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【書籍化決定】コミュ障高校生、ダンジョンに行く【本編完結済み】  作者: たろっぺ
最終章 コミュ障たち、現代ダンジョンに行く
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第百八十二話 役者は揃い そして

第百八十二話 役者は揃い、そして





 蒼と金の鮮やかな装飾が施された、鎧に似た純白の鱗。


 それを偽りの月光で輝かせ、竜人は槍の穂先を僅かに下げた。


『■■■■……』


 来る……!


 踏み込みは、ほぼ同時。互いに剥き出しとなった大地を踏み砕き、敵へと吶喊する。


 顔面狙いで突き出された穂先を剣で打ち落とせば、恐ろしい速度で引き戻された槍が2撃目を放ってきた。


 心臓へ迫る白金の刃を、鋼色の刀身で横に弾く。直後、3撃目が脇腹を抉った。


「づっ……!」


 大丈夫だ、浅い。胸甲で多少威力は減衰した。だから、ビビるなっ!


 竜人とて万全ではない。こうして打ち合えたのがその証拠だ。


 振るわれた石突を籠手で受け、反動を利用し横薙ぎで繰り出された穂先を剣で弾く。衝撃が骨に響くが、耐えられない程ではない。


 追撃に踏み込んだ竜人に、『ブラン』が戦斧で横から斬りかかる。


 右手1本での斬撃は、跳ね上がった尻尾で弾かれた。間髪入れずに竜人の爪が兜を切り裂く。


 火花と共に罅が入る白い兜。止めとばかりに振り下ろされた槍を、間に滑り込んで受け止めた。


「ぐっ!」


 衝撃に足が地面に埋まる。背後でブランが動こうとするより先に、竜人の尾が横薙ぎに振るわれた。


 長い尻尾に纏めて吹き飛ばされ、数度バウンドした後に左手をつきながら着地。数メートルほど離れた位置に、白銀の騎士がゴロゴロと転がる。


 ブランは既に限界。視界の端では、『右近・左近』も立ち上がろうとして足が砕けたのが見えた。


 それでも、ミーアさんの氷の槍が竜人へ降り注ぐ。数十の刃に、竜人は無造作に顔を上げその顎を開いた。


『■■■■───ッ!』


 白い炎が、天蓋となって辺りを包み込む。


 一瞬で溶解した槍の雨。竜人はそのまま首を振るい、こちらへと炎を浴びせにきた。


「舐めるなっ!」


 下から掬い上げる様に剣を振るうと同時に、風を放出。自分とブランに迫る炎を打ち払う。


 視界が白で染め上げられた隙に、竜人の背から1対の翼が生えていた。


 皮膜に虹色の紋様が浮かび上がり、魔法が発動。奴の足が、大地から離れる。跳び上がった白い怪物は、そのままこちらに背を向け飛んでいった。


 まさか、逃げる気か……!?


 全力で地面を踏み込み、跳躍して加速しながら飛翔する。金色の波紋が弾け、奴の背を追いかけた。


 フリューゲルの出力が安定しない。当たり前だ。4分の1吹き飛んで、まだ機能している今の方がおかしい。


 だが、たとえ壊す事になっても奴を逃す事だけは……!


 精霊眼が、ダンジョンの大気がうねるのを感じ取る。自分達を転移させた術ではない。流れる先は、奴自身だ。


 再生しようとしている。あの、強大な竜の『外装』を。


 あの竜人自体は、『ドロップ品』に過ぎない。そして往々にして、一部の機能を除き核となる魔道具より外側のモンスターの方が強いものだ。


 冒険者達を薙ぎ払った一撃は、奴にとっても乾坤一擲。自身の消滅を早めてでも放った、決死の攻撃である。


 であれば……!


「オオオオオッ!」


『■■■■……!』


 追いすがり、竜人の背へと斬りかかる。


 振り向きざまの槍で打ち払われるも、構わず剣を構え直し突撃。距離を取らせてはならない。いつ、フリューゲルが機能停止するかわからないのだ。



 ───GUOOOOOOOッッ!!



