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44話「講堂ジャングルの戦い」

「おおおおおおお!」


 雄たけびを上げながらオークが飛ぶ。


「うおおおおおお!」


 雄たけびを上げながらオークがウツボカズラを押しのける。


「ぬおおおおおお!」


 雄たけびを上げながらオークが触手を解く。


「お前らもうちょっと静かにやれよ!」


 なんでいちいち叫ぶんだよ。

 割と慎重に作業してる奴まで吠える必要ないだろ。


 俺たちの窮地に現れた猪武者6人組は、3人ずつに別れて俺と白夜の救出に当たってくれた。

 でもこいつらのうるさいことうるさいこと。

 縦割り社会な連中ってのはどうしてこうもにぎやかなんだ?


「神州猪武者が鉄則ひとーつ。気合は腹の底から轟くように!」

「イエス! ソウル マイ シャウト!」

「マイ シャウト!」

「シャウト!」


 いや、意味わかんねーよ。

 店の店員みたいに時間差でハモってるし。

 ほんとこいつら楽しそうだな。


 でも助かった。

 オークたちの助けで俺と白夜は触手から解放された。

 フライングユニットでゆっくり床まで下ろされて一安心だ。


「でもお前らの背中のそれ、俺がぶっ壊したけど大丈夫だったんだな」


 床まで運んでくれた田中に聞いてみる。

 無事だったのはこいつのフライングユニットくらいのはずだったのにな。

 どうなってんだ?


「いや、先輩たちのは全部予備だって。モロちんのスキルの威力が強すぎてあれはもう使えないみたい」


 そうか?

 威力半減の手刀斬波だし、端っこの方掠めただけよ?

 まぁ、精密機械みたいだしそんなもんか。


 まぁ、とりあえず地面には下りた。

 これで一番どうしようもない状況からは抜け出たってことだ。

 そしたら今度はこのデカブツをどうするかだな。

 酸を出さなきゃ敵じゃねーんだけど。

 

「やっぱこいつは攻撃せずに無力化しないとダメだな。そんな都合のいい手があるか分からねーけど」

「それなら簡単なこと。召喚主であるデイドリームを捕まえて裸に引ん剝けば、自分から泣いて送還すること間違いなぁし!」

「そんな外道な方法が真っ先に出てくるとかさすがギャングだな! でもデイドリームに送還させるってのはありだ。とりあえずあいつを、って居ねーし!」


 確認したらデイドリームはさっきまで居た場所には居ない。

 俺たちが触手から抜け出てる間に移動したらしい。


「これだから育ちの悪い連中の考えることはゲスね。私に指一本触れる前に存分に後悔させてあげるから、覚悟してかかっていらっしゃい!」


 そのデイドリームの声は、この講堂ジャングルの中のどこかから聞こえる。

 自分は隠れたままラフレシアに戦わせようっていうのか?

 まぁ、ちょっと卑怯くさいけど、召喚術士ってのは元々そういう戦い方の連中だ。


「デイドリームを探すぞ。どうせこの部屋はそんなに広くないんだ。全員で探せばすぐ見つかる」


 つーことで行動を開始した俺たちにラフレシアの触手が迫る。

 ビュバって伸びて来て巻き付こうとしてくるから、それを躱しながらのデイドリーム探しだ。

 言ってみれば妨害ありのかくれんぼだな。

 ただちょっと鬼が無敵過ぎて怖い。

 なんたって傷つけたら酸だ。

 攻撃は一切出来ないから回避だけで対処しないといけない。

 それだって言うほど簡単じゃない。

 そもそも講堂の中はそれほど広くない。

 つまり逃げ場が少ないってこと。

 それに触手は長いから『線』の攻撃だ。

 振り回したら有効範囲はかなり広いし、威力だってバカにならない。

 そのくせ斬ったり出来ないから向こうの手数を減らせない。

 地味につらいだろ。

 だからそのうち誰か下手打つ気がしてたけどやっぱりだった。


「ぬぉぉ!」


 叫び声を上げたのは空中を飛んでたオークの一人だ。

 足を触手に捕まれて引っ張られてる。

 まずいぞ。ラフレシア本体に引き寄せられたら何されるか分からない。


「野郎ども、仲間を見捨てるな。全員引けぇぇい!」


 号令で集まって来たオークたちが一本の触手を全員で引っ張る。

 それで抵抗出来るのか疑問に思ったら結構イケるっぽい。

 あのフライングユニット、オークを楽々飛ばすだけあってやっぱ出力はかなりすごい。

 あんなにデカいラフレシア相手に全然力負けしてない。互角の綱引きだ。

 え? 俺?

 俺は見てるだけ。

 だって飛べないから手出し出来ないもん。

 一応触手の真下で待機してるけどそれだけだ。

 まぁ、俺たちだって助けてもらったくらいだし別に大丈夫だろう。


「くそ。どうした。早く触手を解かんか!」

「ダメッス。バックパックのバックルに絡みついて取れないッス」


 なんだよ、思ったより苦戦してんじゃん。

 先っぽの方結構細くなってるから無茶して千切るなよ?

 落ち着いてやればいいんだからな。

 なんて俺が思ってると、急にオークたちが力負けし始めた。

 何かと思ったら触手の根元の方に別の触手が巻き付いてダブルで引っ張ってる。

 このラフレシア、意外と頭使ってくるな。

 でもちょっとまずくないか?

 このままだと全員本体まで引き込まれるぞ。

 俺は触手の真ん中くらいまで本体に近づいて様子を見る。

 ダメだ。オークの連中がどんどんこっち来る。


「猪武者総員気合全開!」

「気合ぃぃぃ!」

「全開ぃぃぃ!」


 雄叫びと同時にフライングユニットが噴射量をさらに上げる。

 いや、がんばってるの機械だろ、それ。

 お前らが叫んでも関係無いから。

 とはいえそれでまた拮抗状態に戻った。

 いや、お互い引っ張る力を上げた分さっきよりも拮抗状態ギッチギチだ。

 触手だってミシミシ言ってるし、もうほんとに――

 その時、俺の真上で触手が千切れた。

 一瞬のことだった。

 突然あっけなく二つに分かれた触手から樹液がまき散らされる。

 それはあまりにもいきなりで真下に居た俺は反応出来なかった。


「修司!」


 白夜の叫びを聞きながら、俺はラフレシアの樹液を全身に浴びた。

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