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兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
最終章 ランカー島編 後編
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第六十五話 その頃、バラタ王国の現在


かつてのバラタ王国。現在は名もなき共和国。強引な民主活動によりクーデターは成功し王朝は崩壊。その生き残りは皆、牢獄に幽閉され、世界初の民主主義国家がここに誕生しようとしていた。けれど現実はそんなに甘い物では無かった。


隣国との摩擦が激化し外交が機能不全を起こした。他国は全て王国か公国の何方かだ。バラタ王国の様な民主化の流れを恐れた他国の王らは同じ敵を手に入れ歴史的な同盟関係を結び、強烈な経済制裁を共和国に課した。


それによって致命的な食糧危機に苛まれる。他国からの輸入は出来ず、沖に出て直ぐはランカー島に続く荒れた海。そんなところでは漁が出来ない。迂回すると他国の領海に近づく事になり、軍艦が待ち構えている。けれどもう戦争をするだけの余力などないのだ。救いがあるとすれば、魔王国と結んだ不平等条約。そんなまだあるのかないのかわからない同盟関係だけで命を繋いでいる。その細い糸を手繰り寄せる様にしてギリギリ生き残っている。そんな状態だ。


そしてその確認をするためには外交官程度ではダメなのだ。最低でも国を背負って立つリーダーを決めなくては、けれどこのクーデターを成功させた張本人はもうこの世にいない。暫定政府は暫定的なリーダーをいち早く決める必要があった。そしてその白羽の矢が当たったのは熊の獣人バンサであった。


罪人を幽閉するための牢獄。そこはかつてこの国を象徴する王の住まう壮大な城であった。けれど現在は殆どが取り壊され、地下にある牢屋だけが現在も使われている。そんな状態だ。その中の一室。鉄格子の向こう側に痩せこけた囚人がいた。けれどその目は未だ炎を宿しギラギラとした光を放っている。


脱獄する事、数十回。彼には愛する妻がいて行方不明の息子がいる。そんな二人を置いてこんな所で死ぬつもりはない。常に聞き耳を立て、目を光らし次の機会を待つ。もはや何のための反体制運動だったのか。今の暫定政府に信用出来る者など誰もいない。


「おやおや、はっ。あの屈強で逞しいバンサ殿は今や痩せこけたただの親父。残念ですねぇ」


「貴様…」


そこに現れたのはフィッツという狐の獣人だ。以前は影が薄く特に目立つ様な奴では無かった。反体制組織の過激派達を束ねていたコヨーテの獣人グファーが作戦中に死亡し、その側近も皆死んだ。残ったのは烏合の衆ばかり、そんな状態の後に急激な台頭を見せ一気に暫定政府のトップにのしあがった男。けれどきな臭い噂も多い。当時の作戦中も彼だけは無傷で生還したという。


「何の様だ。この腰抜け野郎」


その一言はとても的を得ていた。気にしていたのか、コンプレックスだったのか、それ以来フィッツの顔は怒りに染まる。


「図に乗るなよこの死に損ないめぇ。お前は捕まって偶然生き延びただけだ。俺はあの戦いを生き残った。侮ると痛い目を見るぞ!」


「ビクビク震えて隠れてたの間違いじゃないか」


バンサは大笑いし、フィッツの側近も腹の中で思う事があるのか笑いを堪える仕草を見せる。そのせいで益々怒りを露わにする。そして血の上った頭で今日来た様をストレートに言い放った。


「黙れ!!黙らないとすぐにお前の妻をこの場で処刑してやる!」


すると地上で控えていた部下がロープで縛り上げたバンサの妻カルシャを無理やり連れてくる。抵抗を続けていた彼女であったが、夫の無事を知り逆に階段の下へと急に駆け出した。その反動で持っていた手綱を引っ張られ連れてきた部下が階段を転げ落ちる。恐らく骨折は免れないだろう。しかしそんなことなど構いやしない。何故なら愛する夫をこんな目に合わせた奴らだ。骨折程度じゃ怒りは治らない。


「カルシャ!!」


バンサは立ち上がろうとする。けれど手首、足首、頭の首と凡ゆる急所を鉄の鎖で壁と固定され思う様にならない。カルシャも夫の名を叫ぶ。しかし口は塞がれ、手首を背中で括られている。けれどその気持ちは目を合わせるだけで分かり合える。二人は再会の喜びと悲しい現実に涙を流す。


こんな近くまで来たというのに鉄格子が未だ夫婦の間に距離を作る。そして怒りの形相で奴が近づいて来た。


「離れろ!!この薄汚い裸猿め!!」


「その手を離せ!!カルシャ!!」


無力だ。目の前にいるのに大事な人を守る事すら許されないのか。カルシャは縛っていた髪を掴み上げられ引き剥がされる。そしてフィッツは丁寧に研いだ自慢の爪を彼女の首に少し当てる。すると薄く血が滲んで垂れた。


「やめろ!!頼む!!やめてくれ!!」


壁に打ち付けられた金具がミシミシと音を立てた。そして次の瞬間には甲高い破裂音と共に弾け飛ぶ。完全にスイッチが入ったバンサはその勢いと共に鉄格子に衝突する。それは鋼鉄製にも関わらずグニャリと形状が膨らみ、今にも怒れる猛獣が檻から飛び出しそうだ。そして側近が剣を引き抜いて前に出た。


「近づくな!!それ以上来たら!この女を殺すぞ!!」


バンサは極限状態の中で何とか理性を呼び戻した。彼をどれほど疲弊させようともその心に宿った勇敢な魂だけは奪うことは出来ない。


「要件をさっさと言え!!!!」


猛獣の咆哮と共に言い放ったその一言でフィッツとその側近達を遺伝子の隅々まで恐怖させた。けれどその悪どい性質を消し飛ぶまではいかない。そしてバンサはとんでもない条件を突きつけられるのであった。

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