 その時、遠くから怪物どもの雄叫びが聞こえてきた。考えずともわかる。上の階層にいたサクスやワイバーンが、このフロアに押し寄せてきているのだ。


「アイラさん!」


『こちらは構うな!君は君の戦いに集中しろ!』


「っ、はい!」


 繰り出された突きを柄頭で横に弾き、反動で自身を左側に押し出す。そのまま風の放出で横回転し、竜人の首目掛けて斬撃を放った。


 炎を纏った刃は、しかし引き戻された槍の柄で受けられる。直後、尾がこちらの脇腹にめり込んだ。


 悲鳴すら出てこない。かすれた声が喉を震わせ、弾き飛ばされる。


 回転する視界の中、地上では半壊した白亜の都市で戦う冒険者達の姿があった。


 そして、階段の方角では砲声。教授が弓でサクスの首をへし折り、蹴りで別の個体の頭蓋を砕いている。『アリアドネ』は、ワイバーンを近づけまいと拳銃と砲撃で牽制している様だった。


 どこもこちらへ援護をくれるだけの余裕はない。ミーアさんも疲弊している。この高度では……。


 せめて、地上に落とす!


「ずぇえええあああああ!」


『■■■■ッ!』


 概念干渉で風を踏みしめ、体を一瞬だけ固定。直後に膝をたわめ、脚力と風を使い最高速度で竜人へと突撃する。


 袈裟懸けの斬撃は槍で受け流されるも、すれ違うなりすぐさま反転して背後へ。振るわれた尻尾をバレルロールで回避しながら下に回り込み、右足へと剣を振るう。


 だが、蹴りによって鋭い爪が切っ先を弾いた。直後の槍の突き下ろしを胸甲で受け、貫通するより先に身を捻って穂先を滑らせる。


 火花と衝撃が襲う中、体を奴に向けたまま後ろ向きに飛行しながら上昇。正面を抑えた。


 逃がしはしない。絶対に。


『■■■■……!』


 苛立たし気に唸り、竜人がランスチャージを行う。皮膜に浮かんだ紋様が強く輝き、脇に構えた槍を繰り出してきた。


 回避すれば、そのまま抜けられる。刀身を左手で握り、ハーフソードにて穂先を受け止めた。


 衝撃に押し込まれながら、フリューゲルを全開で稼働させる。ミシミシという異音は、はたして腕からか、それとも剣から出ているのか。


 激しい火花と共に穂先が上に滑り、柄と剣腹がぶつかり合う。至近距離に迫った竜人が口を開き、口腔に魔力を集束させた。


 すぐさま刀身から手を離し剣を上に振り抜いて、穂先の装飾に刃を引っ掻けて槍を上に引っ張る。同時に、腰を曲げて頭上を通過するブレスを避けた。


 瞬間、白い鱗に覆われた膝が自分の腹部を抉る。胸甲が大きくへこみ、胃の中身がせり上がってきた。


 吐いている暇などない。歯を食いしばり、左の鉄拳を竜人の脇腹に叩き込む。


『■■■ッ!?』


 互いに弾かれ、そのまま弧を描く様な軌道で離れた距離を縮める。


 繰り出された槍に横から剣をぶつけて逸らしながら、長い柄に刀身を滑らせて指を狙った。


 だが、それより先に奴の右腕がこちらに突き出される。五指を揃えた貫手は、ギラリと爪を輝かせた。


 頭蓋を打ちぬかれる前に、どうにか左腕を挟み込む。籠手が弾け飛び、割れた装甲が宙を舞った。衝撃で仰け反りながら、大きく吹き飛ばされる。


 弱ってなお、この強さか……!


