第六十四話 兄弟と終末のシェルター
生きとし生けるもの全てに寿命があり必ず死を迎える。それが生命の循環であり限られた資源を分配する仕組みだとも考えられる。けれど例外が一つだけある。それが不死の存在だ。人類はファンタジーの概念からそれをアンデットやゾンビといった一度死んで肉体だけが蘇った者の総称としてのジャンルを発明した。
けれど本当の不死とは神々以外にあり得ないのだ。これには幾つのも反論が浮かんでくる。しかし神話は怪物達が持つ不死を神の仕業だと結論付けている。疑う余地はない。故に生者を憎む不死の王がこの世に顕現したのならばそれは間違いなくその裏に神々が関わっているのだ。しかし腐り落ちても尚動き続ける肉はアンデットと言って差し支えないだろう。
そして今、生者を憎むとかのレベルではない世界の終焉までのタイムアタックが開始した。流石にその引き金を引いた事については反省している。けれどこの状況をチャンスに変え、生き残る活路を見出すにはそれしか無かった。
創造神ブラフマーの肉は身から溢れ出た代謝物で黒い玉を形成して宙に浮く。そこからウネウネと触手を伸ばしながら辺りにあるもの全てをその混沌の海の中に沈めていく。それは正にブラックホール。自分が創ったものを壊して何が悪いのか。まるでそれを行動で示すかのように無言のままヒステリックな狂気を孕み、暴走を続けている。
兄弟は焦った。けれど今しかない。シータ達を神器で捉えたまま。2層の地盤に空いた大穴から更に下層へと移動する。神の子らが通った道を辿れば何処までも深く落ちる事ができる。けれど闇雲に探して、まぁちゃんが見つかるとは限らない。
すると羅針盤のような神器が反応する。それはとある一方を指していた。ブラフマーが案内してくれると言うのか。それに従い先へ進む。そして辿り着いた巨大な金庫。
立派ではあるが錆び付いてとても見窄らしい。しかしこの特徴は間違いない。人工神器である。指し示す方角は依然とこの中を指している。開け方がわからない。表面を触り、小突いて反応を確かめるのであった。
その頃、とある所にまぁちゃんとラーマと矮小な老婆が一緒に過ごし、暇を持て余してつまらない遊びに興じていた。そこはまるでシェルターの中の様な作りである。半円状の空間で窓がなく空調機だけが取り付いた壁面。その中心にクッション性の高い床材が敷き詰められ気持ち程度の室内遊具とおもちゃが置いてある。
するとコンコンと外からノックの音がした。この中は安全だ。そう言われて誰が来ても開けてはいけないらしい。ただし、外が安全になればシュルちゃんのお母さんが迎えに来る。そう約束した。一緒にいるこのお婆さんはその更にお婆さんと言う事で話も色々と合っていたし可哀想だったから入れてあげた。
二人の子供はその方を不安な目で見つめる。けれどそればかりで返事をしない。流石に今度は声をかけることはできない。お迎えが来たわけでも無さそうだ。そして老婆は座った目でやれやれと立ち上がり、声をかける。
「誰だ!そこにいるのは!」
その声色は見た目に反して若い。違和感はあるが子供達は特に気にする素振りもない。壁の向こうに誰がいるのか大体想像がつく。けれど現状は少し違っていた。
「シュルパナカーなのか?…お前こそ、そんな所で何をしている」
その声はの主は聞いた事がないし、知り合いの様な素振りが不可解だ。二つの音がハモって聴こえる奇妙な人物。怪しい。確認するか。老婆が指で何かのジェスチャーを出すと、影から見ていた何者かがその合図を見て行動を起こす。
それは隠しカメラから中を様子を観ていた黒豹の獣人部隊である。彼らはシュルパナカーに忠誠を誓った忠実な部下。死など恐れない。地獄の果てまで着いていくと誓った彼女の信徒である。そして外の様子を確認すし報告する。
(シュルパナカー様。黒い狼の鎧を着た…子供…失礼しました。背の小さな男です。顔は確認できませんが鎧から黒い手が伸びて神器らしきモノを複数所有しています。それと…)
密偵は報告を続ける。発動した樹木の神器は明らかに彼女が使っていた物だ。それが巨神を一体と奇妙な骨格を捉えて身動きを封じている。怪しいとかの騒ぎではない。危険以外の何でも無かった。
普通ならそれを排除する術に思考を振る活動させる。けれどシュルパナカーは無線イヤホンから聴かされた情報を元に間違いなく破壊神側の使徒ではない。むしろその使徒を手見上げにここまで来たとも言える。
ただこんなぶっ飛んだ事をやってのけるのはあの兄弟しかいない。皺くちゃな顔が更にシワを増して笑顔になる。
「遅いじゃないか。待っていたぞ」
そう言うとシェルターの扉の鍵を躊躇なく開ける決断を下すのであった。




