表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/173

13話「手に入れた何か」

 アルトレイアの虎徹は見掛け倒しの役立たずに成り下がった。

 いくら高周波ブレードでも電池切れじゃ使えない。

 伝家の宝刀が今はもうただの電化のナマクラだ。

 だから俺はもう一人の相棒に声をかける。


「白夜。こうなったら俺たちで倒すぞ。こっちに突っ込ませるからあと頼む」

「猪突猛進ってやつね。分かったわ」


 猪みたいな直線的な体当たり系はイベントホライゾンと相性がいい。

 なんたって待ち構えてれば勝手にぶつかって勝手に自爆してくれる。

 だから作戦はこうだ。


 俺「うぇーい、うぇーい(挑発)」

  ↓

 猪「ぷぎぃー!(怒)」

  ↓

 突進。

  ↓

 俺回避。

  ↓

 猪は急には止まれない。

  ↓

 イベントホライゾン

  ↓

 消失。


 シンプルで分かりやすいだろ?

 つまりそれだけ実戦的ってことだ。

 いや、ほんとほんと。

 そんなわけで俺はその作戦を実行に移すために大猪の前に立つ。

 と、ちょうどういいところに折れた竹が転がってる。

 俺はそれの先端を斬波で斬り飛ばしてから拾った。


「竹やりか。なかなかサマになっているな」

「どーいう意味だよ、こら」


 アルトレイアの奴、自分の出番が終わったと思ったら腕組みして遠目に見てる。

 いい気なもんだな。

 元はと言えばあいつが頼りないからこっちが頑張ろうってのに。

 いや、今はやめよう。

 とにかくこの大猪を上手く白夜のイベントホライゾンに飛び込ませないと。

 俺は、トンボを捕まえる時に指をクルクルさせる要領で竹やりを回した。

 そのままゆっくり大猪に近づく。

 一歩……。二歩……。

 そろりそろり。

 なんだかんだでもう目の前。

 今だ!


「うぇーい!」


 俺は気合と共に竹やりで大猪の鼻を突く。


「――――ッ!」


 大猪が叫んだ。

 もちろんこんなの大してダメージにもならない。

 それでもびっくりさせることには成功だ。


「よし。そのままついて来い!」


 俺は竹やりを持ったまま白夜の方に走る。

 後ろからは怒った大猪が俺の背中を狙って猛ダッシュ。

 やべぇ、超早ぇ。

 陣足使っても直線ダッシュじゃ負けてる。

 それでも俺は走る。

 仲間のため、正義のため、この地区に住むみんなの平和のため。

 ウソです。正直今はそんなのかまってらんない。

 早く逃げないと俺が最初の犠牲者になる。


「白夜!」

「下よ!」


 大猪から逃げる進路の先。

 そこに居る白夜が俺の合図で両腕を突き出す。

 出現したのは存在感の無い人間大の黒点。

 白夜はそれをやや高めに浮かせて、地面との間に隙間を作ってくれてる。


「おっしゃ――!」


 俺はそのスペースに向かってスライディング。

 イベントホライゾンの下を潜り抜ける。

 そしてちょうどう白夜の足元で止まった。  

 いい感じだ。

 ただ問題なのは、白夜は今日もスカートで、ローアングルな俺に白いフリフリ付きのが見えちゃってることだ。


「に、似合ってるよ? ぐぇッ!」


 頭を踏まれた。

 くそ。白夜がだんだんと暴力的になってる気がする。

 せめて土足の時くらい遠慮しろよ。

 でもまぁ、これで大猪はイベントホライゾンにまっしぐらだ。

 俺が潜り抜けた隙間からも、こっちに向かって突進してくる大猪の足が見える。

 と、いきなりその足が消えた。

 それから急に影が差したと思ったら、俺たちの背後に茶色の巨体が降ってきた。

 大猪。

 マジかよ。

 こいつ、イベントホライゾンを飛び越えたのか?

 待て待て、そんなの反則だろ。

 あんなデカい猪がジャンプとか無茶だって。


「修司。あいつクシャーナたちの方に!」

「げっ」


 まずい。

 大猪はイベントホライゾンごと飛び越えた俺たちを無視してる。

 向かった先は、離れたところで見てたクシャナさんとミノさんのところだ。

 油断した。

 まさかこんな展開になるなんて。

 俺は跳ね起きると同時に斬波を撃つ。

 狙ったのは後ろ脚だ。

 とにかく機動力を奪って突進を止める!

 ところが――


「弾いた!?」


 たしかに直撃した斬波。

 だけど大猪にダメージを与えることなく跳弾。

 山の中の木を一本ぶった斬って消滅した。


「ウソだろ? 生身で反射!?」


 あり得ない。

 野生の魔物が、どうしてそんな。


「呆けるのはあとだ!」


 駆けだしたアルトレイアの声で俺も大猪のあとを追う。

 でも遠い。

 元々直線スピードはあっちが上。

 俺は追いつけないし、アルトレイアも同じだ。

 くそ。

 大猪はもうクシャナさんたちの目の前だ。

 間に合わない!


