11話「その冒険者、Aランクにつき」
「だ、誰?」
いきなり会話に割り込まれた俺は思わずそう聞いた。
て言うか、みんなの視線は完全に一か所に集まってる。
「今日のクエストの参加者だ。人手が足りなくて困っているのだろう? 私でよければ手を貸そう」
女エルフは妙に朗らかな笑顔で、やけにハキハキそう言った。
爽やか過ぎてなんか逆に胡散臭いレベル。
いや、見た目からしてすでに胡散臭いかも。
身長体格はエルフの女にしてはしっかりしてる。
普通のエルフが折れそうなくらい細いのに、この女は健康そうってくらいには骨太な感じ。
背だって俺より高いし、純粋なエルフじゃないのかもだ。
その健康優良ボディに着てるのは、なぜかカウボーイっぽい恰好。
赤茶けたパンツスタイルにブーツ。
皮のベストとポンチョっぽいマント。
金髪のロングヘア―の頭には颯爽とテンガロンハットを被って自信満々に仁王立ちだ。
そこまで完全に西部劇なのに、得物は腰にピストルじゃなくて、背負ったなっがい野太刀ってのがね。
どことなく勘違い外人みたいな雰囲気がある女だった。
「どうした。遠慮しなくてもいいぞ。私はこう見えてAランクの冒険者だからな。それはもうただひたすら頼りにしてくれても構わないぞ?」
その一言で青年団の人たちがざわめいた。
「Aランクって、あの上から2番目のAランク?」
「うん。そうだ。あるいは下から6番目のAランクと思ってもらってもかまわないな」
「いや、わざわざ分かり難い方で言いなおさなくいいから」
でもすげーな。
Aランクか。
見た目20歳かそこらだろ。
その歳でもうAランクとかなれるもんなんだな。
俺がそう思ってるとミノさんが遠慮がちに前に出た。
「あんた、手伝ってくれるって話だけんど、ほんとにAランクだべか?」
「証拠ならギルドカードがあるぞ。ほら。存分に見るがいい」
そう言うと女はベストの胸ポケットからギルドカードを取り出し、ご老公の印籠みたく突き出した。
「うぐ。ま、眩しいだ。この輝きは、まさしくAランクの放つオーラだべ」
「いや。ミノさん、反射反射。Aって書いてある銀色が光跳ね返して目に当たってるから」
冒険者の持ってるギルドカードの表面には割と大きくランクが書いてある。
その色はランクによって違うみたい。
女の持ってるカードのAはキラッキラの銀色で、それが太陽の光を反射してミノさんの目を攻撃してた。
偶然なんだかわざとなんだか、ミノさんも字、見えてないだろ。
「Aランクなのは本当みたいだべな。そしたら悪いけんど手伝ってくれろ」
信じちゃったよ。
いや、別にそこにウソは無いけどさ。
そんなザル確認でいいんだったら、俺も後で自分のカードのFを銀色に塗って次から誤魔化そうかな。
「うん。くるしゅうないぞ。すべて私に任せておくがいい」
女エルフは時代劇みたいな返事で笑顔を作った。
ほんとに大丈夫かよ、この女。
「ところでなんて呼んだらいいの? 俺は諸神修司って言うんだけど?」
「アルトレイア・バントラインだ。アルちゃんでいいぞ」
いいのかよ。
ほんと変な女だな。
「じゃあ俺もシュウちゃんでいいよ」
「了承した。それではよろしく頼む。シュウちゃん」
そうして俺たちは握手を交わす。
「やっぱり普通に修司って呼んでくれない?」
そう言うとアルトレイアは少し残念そうな顔をした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなこんなで大物狩りに出た俺たち。
面子は俺、クシャナさん、白夜、アルトレイア、そして運転手のミノさんの5人。
ゴブリン狩りに使わなかった荷台のきれいな軽トラに乗っての出撃だ。
「しっかしなんでこんなところにそんなに強い魔物が出るんだろうな」
荷台の上で、俺は誰に話しかけるでもなくそう言った。
だって、ヒマなんだもん。
「そんなこと分かるわけないじゃない。見つけたら直接本人に聞いてみたら?」
答えたのは白夜だった。
でもちょっと身も蓋も無くない?
「ここだけではないぞ。最近は、こういう強力な魔物が突然現れる事案が増えているのだ」
もう1人の荷台組み、アルトレイアは野太刀を床に寝させてその隣に座ってる。
ちなみにクシャナさんは助手席でミノさんをナビ中。
気配察知で俺たちを獲物のところまで案内するのが仕事だ。
「知っているか? 少し前にも代官山でヒュドラが出たのだ。幸い腕のいい冒険者が仕留めたらしいが、物騒なものだな」
「う、うん。街中にヒュドラとかびっくりするよね」
い、言えない。
腕のいいとか言われたら、『あ、それ俺だよ』とか絶対無理。
「修司は見たことあるか、生ヒュドラ?」
だから聞くなっての。
だいたい一般人のヒュドラ見たことある率ってどのくらいだよ?
「えっと、見たことあるような無いようなごにょごにょ……」
俺が口を濁してると、アルトレイアがジッと見てくる。
あれ? なんか俺を測ってない?
まさかヒュドラを倒するの成人の儀式とかなってないよな、この日本。
「フフッ。記憶が定かではないなら仕方ないな。今からそんなでは老後が心配だな」
ほっとけ。
俺の老後はクシャナさんと二人でのんびり暮らすんだよ。
と、俺が内心でそう思ってると、軽トラが静かに止まった。
「もうすぐ近くです。ここからは歩きましょう」
助手席から降りたクシャナさんはそう言って俺たちを促した。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
今度の相手はいったいなんだ?




