表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/173

50話「遅れて来た男」

「すまない。私では君を守りきれなかった……」


 瀕死のレーヴェントーレが唯一無傷な右手でデイドリームの肩を抱いた。

 そしてそこへゆっくり近づくクシャナさん。


「いいのよ。私たちは一連托生。あなたが死ぬなら私も死ぬわ」


 腕に抱かれながら、レーヴェントーレの胸に顔をうずめるデイドリーム。

 そしてそしてその目前に迫るクシャナさん。


「無念だ。デイドリーム。いや、夢路。私は君が――」

「分かっているわ、レーヴェ。分かっているのよ」


 見つめ合う二人。

 伸びていくクシャナさんの鉤爪。

 どこからか聞こえてくる気がする不吉なBGM。

 あ、ダメだ。これじゃクシャナさんが悪者みたいだ。


「ストップ、ストップ。クシャナさん、ストップ」


 やるせなくなった俺はたまらず声をかける。

 こいつらほんとなんなんだよ。

 よくあの流れで悲劇の結末演じられるな。


「もういいよ。俺もたいして怪我させられたわけじゃないし、それくらいにしといて?」


 俺がそう言うとクシャナさんは動きを止めた。

 鉤爪になった足を下ろして、代わりに顔を二人に近づける。

 クシャナさんの削岩機みたいな顎は近くでみるとめっちゃイカしてるよ。

 まぁ、噛まれたら死ねるけど。

 クシャナさんがその顎をギチギチ言わせると、二人は余計に身を寄せ合う。

 それでとりあえず満足したのか、クシャナさんは向きを変えて俺のところまで来た。

 それから前足2本を俺のわきの下に差し込んで体を持ち上げる。

 大丈夫。トゲトゲは下にしか付いてないから痛くない。


「ね。血も出てないでしょ?」


 クシャナさんは何個もある複眼で俺をまじまじと観察する。

 しばらくするとゆっくりと地面に下ろされた。

 一方クシャナさんは頭の上の空間を切り裂いて狭間に入って行った。

 ちょっとだけ待つと、元通りに化身したクシャナさんがストンって下りて来た。

 それから困ったような無表情でため息をついて俺を抱きしめる。


「痛かったですね、修司。大きな怪我が無くて何よりです」

「うん。クシャナさんがいいところに来てくれたから助かったよ」

「そうですか。私が追いかけていたオークを捕まえてみたら、他の仲間からあなたたちがここに向かった、とちょうど連絡が入りました。それで急いで来ましたが、間に合ってよかったです」


 つまり田中たちの連絡がそっちまで回ったことか。

 そうだよな。

 猪武者と和解した時点でクシャナさんへの連絡を頼んどくべきだった。

 そこを勝手にやってくれたんだからほんと感謝だ。


「ところであなたの体がすごくベタベタしますが、何がありました?」

「あ、うん。ちょっとね」


 樹液はだいぶ乾いたけど、俺の全身はひどい状態だ。

 それでもクシャナさんは俺を抱きしめて放さないんだからこれが愛だよ。

 白夜なんか指先で突っつきやがったからな。

 扱いわりーよ。


「それで、あの魔族はなんですか? とりあえずもう悪さは出来ませんが、殺さなくてもいい相手ですか?」


 殺すのはちょっとアレだよね。

 まぁ、手足が1本ずつ無くなってるし、右足も取れかかってる。

 上位魔族だからどうせ後で再生するだろうけど、しばらくは動けないはずだ。


「女の方がデイドリームで、魔族は使い魔だよ」


 使い魔なんて可愛いもんじゃないけどな。

 そもそもデイドリームはなんで上位魔族なんか契約出来たんだよ。

 いくら召喚術士として腕がよくたって、それだけでこんな強い相手を従えられるわけじゃない。

 その辺の主従関係謎なんだよな。

 まぁ、別にいいけど。


「そうですか。会いに行く手間が省けましたね。あの召喚術士がこの世界の現状について有意義な話しを聞かせてくれるといいのですが」

「どうだろ。さっきちょっと話した感じじゃこの世界が変だってことはちゃんと分かってたよ?」

「ならもう少し詳しく聞いてみてもいいかもしれませんが――、」


 そこまで言いかけたクシャナさんは、抱きしめてた俺を放して講堂の観音扉の方を振り返った。


「そろそろ入ってきたらどうです? そこまで警戒しなくても、敵の制圧は終わっていますよ?」


 その言葉で扉の陰から出てきたのは、獅子雄中佐の部下、緒方大尉だった。

 そう言えば電話でこっちに寄こすって言ってたな。


「中佐の命令で来た。ラーズたちが捕まったと聞いたが、状況は解決済みのようだ」


 のようだ、じゃねーよ。

 来るのおせーって。


「あんたがのんびりしてる間に全部終わったっての。今頃来たって仕事なんか無いぞ?」


 まぁ、間に合ってたところで上位魔族相手じゃ何も出来なかったろうけど。


「そうか。間に合わなくて残念だ」


 残念って割には表情が全然動かないな。

 緒方大尉はちょっと性格が掴みにくい。

 無口だから何考えてんのか分からないからな。


「まぁ、べつにいいからさ、とりあえず獅子雄中佐との連絡役にでもなってよ」

「了解した。任務を通信伝達に切り替えて支援する」


 なんなんだろうな、この大仰な言い方。

 おう、分かった任しとけ、くらいでいいのに。

 そんなんじゃ話してて壁を感じるし、みんなからモブ扱いされちゃうぞ?

 まぁ、とにかく緒方大尉が来たから獅子雄中佐とも連絡がし易くなった。

 あとはデイドリームたちをどうするか、だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