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第八話 兄弟は振り回される


新しい何かを創り上げるのは大変な労力と時間を要するものだ。けれど壊れるのは一瞬。一度崩壊を始めたそれを塞き止めても手を離せばまた崩れてしまう。いっそのこと黙って成り行きを観ていた方が再現性のある失敗を学ぶことが出来るだろう。それが歴史であり、それを残すのが学者だ。


けれど、やはり大多数の人は再現性のない成功談にしか目がいかないものだ。歴史学者はその者達を愚者と揶揄(やゆ)した。その逆に自分達を賢者と呼び有利な立場だという事を強調する。


だが本当の勝者はそんな小手先で物事を見ていない。これから起こりうる可能性を全て知る事が出来れば失敗も成功も思うがままだ。


失敗する事を予め知っていれば離れて自分への被害を最小限に抑え、成功するとわかっていればその権利を全て買い占めればいい。人生の攻略本を手に入れたのなら薔薇色の未来が約束されたも同然である。


そんな力を手にした人が慌てふためく事はまずないだろう。だからシュルパナカーは安全なそこに居た。これからこの街の家屋は殆どが燃え崩れ使い物にならなくなる。城に逃げ込むなどもっての外だ。あそこが最も被害が酷くなる。この国は一度崩壊するだろう。我ら魔王勢力の傀儡でしか無いこの国の王家など滅びてしまえばいい。大事なのは頭を抑えて自分達の言うことを聞く操り人形をそこに置くことだ。


それも簡単なこと。大き過ぎる力を手にした者が後にどんな風になるか。彼女はそれをよく知っている。いずれその権力を誇示するために躍起になる。不安で眠れぬ夜を過ごすだろう。だから手を差し伸べるだけで良い。後は同じ。前にも後ろにも行くことのできない哀れな存在になるだけだ。


そしてここからはその様子がよく見える。城に火の手が上がった。そろそろ終盤だ。これを見届けたら一度、兄の国に帰ろう。疲弊したこの国は他国から見て格好の餌食だ。しばらくは騒がしくなる。それが落ち着いたらまた戻って来れば良い。


彼女はそんな事を考えていた。けれどその思惑は神の前では簡単に見透かされてしまう。案の定、待ったをかけるかのように水晶が久々の輝きを放ち新しい予言を映し出した。闇の魔女シュルパナカーは目を見開き愚痴をこぼす。


「なんと言う事だ。私も神に()められていたのか…」


彼女が見たのは三つ目の子供、白い犬、巨大な猿、赤い鳥。そして光り輝く弓と矢。特に最後の二つは神話の始まりを予期していた。それはもはや自分の手に負えない事態である事を意味しているのであった。


一方、城の中で正規軍とレジスタンスが正面衝突し血みどろの闘いが繰り広げられていた。正規と言っても騎士道のカケラもない元ごろつき共だ。体制の腐敗は手の施しようのないところまで侵食し軍の中枢は既に金と薬と女でどっぷり浸かり機能を成していない。


他国の侵略を受けないのはただ単にバックで影響力を発揮する魔王の存在が大きいだけだ。絶対服従の見返りに守ってもらっている。そういう事である。


ただ人を殺すのに躊躇する者はいない。作戦も何もない状態で、勢いだけで斬りかかってくる。囮といえど仲間は傷つき血を流す。その間にコヨーテの獣人グファーは数十人の部下を引き連れてどんどん城を駆け上がる。


敵に鉢合う度に小隊を編成してそれに()つける。仲間を犠牲にして開かれた道を必死に潜り抜けた。脇には捕らえた小僧を抱え足元を白い犬が纏わりつく。この犬は厄介でしぶとい。何度蹴り飛ばしてもピンピンして戻ってくる。やがて無視するようになった。


そんな事より作戦を優先する方が大事である。何としてでもあの暴君を処刑台に立たせてやる。散っていった仲間の死を無駄にするわけにはいかないのだ。そして遂に玉座の間にたどり着いた。


入口にもやはり敵が待っていた。これまでとは格好からして違う。鎧の色を見れば一目瞭然だ。鉄製ならば黒鉄色のはずだがそれは赤い。錆びているようにも見える。けれどその光の反射から光沢があるのがわかった。グファーはそれを見てつぶやいた。


「ヒヒイロカネの鎧か」


自分達が持っている鉄製の武器は歯が立たないだろう。無理に押し通るのはやめた方がいい。グファーの判断は早かった。黒い油が入った壺に矢をつけて火をかける。それは勢いよく燃えた。矢の篦が燃え尽きる前に素早く射る。それは敵ではなく後ろの扉に刺さる。


仲間も続けて矢を射る。斬り殺せないなら(いぶし)殺すだけだ。火は瞬く間に燃え広がる。そして挑発する様に叫んだ。


「早くそこから出ねぇと焼け死んじまうぞ!」


煙がどんどん充満する。グファーの部隊はそれを見届けて撤退する。後は外で待っていれば向こうから出てくるだろう。予定とは少し違うがまだ想定内だ。そして去り際に言う。


「おい!闇の魔女!!聞こえてるんだろ!!今に殺してやるからその首を洗って待ってろ!この腐れ畜生が!」


その言葉は彼女には届かない。代わりにそれを耳にした男共が激昂する。その者達は闇の魔女シュルパナカーを崇拝する邪教の使徒であった。

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