な雰囲気は今の所見られない。
ただ邪な目で、舐めまわす様に山下の耳を見ているだけだ。
だからこそ、分からない事が山下達にはある。そして未知とは恐怖だ。それを確かめる為、彼は視線を鋭くさせる。
「……これは、ただの興味本位なのですが」
「なんでしょう」
「なぜ、私達と手を組んでくれたのですか?同盟を組む上でうちよりも好条件を提示した所は、幾つもあったと思いますが」
政府で話し合われている、『ドロップ品の一部販売自由化』。そして、『生産系スキルで作った物品の一部販売許可』。
これが施行されるのも近いと、様々な国の企業がより大きな利益を上げようと動いている。
金も、人も、実績も碌にない山下とその仲間達。最初の4人の他に、更に10人ほど仲間を加えたとはいえ……とてもじゃないが、大企業が抱える様なギルドに勝る点などない。
それこそ、ギルドではないが『インビジブルニンジャーズ』や『千葉で助けてくれた3人娘』の様な戦闘力でもあれば別だが、『ウォーカーズ』では束になっても彼ら彼女らには勝てない。
真っすぐに疑問をぶつける彼に、『S』は小さなため息を吐く。そして、観念した様に両手をあげた。
「ええ。もっともな質問です。この疑念を抱えたまま手を組めば、いつか大きな事故を招くかもしれませんね」
「答えて頂けるのですか?」
最悪、同盟の話はなかった事にされるかも思っていた山下が驚く。
そんな彼に、『S』は頭巾の下で小さく笑った。
「信用が第一ですからね。こんな格好ですので余計に」
姿勢を正した錬金同好会の会長が、『敬礼』をする。
「実は私、警察官の中でも上の方にいるんです」
悲報。変態を取り締まる側の人間が変態集団の長だった。
「こう言うと失礼なのですが、あなた方を選んだのは『大手じゃないから』です。大きな会社の関係者だと、知り合いが来るかもしれないので。同好会の事は妻子にも秘密にしてありますし、キャリアに傷がつく。出来るだけ、本名と表の身分は明かしたくありません」
「あ、ちなみに私は裁判所の方で働いています。詳しい事は、同じく秘密で」
ついでみたいに言う、副会長である『K』。
この流れで言うあたり、彼も裁判所関係の仕事で確かな地位を得ているのだろう。
山下は日本の未来に思わず遠い目をした。そして護衛を名乗り出た幼馴染は『変態トークに巻き込まれたくない』と無言で寝たふりを始める。
「錬金同好会のメンバーの中にも、表の身分を知られたくない人が結構います。まあ、やっている事がやっている事ですから。そういう事情で、組める相手は限られているのです」
いやー、困った困った。と、頭を掻きながらぶっちゃける『S』。
彼らの本音トークに、山下の頬はヒクヒクと引きつる。
「その……そうですか……」
「せっかくですから、親睦を深める為に性癖を教え合いましょう!」
まるで良い事を思い付いたとばかりに、『S』が手を叩く。隣の『K』も深く頷いていた。
彼らの発言に山下の顔から表情が消えたが、無理からぬ事だろう。
「私の理想であるホムンクルス嫁は身長3メートル、超ムキムキで、岩盤だろうと一撃で砕ける様にしたいです。昔見た、ブ▢リーの映画で性癖を壊されてしまって……。あ、背が低くても王族のプライドを持っているマッチョとかも好きです!」
「そして私の性癖はケモ度2以上。できれば『3』辺りがベストです。最初はね、猫耳と猫尻尾だけで満足だったんです。でも、気づけば随分と遠い所まで来てしまった……」
テンションが上がったのか、嬉々として性癖を語りだす同好会の2トップ。
山下は警察に通報しようか迷ったが、目の前に警察官がいたのを思い出し尻尾をへにゃりとさせるのだった。
「……え、もしかしてこれ俺も言わないといけない流れ……?」
「ぐー」
親友の言葉に答えず、省吾は寝たふりを続行した。
* * *
何やかんやあって、無事に錬金同好会とウォーカーズの会合は終了。
貸し会議室に残った『S』と『K』が、静かに語り合う。
「第一段階は上手くいきそうですね」
「ああ。だが、彼らの力は未だ未知数だ。出来るだけ真面目そうなギルドを選んだが、戦力が足りなすぎる様では困る」
「そこは、レベル上げを手伝えば済む話でしょう」
会長の言葉に、副会長は冷静に答える。先ほどまで『複乳はさぁ!遊びじゃねえんだよ!』と叫んでいた人とは思えない。
「努力をした凡人と、努力しない天才では前者が勝る。それは覚醒者でも変わりません。それでいて『鑑定』により成果が数字として分かり易いから、モチベーションも保ちやすい」
「違いない。努力すれば結果が出る。それがわかっているだけでも、人は頑張れる」
机に両肘をのせ、指を組む『S』こと同好会会長。
「我らの戦闘用ゴーレムも、惜しみなく支援に出すとしよう。『計画』の為、彼らとは持ちつ持たれつの関係で高め合っていきたいものだ」
「そうですね。我々の『悲願』を成就させる為にも」
この2人は、いわゆるエリートと呼ばれる人種だ。
幼少期から勉学と対人能力を鍛え、才能と努力と家柄を兼ね備えた『勝ち組』である。
そんな彼らが、頭巾の下で自嘲するような、あるいは獣の様な笑みを浮かべていた。表情を取り繕う必要も、今はない故に。
「……後世で、我らは『人類を滅ぼした大罪人』と呼ばれるかもしれないな」
「さて。もしかしたら『人類を次のステージに導いた救世主』と言われるかもしれませんよ?」
「ふっ……違いない」
錬金同好会。彼らは、とある計画を推し進めていた。
本来は秘すべき錬金術の知識を惜しげもなくネット上に流し、あまつさえ『ホムンクルス』の製造をより容易にする為のアプリまで作ろうとしている。
そう、彼らの目的とは。
「『全人類がホムンクルス彼女彼氏をもったら、全員同類だよね?』計画……通称、『ZZ』計画は、絶対に完遂する……!!」
単に周りから『あいつらエロだぜー!』と言われない事だった。
中途半端に社会性のある変態どもである。
錬金同好会
「だって自慢のホムンクルス嫁と誰に指をさされる事もなく街を歩きたいじゃん」
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.錬金同好会って大半がマイナー性癖なの?
A.いいえ。大半が『オッパイのでかい美女が大好きです!!』な人達です。一般性癖ですね。
『S』さんと『K』さんが会長と副会長に選ばれているのは、同好会の中でも特に行動力があるからです。他のメンバーは、纏め役とかやりたがらないですし。




