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41話「待ち受けていたもの」

「くそ。きりがねーな」


 つぶやきながら、俺はもう何体目になるか分からないスケルトンにとどめをさした。

 一階を突破して階段を上がった俺たちを待ってたのは無数の罠。しつこいくらいに配置された召喚魔法陣だった。

 壁だろうが階段だろうがお構いなしの地雷原っぷり。

 踏めば即発動。踏んでなくても連鎖で発動。

 結果、俺と白夜はうんざりするくらいの数の魔物と戦うはめになった。

 いや、戦うってか叩き潰す、か?

 いやいや、俺は斬波主体だし叩き斬るだ。

 白夜はイベントホライゾンで消去だから、なんだろうな。

 とにかく有象無象のアンデットを突破して俺たちは最上階に上がった。


「でもここまで来ればトラップはなさそうね」


 それでも白夜は周りを警戒してるけど、たしかに大丈夫そうだな。

 いや、実際もう十分だろ。

 ここまでの道のりでおなか一杯だよ。

 白夜だってちょっと息が上がってる。

 さすがにあちこちから襲って来る集団相手は疲れたみたいだ。

 イベントホライゾンは基本一方向にしか出せないらしい。

 だから囲まれるとつらい面もあるわけだ。

 それでも二人で連携したから何とかなった。

 で、最上階に上がってみりゃ今度は打って変わって静かなもんだ。


「急に何も出なくなったな。差が激しすぎるんじゃねーの? 罠か?」

「さぁ。でも魔法陣をバラまいた奴がこの階に居るなら自分の邪魔になるからじゃない?」


 そりゃそうか。

 いくら守りを固めるっても、自分の陣地の中まで地雷原にしちゃ意味がない。

 動けなくなるからな。


「つーことはこの奥にそいつが居るってことだな」


 こんだけ嫌がらせみたいなトラップ設置しまくる奴だ。

 さっさと行ってどんな奴か顔を見てみるとするか。


 この最上階の構造は単純だ。

 階段の横にエレベータがあって、正面にはすぐ壁。

 そこには大きい両開きのドアがついてる以外は何も無い。

 ん? なんでエレベーター使わなかったかって?

 こんな罠だらけの敵地で密室に入る勇気ある?

 つーかそもそも電気ついてないし使えないと思うよ?


 まぁ、それはともかく俺たちは目的地にたどり着いた。

 そして着いた以上ここで立ち止まってても仕方ない。


「よし。行くか。いきなり襲ってくるかもしれないから油断するなよ?」

「あんたじゃないんだから大丈夫よ」


 失礼だろ。

 そんなやり取りをしつつ、俺たちは俺たちはドアを開ける。

 白夜が右。俺が左。両開きの観音扉を片方づつ押す。

 油断はしないが堂々と、だ。

 思いっきりドアを開いたその中は1フロア丸まる使った大きな講堂。

 天井が高くて広々としてる。

 うん。それは聞いてた通りだ。

 聞いてた通りだけど、なんか植物に浸食されてジャングルみたいになってる。

 しかも部屋の真ん中でラフレシアのお化けみたいなのが触手をウネウネさせてるし。

 俺たちはいったん扉を閉めて顔を寄せ合った。


「え、何あれ。なんかすげーウネってなかった?」

「ウネってたわね。しかも毒キノコみたいな色だったわ」

「奥でラーズたち捕まってたな」

「ウツボカズラみたいな奴にでしょ? 見たわ。マーブルと、オークも一人居たわね」


 ウツボカズラってのは食虫植物の仲間だ。

 ツボみたいな形をしたところに落ちて来た虫を溶かして食べる怖いやつな。

 それのすっごいデカいのが、部屋の中に居たお化けラフレシアのさらに後ろにぶら下がってた。

 しかも白夜が言った3人をばっちりツボの中に捕まえてるんだから参ったね。

 全員顔だけは出してたけど、意識は無さそうだった。

 まさか体溶けてねーだろーな。


「とにかく助けないと。私があの変なのを引き付けるから、あんたはみんなをお願い」


 白夜はそう言って勝手に決めるけど、役割分担普通逆じゃね?


「いや、俺が囮になるからお前行けよ」


 だってさ、映画とかでも男が戦ってる間に女が裏方仕事するじゃん?