『■■■■───ッ!』


 バランスを崩した自分に、竜人が両手で柄を握った槍を振り上げた。鈍器でも振り下ろす様な一撃に、こちらも再びハーフソードで対応。刀身で穂先を受け止める。


 重い。押し込まれ、右肩を白金の刃がめり込んだ。血が噴き出し、激痛に視界が涙で滲む。


 これ以上はまずいと、右足を折り畳み互いの間にねじ込んで前蹴りを放った。


 硬い鱗と、その下の肉を打つ感触。竜人が歯を食いしばり、間髪入れずに尾の横薙ぎを放ってくる。


 脇腹へ衝撃。胸甲がとうとう砕け散り、内臓が揺さぶられる。


「かっ……!」


 視界が点滅する。兜は再構築が間に合っておらず、胸甲は砕かれた。次の一撃は、死ぬ。


 上をとり、止めとばかりに槍を振り上げた竜人。逆手に握り、必殺の意気で穂先を突き下ろしてきた。


 思考ではなく、本能で剣の鍔を軌道上にねじ込む。激しい金属音と共に、突きは弾かれこちらの右腕を抉るにとどまった。


「が、ぁああ!」


 左手を伸ばし、奴の足を掴む。手の甲から炎を噴射し、力任せに体を回転させ下へと放り投げた。


 竜人はすぐさま体勢を立て直し、地上の都市を背にして翼を広げる。それに対し、こちらも剣を構え直した。


 再び、互いを仕留めんと突撃する。穂先と刀身がぶつかる寸前、地上から伸びた青白い光が竜人の背中を貫いた。


『■■■■ッ!?』


 それは、氷の槍。精霊眼が、腕を振り抜いた姿勢のブランと傍に立つミーアさんを捉える。


 この好機は、絶対に逃せない!


「しぃぃぁああああ!」


『■■■■ッ!』


 鈍った槍を打ち払い、その勢いを利用して再度剣を振り上げながら斜めに近づく。


『蛇行斬り』。その応用。空中では初めてだが、決めてみせる。


 防御にと動いた槍の柄を躱し、竜人の翼へと剣が食い込んだ。そのまま、風と炎の放出で強引に刀身を押し込む。


「おおおおおお……!」


『■■■ッ!』


 この距離では槍を振るう事はできない。竜人はこちらの左わき腹を貫手で貫き、奥へとねじ込んでくる。


 心臓が抉り出されるのが先か、翼を斬り落とすのが先か。


 雄叫びと共に、腕輪へと魔力を叩き込む。限界を超えた出力に赤熱しながらも、雫さんの作品は応えてくれた。


 紅蓮が、白い翼を焼き切る。振り抜いた衝撃で竜人との距離が離れ、心臓に迫っていた腕が抜けた。


 痛みを感じない。脳内麻薬が、異常な程あふれ出ている。


 そのせいかぼやける思考の中で、落下寸前の竜人が顎を開いている事に気づいた。


 集束する魔力。刹那、白い熱線が襲い掛かる。


「っ!」


 回避は間に合わない。フリューゲルを盾にし、受け止める。


 ここまでの激戦に、既に鋼で構成されたマントも限界を迎えていた。ブレスを受けた箇所が溶け落ち、僅かに減衰した熱線が右腕を焼く。


「が、ぁああああ!?」


 鈍っていたはずの痛覚が、このタイミングで戻ってきた。絶叫が喉を震わせ、飛行を維持していた魔力が乱れる。


 結果、竜人共々地上へと落下しはじめた。


 白亜の都市に落ちる、ほんの十数秒間。重力に引き寄せられながらも、竜人は槍を振るってくる。


 それに、再生した右腕で対応。ボロボロの剣を振るって穂先を弾き、返す刀で首を狙った。


 柄で受けられ、石突が脇腹に放たれる。掬い上げる様なその一撃を、蹴りつけて防いだ。


 続く鋭い突きには迎撃が間に合わず、左肩を抉られる。そのまま竜人は槍を振り回し、傷口が広がるのを咄嗟に剣を手放し右手で柄を掴む事で防いだ。


 ぐるり、と。回転した直後に穂先が抜け、真下へと勢いよく放り投げられる。背中から石造りの屋根へとぶつかり、天井をぶち抜いてその下の床まで貫通した。


 4か、5階建てだった建物の1階にまで落とされ、肺の空気が全て押し出される。


「っ……ぁぁ……!」


 それでもどうにか立ち上がり、鞘の中に剣を再構築。鎧まで直す暇はない。すぐに建物の外へ飛び出せば、凄まじい衝撃が背後から襲ってきた。


 広い道路に転がり、片膝をつきながら振り返る。自分が落下したのだろう、白と青で彩られた神殿めいたデザインのアパート。それが、今や文字通り半壊し瓦礫の山を作っていた。


