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兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
最終章 ランカー島編 後編
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第六十七話 魔王の居所


大陸の端。ランカー島へと続く荒れた海を超えて辿り着くことのできる唯一の船が今旅立とうとしていた。共和国に国交は無いと言ったがそれは政府に無いのであって、民間のごく一部は未だ取引をするための手段を持っているのであった。


その一部とは裏の道に生きる人々であり、殺人、人身売買、麻薬などの市場を支える縁の下の力持ち的存在だ。皮肉な事に現在の共和国を延命させているのは暫定政府ではなく、魔王国から得た物資を横流ししている彼らに他ならないのであった。


突風を巻き起こして空へ舞い上がる。機体の各所でプロペラを回転させているが、それはバランスを安定の為であって上昇させるためのテクノロジーは秘匿されておりブラックボックス化されている。万が一敵に奪われても現代の科学では再現できないと予想される。


今日の海は荒れていると言うのには静か過ぎた。ランカー島周辺の海域が息を潜めていたのだ。しかし異変はそれだけでは無かった。魔王国のある場所。そこが巨大な黒い物体に飲み込まれていた。そこから細い触手が無量大数伸びて物を掴んで引き込み続けている。


それはまるで体内に生まれ出た癌細胞。人を死に至らしめる最大の病であり、その症状とある意味酷似していた。ステージ分類をするならばまだまだ0から1と言ったところだろうか。世界各地に広がるには未だ猶予がある。しかしこれ以上大きくなる事は望ましくない。


そしてその更に上空にプラチナに輝く巨大な猿の姿を肉眼で捉える。黒い球と一定の距離をとって何かをしている。けれどその動きは奇妙だ。この船からはよく見えない。ただ何かと戦っているようだ。巨大な赤い槍を振り回して、空を切るかのようである。時折、黒い粒か何かに見える。対比すればそうではない事は理解できたが、無数のハエと闘っている。そんな風にも捉えることができた。船の船長が答える。


「ボス、今日は引き上げた方がいいでさぁ。ありゃ神話の世界ですぜ?」


不安そうな眼差しはそのボスへと向けられている。腕を組み仁王立ちでそれを睨みつける熊の兄弟。双方が立派な肉体を持っていたが。片方は痩せこけ、プロボクサーのように搾り切っている。船長の言葉が耳に入らなかったのか。二人だけで話をし始めるのであった。


「俺は何年もこの間を行き来して来たが、あんな物は見た事がねぇ。それでも行くのか?」


「あぁ、頼む。俺をあそこに連れていってくれ」


それは永遠の別れのようにも聞こえた。生まれながらのギャング育ちな二人はその業界で生きた者だけが抱える特異な価値観を共有し最期は碌な死に方をしないのが定説であった。


「バンサ。お前を臆病者の腰抜けだと言ったが、今撤回するぜ。前よりもカッコいいじゃねぇか」


ジャミルは兄バンサの守りたい世界が何なのかまだ少しわかっていない。裸猿の女を孕らせて裏家業から足を洗うと言った時はふざけていると思ったがこんなにも漢を磨いてくれるなら案外、所帯を持つのも悪くはないかも知れない。


その頃、魔王国の最深部にとある男が巨大スクリーンを前にしてど迫力満載のアクション映画を見ているかのような雰囲気で外と内部のやり取りを眺めていた。自分の体長の数倍はあろうかと言う大きな玉座に座り両側にお気に入りの娘を6人抱え、6本の腕を満たしている。更にその周りを何十人もの娘達で囲み煩悩の限りを尽くしている。とんでもない奴だ。


その男こそこの島を統べる魔王にして世界を牛耳る覇者。魔王ラヴァクシャだ。


「中々やりよるでは無いか。これからもっと面白くなる。最後の晩餐に相応しい余興では無いか」


オキニの娘がベストなタイミングでお酒を出すと、それを一口であおる。酒に溺れ、女に溺れた時が彼の最高の至福と見た。しかしそれをも糧にしてしまうのが世界覇者の器。幾ら欲に溺れようとも身を滅ぼすような失態を引き起こさないだけの要領の良さと常軌を逸した価値観が彼を魔王たらしめている。


そしてオキニの中に一人だけ獣人でも魔人でも無い特別な娘が居た。彼女は肌が燃えるように紅く美しい。まるで女神のような娘だ。それがスクリーンを指差して言った。


「魔王様。ほら観て、アソコに火神アグニがいますわ」


映像の一部分を拡大すると島から少し離れた海面から上半身だけを見せた燃えるような紅い双頭の男が悲痛な表情でこちらを観ていた。女は言葉の後に「ウケる」とそれだけ言ってその顔を笑い飛ばした。


「スヴァーハー。お前の夫であろう?可哀相ではないのか?」


「可哀相?まさか。アレは悪趣味な天下の浮気者ですわ。魔王様の方が大切にしてくださります。もう二度とあんな所に帰ってやりませんわ」


魔王は高笑いをして束の間の余興を楽しんだ。けれどそろそろ時間だ。玉座から腰を上げ6人のお気に入りを引き連れて何処かへと向かうのであった。

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