 じゃなくっても女に戦わせて自分だけ安全な作業する男ってどうなのよ。

 少なくとも、俺はそんな奴になりたくねーんだけど。


「いいからお願い。私じゃあれからみんなを引っ張り出すのには力が足りないかもしれないもの」


 あ、そういうこと。

 それなら別に構わない。

 たしかに皆を飲み込んだ巨大ウツボカズラはパンパンに膨れた寝袋みたいだ。

 特にラーズなんか体がデカいから無理やり押し込められた感がハンパない。

 それを引っ張り出すとなればかなり力が要るだろう。

 そういう意味じゃ俺の方がいいのか。

 でもその前に、あいつら結構高いとこにぶら下げられてるから下に降ろさないとな。

 ツタを斬って落とすだけなら斬波でもいい。

 だけど確実に怪我する高さだろうから、その方法だとちょっとマズイ。


「なぁ、なんかクッションみたいなの用意できねーかな? 上から落ちても大丈夫そうなやつ」

「どうかしら。中に生えてる木の枝とか葉っぱとか集めたらいいんじゃない?」

「葉っぱと枝か……」


 大量に集めて重ねりゃクッションの変わりになるかもな。

 でもそうなると準備に結構時間がかかりそうだ。

 斬るのは簡単だけど運ぶのがな。

 それに敵からの妨害も当然あるだろ。

 ひょっとしたら二人でラフレシアっぽいの先に倒した方が早いんじゃないか?

 いや、でも人質を使われたらだめだし、やっぱり救出は最優先なのか。

 仕方ない。

 とりあえず飛び込んでみてからやれるようにやるか。


 俺がそう白夜に伝えようと思った時、ふいに講堂の観音扉が開いた。

 一瞬白夜かと思ったけど違う。

 扉には触ってないし、俺と同じで驚いてる。

 よく見りゃ扉は中から開けられてる。

 ラフレシアが触手を伸ばして扉のノブを引っ張ってやがった。


 植物のくせにせっかちな奴だな!

 

 そう思った瞬間俺は足を引っ張られて思いっきりずっこけた。 

 そのまま尋常じゃない力で引っ張られて講堂の中に引きずりこまれる。

 野郎、俺の右足にまで触手を巻き付けてきてた。

 隣じゃ白夜も同じ目にあってる。

 俺たち二人は仲良く並んで一本釣り。

 室内ジャングルへと引きずり込まれた俺たちはそのまま空中に逆さ吊りだ。


「こいつ、ふざっけんなよ。大丈夫か、白夜!?」


 返事を待たずに直接目で確認する。

 とりあえず無事ならいいけど――


「ちょ、ちょっと見ないでよ!」


 逆さまになった白夜はパンチラ的に無事じゃなかった。

 来てる物全部が重力で頭の方にめくれてるからな。

 最後の砦って言っても過言じゃない一枚が丸見えになってる。


「バカバカ。あっち向いてなさいよ!」


 白夜は必死に暴れるけどそれは逆効果だ。

 体が揺れたり回ったりで色んな角度から見放題になってていくら押さえても隠しきれてない。

 普通だったら大喜びで目が釘付けになると思うだろ?

 でも白夜の場合はパンツがどうのって問題じゃなかった。

 むしろ気になるのは着てる服の方だ。

 これはあれだ。ピンクのフリフリ。

 竹下通りで見たようなのよりは少し大人しいけど、それでも着て出歩くには度胸が要るやつ。

 こいつ密かにこんなもん着てやがったのか。


「白夜、お前やっぱりそっち系の趣味だったんじゃねーか。コソコソ中に着るとか男らしくねーぞ!」


 このくそ暑いのになんでローブなんか着てんのかと思ったけど、これが理由か。

 わざわざ隠すくらいなら着なきゃいいのに何やってんだか。


「ほ、ほっときなさいよ。どうせ私には似合わないわよ。でも着たいんだから仕方ないじゃない。だいたい男らしくないって何よ。女が女らしい恰好して何が悪いのよ!」

「別に悪くはねーけど着るなら着るでもっと堂々と見せろよ」

「あ、ちょっと見ないでっていてるじゃない!」


 何を言っても白夜はギャーギャー叫ぶ。

 隠してたものを色々見られて冷静じゃいられないみたいだ。

 残念だけど白夜の隠れ少女趣味はもうバレバレだ。

 よかったな。もう隠さなくていいぞ。


「あなたたち、そろそろ状況を理解して静かにしたらどうなのかしら?」


 その一言は突然だった。

 白夜に気を取られてラフレシアの影から誰かが出て来てたのに気づかなかった。

 向こうから声をかけてこなきゃずっと放置してたままだったかも。


 俺と白夜は宙吊りのまま声のした方を見た。

 そしてびっくり。

 そこに居たのは見覚えのあるエルフの子供だった。


「お前、」

「あんたは――」

「エルフ専用車両の、」

「――デイドリーム!」

「え?」


 白夜が言った名前にまたもやびっくり。

 それって白夜を逆召喚で呼び戻した召喚術士じゃねーか。

 しかも今ここに居るそいつは新宿駅で一回会ったエルフっ子だ。

 なんかすげー偶然。

 この奇妙な運命のめぐりあわせに、俺は驚きを隠せなかった。

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