 ゆらり、と。舞い上がる粉塵の中から、槍を携えて現れる竜人。


 切り落とされた翼以外は傷らしい傷のない怪物に対し、必死に乱れた呼吸を整えながら剣を抜き立ち上がる。


 集中が、保てない。ここまでの激戦で負った傷は、既に回復している。だが、脳がまだ負傷したままだと誤認していた。


 ありえざる再生力に、人としての機能が追い付いていない。幻痛に神経が焦がされ、視界が明滅する。


 立っているのがやっとの自分に対し、竜人が穂先をピタリと向けた。


 攻撃がくる。揺らぎそうな体を気合で支え、剣を構えた。1分1秒でも長く、こいつを抑えねばならない。


『───あと少し耐えろ、京ちゃん君!』


 イヤリングから、声が響く。


『援軍が、到着する!』


「えん……?」


 こちらが呟いたのと同時に、竜人が石畳の地面を踏み砕いた。凄まじい加速で、槍を突き出してくる。


 それを防ごうと剣を掲げた、瞬間。



 爆音が、辺りを包み込んだ。



「っ!?」


『■■!?』


 竜人と揃って、咄嗟に横へ跳んで衝撃をやり過ごす。舞い上がる瓦礫の中、建物を打ち砕いて通り過ぎていった物を精霊眼が捉えた。


 ───手裏剣?


 竜巻を纏った巨大な手裏剣が通過した、直後。粉塵に紛れ、白銀の影が飛び出してくる。


 それは、白い鎧を纏った騎士。だが左の手足は肘と膝から先が剥き出しで、黒いメインフレームを晒していた。


 鎧全体に罅の入ったその騎士は、しかし滑らかな動きで長剣を逆袈裟に振り抜く。


『■■……ッ!』


 竜人の反応が僅かに遅れ、その刃が奴の左目を切り裂いた。


 半瞬遅れて鮮血が舞い、怪物は雄叫びをあげ槍を横薙ぎに振るう。騎士は機械の様な冷静さでその攻撃を刀身で受けながら、衝撃に逆らわず背後へと跳んだ。


 そこには、もう1体の騎士がいる。白銀の兜と胴体に、手足だけが青く塗装された隻腕のゴーレム。ブラン。


 ならば、その横に並ぶのは───。



「びゃく……れん?」



 騎士は、右手で油断なく剣を構えながら。


 真新しいフレームが剥き出しの左手で、サムズアップをするのだった。


「やあやあやあ!待たせたね、京ちゃん!先輩!」


 どうにか崩壊を免れている、アパートの屋上。そこから、やかましい程に元気な声が聞こえてきた。


「パーツの交換と、場所の把握に手間取っちゃった!でもね!」


 黒いマントをたなびかせ、白い着物を着た彼女。


 同時に、粉塵を打ち払い、杖を手にした魔法使いも石畳の上を歩いてくる。



「最っ高の登場でしょ!そう思わない!?」


「遅いんだよ、この自称忍者……!」



 溌溂とした笑顔に、悪態で答える。それでも、口元に浮かぶ笑みが堪えきれなかった。


 こちらに対し、竜人は右手側を向けながら槍を構える。死角となった左側を庇う姿勢。だが、やはり隙が見えない。


 自分の左右に並んだ2体のゴーレムが、それぞれ長剣と戦斧を構える。


 決して、万全とは言えない。白蓮もブランも、本来の性能は発揮できないだろう。


 それでも。


「ふぅぅ……」


 剣を構えたまま、深呼吸を1回。脳を焼く激痛は、いつの間にか止んでいた。


 誰も彼もがボロボロな状態。相手も負傷し、魔力の枯渇を気にしながらとは言え、決して優位とは言えない中。


 しかし、だと言うのに。


「『インビジブルニンジャーズ』の(いくさ)、見せてやろうぜ!」


「その名前、帰ったら絶対に改名しましょうね」


「今は戦いに集中してください、2人とも」



 負ける気がしない。





読んでいただきありがとうございます。

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