秋の管理者
「そうだな……まずは季節の管理者を全員揃えるんだ」
────というアドバイスを受けて、私は再びニンフ山へ足を運んだ。
もちろん、バハルやベラーノ、父達も一緒である。
グランツ殿下とタビアは不参加。
戦争の準備や魔物の再調査で、忙しいようだから。
会議がお開きになるなり別館を飛び出していった二人を思い出し、私は苦笑する。
────と、ここで私を抱っこして歩いていた父が立ち止まった。
「『風の吹く洞窟』とやらは、ここか?」
そう言って、父は足元に居るバハルとベラーノへ視線を向ける。
『ここに管理者は居るのか?』と確認する彼に、二人はコクリと頷いた。
「『風の吹く洞窟』というのはよく分からないけど、秋の管理者はここに居るわよ」
「まだ眠っているが、まあ……起こしても、問題ないだろう。以前より、かなり落ち着いているように見えるから」
『いざという時は武力行使で行こう』と言い、
ベラーノは真っ暗な洞窟の中へ足を踏み入れた。
と同時に、明かり代わりの火球をいくつか出現させる。
『足元に気をつけろ』と注意するベラーノに、私達は首を縦に振った。
「────あっ、本当に風が吹いていますね」
最後尾を歩くイージス卿は、『前後左右あらゆる方向から吹いています』と驚く。
洞窟へ入る前は完全に無風状態だったため、余計衝撃を受けているのだろう。
『凄いですね』と囃し立てる彼を他所に、父やベラーノはどんどん奥へ進んでいく。
一本道だからか、その足取りに迷いはなかった。
「そろそろ、開けた空間に出る筈だ」
そう言うが早いか、ベラーノは足を止める。
父も同様に立ち止まり、辺りを見回した。
「これはまた随分と────巨大な穴だな」
屋敷より広い空間を前に、父は足元の石ころを蹴り飛ばす。
すると、数十秒ほどして小さな落下音が鼓膜を揺らした。
ただの石ころが、下へ落ちるまで数十秒って……一体、どうなっているの?
『暗くてよく見えないな』と思いつつ、私は食い入るように下を眺める。
と同時に、気づいた。
私が暗くて見えないと思っているところ全て穴なんだ、と。
「っ……!」
あと一歩でも前へ出れば穴へ落ちてしまう事実に気づき、私は慌てて身を引いた。
『こんなの断崖絶壁に居るのと同じじゃない……!』と焦りながら。
血の気が引いていくような感覚を覚える私の前で、ルカは普通に前へ進んでいく。
常に浮いているため、足元の穴など気にならないのだろう。
「あー……ダメだ、全然見えねぇ。やっぱ、寝てる時は姿を隠すよなぁ」
『むしろ、無防備に曝け出している方が驚き』と述べつつ、ルカはさっさと戻ってくる。
収穫なしとでも言うように両手を挙げる彼の前で、ベラーノは火球を更に追加した。
そして、この開けた空間全体を明るく照らすと、ある一点を見つめる。
「ベアトリス様、秋の管理者はあそこに居る」
前足で前方を示し、ベラーノはゆらりと尻尾を揺らした。
すると、それを合図に────全ての火球がある一点へ集まる。
いや、突撃すると言った方がいいか。
「叩き起こすから、ちょっと待っていて」
「えっ?なん……!?そういう起こし方なの!?」
『手荒すぎない!?』と焦り、私は秋の管理者の身を案じる。
が、もう遅い。
火球は大爆発を引き起こしてしまった。
「わっ……!?」
凄まじい爆風とムワッとした熱気に驚き、私は身を固くする。
と同時に、父が背中のマントを引っ張ってきて私を包んだ。
そのおかげか、爆発による影響はほとんどない。
「この爆発で微動だにしないって……マジかよ、公爵様。体幹、エグくね?」
『イージスはジリジリ後退してんのによ』と言い、ルカはやれやれと頭を振る。
呆れとも感心とも捉えられる表情を浮かべる彼の前で、爆風や熱気は何とか収まった。
とりあえず、私達は無事だけど……直撃を食らったかもしれない秋の管理者は、大丈夫かしら?
『黒焦げになってない……?』と不安を覚えつつ、私はキョロキョロと辺りを見回す。
でも、暗闇と煙のせいでよく見えなくて……そっと眉尻を下げた。
────と、ここで先程の爆風とは違う涼しげな風が、ここら一帯を駆け抜ける。
そして、聞き覚えのない鳴き声が鼓膜を揺らした。
かと思えば、前方から何かが飛び出してくる。
な、何……?光っている?
真っ暗でもハッキリ見える金色の二つの丸に、私はパチパチを瞬きを繰り返す。
『もしかして、目……?』と首を傾げる中、ソレはベラーノに詰め寄っていった。
何やら文句を言っている様子の相手に、ベラーノは反論する。
「寝込みを襲ったつもりはない。ただ起こそうとしただけだ。はっ?もっとやり方があるだろ、って?そんなの知らない」
面倒臭そうに相手の主張をあしらい、ベラーノは大きく息を吐いた。
「大体、四季を司りし天の恵みが居る前でグースカ寝ているお前の方が悪いだろ」
『無礼だろう』と主張し、ベラーノは明かり代わりの火球を再度生成する。
と同時に、相手の姿が露わになった。
「白い小鳥……?」
思わずそう口走ると、相手は首だけこちらに向けた。
そして、これでもかというほど大きく目を見開く。
『クルルル……?』と鳴き声に困惑を滲ませ、白い小鳥はたじろいだ。
「ベアトリス様、一先ず名付けを」
バハルはこちらを振り向いて、『さっさと用事を済ませてしまいましょう』と述べる。
混乱中の白い小鳥など目に入っていないキツネに、私は苦笑を漏らした。
まあ、契約を交わさないと何も始まらないものね。
応じてくれるかどうかは分からないけど、話を持ち掛けてみよう。
父の腕からそっと降り立ち、私は白い小鳥の前で膝を折る。
と同時に、背筋を伸ばした。
「え、えっと……初めまして、私はベアトリス・レーツェル・バレンシュタイン。バハルとベラーノと契約を交わしている者です」
まずは自己紹介から入りふわりと柔らかく微笑むと、白い小鳥はピシッと固まる。
直立不動とも言うべき状態の小鳥を前に、私は少しばかり身を屈めた。
「それで、あの……可能なら、貴方とも契約したいんです。実は自我のない精霊が危険かもしれなくて……だから、お願いします。力をお貸しください」
深々と頭を下げて頼み込み、私はじっと黄金の瞳を見つめる。
「もし、私の願いを聞き入れてくださるのならこの名前をもらってください────エーセン」
古代語で『秋』を意味する言葉を与えると、白い小鳥は反射的に鳴き声を上げた。
かと思えば、暗い気持ちを吹き飛ばすような心地良い風が頬を撫でる。
『なんだか、凄く爽やかな気分』と目を細める中、白い小鳥はバサッと翼を広げた。
「秋の管理者エーセンが、四季を司りし天の恵みベアトリス様にご挨拶申し上げます!お会い出来て、ほんまに光栄です!」




