第七話 兄弟は巻き込まれる
男達は自分の正義を信じてやまない。祖国を腐らせた魔王の一派を1人残らず成敗するのが彼らの宿願である。どんな手段を用いても。どんなに時が経とうとも奴らを一掃する。裏切り者は同罪だ。
この国の国民は大きく分けて二つの思想に分類できる。それは悪事を嫌い虐げられる者と誘惑に負け悪に手を染める者。この二者が国に長い間不和をもたらし複雑な歴史を刻ませた。
前者は反体制派であり現代においてかなりの少数派になっている。全く進展しない社会情勢に代々の鬱憤が溜まっている状態だと言える。次第に穏健派はその中でも更に少数となり手段を選ばない過激派が支持を集めた。
その過激派のリーダーであるコヨーテの獣人グファーは魔王勢力からの独立を幼少の頃から夢見てきた。父も祖父も曽祖父も皆それらと勇敢に戦い死んだ。それは自分にとって誇りであり自分もそうあるべきだと信じている。時期を早まった仲間が何人も独断で仇をとりに去っていく。そんな散り際を何処かで羨む自分がいた。
小僧は眠らされ草むらに横たわるその姿をグファーが見ていた。散歩中のペットを連想させるように首に縄をかけられて逃げることを許されない。それは神が定めたレールから脱線した彼をもう一度そこに連れ戻す行為に思われた。言うなれば自分は神よりその使命を賜った代行者。何者もその行ないを止めることは許されないだろう。特に運命の神を崇拝するシュルパナカーは確実にだ。あの女が小僧を殺さず生かしたのがその証拠である。
仲間はスコップやピッケルをその手に持ち森にひっそりと残る古びた建屋の床に穴を掘る。彼らが来るべき戦いの日に備え、長年溜めてきた武器を今日こそ持ち出すのだ。掘り出されたのは大きな木枠と黒い油の詰まった壺が複数。木枠の中には油を染み込ませた布が大量の何かを包んでいる。それを解くと無数の剣や槍そして弓と矢が出てきた。これで憎い奴らの息の根を止めるのだ。
集まったレジスタンスは精一杯の武装をし刑務所に乗り込む作戦を立てた。そして幽閉された仲間を助け更にその人数を増やす。憲兵や軍は逃げ出した凶悪犯に翻弄されるだろう。国内は一時的なパニックに陥る。その隙に腐りきった王家を引きずり出すのだ。作戦決行は今夜。今日は記念すべき日になるだろう。革命の日。自分達は祖国を取り戻した英雄になるのだ。
街は静まり返った。暗い森の中へ黒猫の獣人が偵察から帰ってくる。現状をグファーに伝えに来たのだ。
「作戦は順調だ。奴らはもうベロンベロンですぜ。試しにしょんべん掛けてやったけどよぉ。起きやしねぇんだ。アレは完全に出来上がってる」
グファーは笑みを浮かべ「そいつは良い」と順調に進んでいる事を喜んだ。この国の安全を守る憲兵など所詮は制服を着ただけのごろつきだ。金に酒に女。そのどれかで揺さぶりをかければ簡単に潰せる。それに何年も隣国と小競り合いが起きていない。奴らも油断しきっているはずだ。コヨーテの獣人は立ち上がり号令を出した。
「お前ら!今日から俺たちは地面を這いつくばるなんて真似は仕舞いだ!俺たちの土地を祖国を蝕むクソどもに俺たちが啜ってきた泥水をたらふく飲ませてやれ!いいか?まさか今更ビビってる奴はいねぇよな!!」
集まった大衆が一斉に武器を掲げ「いねぇ!!」と雄叫びを上げる。気合が尋常ではない。皆、死ぬ事など一切恐れていない。ギラついた目は血走っている。
松明に火が灯る。グファーは「行くぞ!!」と作戦を決行した。そしてボソッと小さな声で「そんな奴がいたら俺がぶちのめす」そう言い残し前進した。
水バケツをかぶされ酔い潰れた憲兵は叩き起こされた。それをしたのは助けを求めてきた一般庶民で緊急を要していた。
「何こんな時に寝てんだてめぇ!あれを見ろ!」
憲兵は「なんだと!コラ!」とそれにがんを飛ばすが見せられた方向から熱波を浴びるとすぐにその事態を理解した。
森に火が放たれた。それはものすごい勢いで燃え広がる。緊急事態というレベルの騒ぎではない。現在、我が国は他国に攻められている。誰もがそう思っただろう。大きな鐘の音が鳴り響き、街に敵の襲来を知らせた。
突然の混乱が国を襲った。しかし動きが遅い。憲兵団も軍も隊列を組むのに苦労していた。何故なら殆どの者が薬を仕込まれた酒で悪酔いし下痢と嘔吐などの症状で動けないのだ。
そんなところに武器を持った一般庶民がぞろぞろと現れた。皆顔を布で隠している。素性のわからないその集団を味方だと誰も思わないだろう。しかし彼らは早い。
統率の取れたその動きは素人とは思えない。1人の兵に対して3人以上で飛びかかり確実に殺す。国は火事に酔いにそして見知らぬ集団の襲撃を受けて機能不全を起こした。
そこに追い討ちをかけるように街の牢に火が放たれた。中から檻に入っていたはずの囚人達が我先にと飛び出してくる。もう誰もこの事態を止められないと絶望していた。
だがその様子を高いところから見つめる1人の女がいた。それが一言呟く。
「派手にやってくれたじゃないの」
しかしその表情は余裕に満ちていた。まるでこんな事はわかっていたとばかりにことの次第を傍観し何かを待っていた。