「ぬぉぉぉ! 百姓舐めるでねぇ――!」


 叫ぶと同時にミノさんが大猪に向かって飛び出した。

 そして自分の何倍もある巨体と真正面からぶつかり合う。


「止めた!?」


 すげぇ。

 まじかよ。

 たしかにミノさんは人間よりだいぶ体が大きい。

 だけどさすがに大猪の前じゃ子供みたいなもんだ。

 それなのに突進を止めるなんてハンパねーよ。


「お、おら長くは持たねぇだ。早くなんとかしてけれ!」


 ヤバい。

 ミノさんが若干押され始めてる。

 今のうちに仕留めないと。

 でもどうする?

 斬波は効かないし、たとえ倍化させたって単純な打撃は通用しそうにない。

 そうなるとダメージになりそうなのは火か。

 そうだな。さすがに燃やせば倒せるだろ。

 そう思って俺は右手に炎を灯す。

 そいつをハイパーバリーで強化。

 蒼炎まで火力を上げる。


「待て。下手に火を使うと巻き込むぞ。それに山火事にでもなると事だ。範囲攻撃はダメだ」

「分かったよ。じゃあこれならいいんだろ、っと」


 俺はオクシモロンの負荷結合を使って蒼炎と竹やりを合体させる。

 レトリックは、事実改変を奥義にしたゲオルギウスの錬金術の結晶だ。

 事実ってのは何も物理的な在り方だけのことじゃない。

 むしろそれが持ってる『性質』って事実を上手く利用するのがゲオルギウス流だ。

 必要な『性質』を残して、不必要な『性質』を破棄する。

 そうやって自分の都合のいい『事実』をでっち上げれば上々。

 レトリックはレトリケーだったころから一貫してそう言う魔導具だった。

 そして今、その機能の一つ、付加結合を使って竹やりから『素材』に関する性質を破棄。

 残った『刺し貫くもの』って性質を蒼炎と融合。

 完成したのは細長く伸びた青炎の槍。

 これは俺自身がレトリックと融合してるから持てるし熱くないけど、他の人にとっては色々アレよ。

 まぁ、とにかくこれでむやみに火をまき散らす心配は無い。

 外さなければ、だけど。


「ミノさん、チャンス作って!」

「人使いが荒いべ。そしたらこれならどうだべ!」


 言うなり、ミノさんは大猪の牙を掴んだ。

 それから腰を入れて相撲みたいにうっちゃりを繰り出す。

 もちろん実際に投げれたわけじゃないけど、大猪がよろめいて俺に側面をさらした。


「ナイス! 貫け。ファイヤージャベリン!」


 どうせだからカッコよく言ってみた。

 同時に渾身の力で投擲。

 ファイヤージャベリンは大猪の側頭部に命中。

 槍としての貫通性を最大限に発揮して、頭の反対側から大輪の火の花を咲かすように噴出した。


「ひ、ひぃ――」


 まさに目の前で起こった出来事に、慌てて後ずさるミノさん。

 ごめんね、びっくりさせて。

 でも脳天を打ち抜いたから大猪はほぼ即死だ。

 炎が収まると同時に崩れ落ちた大猪。

 それを確認して、俺はクシャナさんに駆け寄った。


「ごめん。大丈夫だった?」

「ええ。あなたのおかげで無事です。それとミノにも助けられましたね」

「そうだ。ミノさん、ありがとう。クシャナさん守ってくれて、助かったよ」

「あ、ああ。そらかまわねぇだが、すげぇ威力だな。おめさほんとに強かったんだなぁ」

「なに言ってんの。ミノさんだってすごかったじゃん。よくあんなデカい相手止められたね」

「なんつーか、火事場の馬鹿力、いや火事場のミノ力だべ。自分でも信じらんね」


 いや、いざと言う時は出るもんだね、ほんと。

 ミノさん農家より戦士にでもなった方がいいんじゃない?

 まぁ、それはともかくミッションコンプリートだ。

 あとはみんなのとこに戻って、大猪の死体をどうするか相談するだけなんだけど……。


「アルトレイア、なにしてるんだ?」


 ふと見ると、アルトレイアが野太刀を使って大猪の死体に切れ込みを入れてた。

 高周波使えないから大変だろうに、なんのつもりだ?


「うん。ちょっと気になることがあってな」


 言ってアルトレイアは切れ込みから手を突っ込んで大猪の体の中をまさぐった。

 おいおい、ほんとなんだよ。

 内臓マニアとか、そういうアレか?

 もっともアルトレイアは俺のそんな疑惑なんかお構いなし。

 しばらく腕をグリグリやったあと、何かを見つけたらしく一気にそれを引っ張りだした。

 なんだろ、あれ。

 位置的に言ったら心臓か?

 でもなんか真っ黒な塊だし、違うよな。

 って言うか、なんか見覚えある気もする。


「アルトレイア、それってなに?」

「これか? そうだな。よく分からないが、そのうち分かると思うぞ」


 なんだよ、その答えは。

 結局アルトレイアはそれ以上教えてくれずに、黒い塊を持って帰った。

 俺たちも大仕事をしたからってことで、その日は早く上がらせてもらった。

 俺はなんとなくアルトレイアのことが頭に引っかかったままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