第六十一話 兄弟は一つになる。
信じられない。いや本当は信じたくないだけだ。けれどもう手遅れかも知れない。ほんの少し前のことだ。頭の中で鮮明に思い出される輝かしい記憶の数々。それは苦しくも楽しい彼らとの思い出。それを証明する術はない。けれどこの想いは改変された真実ではなく。普遍的なオリジンであり事実であると心から信じたい。その気持ちは不安を遥かに勝っている。瞳を閉じると昨日の事ように瞼の裏に浮かんでくる。
シータはとても澄んだ眼をした活発な女性だ。無鉄砲だが正直者で元気そのものである。それが魅力であり兄弟はそんな彼女が大好きだ。
フェヌクシスとは関係が少し浅い。けれど彼の熱い魂をヒシヒシと感じていたし、膨大な情報を捌くショウタロウにも助言が出来るほどの切れ者だ。出会ったその瞬間から仲良くなれると確信した。大きな信頼を寄せていた。
ハヌマーンは最高。その一言に尽きる。勇敢で頼もしい。彼がその場にいるだけで誰もが熱狂的になる。世界を変えるだけのカリスマ的パワーの塊だ。もちろん最強だ。尊敬もしている。少しおバカなところも親しみがあって大好きだ。彼は僕ら少年のヒーローそのものである。
そんな愛すべき彼らは破壊神の本質に毒されてしまった。あの虚な眼だ。兄弟は涙を流す。許せない。彼らの魂は殺されたのだ。何という身勝手さだ。
「シータ!!フェヌクシス!!ハヌマーン!!」
わかっている。返事など帰ってはこない。代わりに彼らの攻撃が飛んでくる。向かってくる巨大な槍は神速を超えて横をスリ抜けていく。けれど次の瞬間には腹を串刺しにしてショウタロウのど真ん中に突き刺さった。
結果が改変されている。躱した事実を破壊され、ど真ん中に命中したという真実に未来を編集されたのだ。ハヌマーンの歯車の眼は尚も回り続ける。こんな所で死ぬのか。そう思ったその時、心に直接届く声が聴こえた。
(にいちゃーん!!)
自分のことを必死に叫ぶ弟の声。まだ愛すべき人はいる。諦めるのはまだ早い!ショウタロウは気合の雄叫びで空間を震え上がらせた。突如として体は膨大に膨れ上がりこの一体を飲み込む巨大な球体へと成長する。
「うらぁぁぁぁあああああ!!!!」
それは先を見通せないほどにドス黒く。コールタールのような質感を持っていた。敵となった3人はその勢いに吹き飛ばされたがダメージは一切ない。瞬時に翻し、全力の攻撃を連発して膨張する勢いを殺そうと必死である。その甲斐もあったのか。ピタリと成長は止まり。急激な収縮を始める。
その中心にいたショウタロウに黒いゴムのような材質がピッタリと張り付いてとあるフォルムを象った。それはオオカミか人狼か。少なくともそう言った鎧を纏った人型である。その身長は120センチ前後。6歳児の平均身長並みだ。その頭部の顎が口を大きく開け、パーカーのフードのように背中に回る。そこにはショウタロウとリョウスケを足して二で割ったような特徴を持つ少年がいた。2人は本当の意味で一心同体になる。その額には第三の眼。それが苦しむようにギョロギョロと暴れ回り血の涙を流す。
そして兄弟は何処からともなく黒いハチマキを取り出した。それを額にしっかりとキュッとキツく巻いた。上目遣いでかつての仲間を見つめる。気合全開の表情でキメた。破壊神の眼は完全に塞がれて嘘のように沈黙する。そんなハチマキには漢字で「世界平和」。白色の明朝体である。その想いは一刻も早くこんな茶番を終わらせたいと言う2人の願いが込められていた。
けれどその裏に人間らしい欲深さもある。仲間の目を覚まさせ、魂を復元し、破壊神の頬をぶん殴って、まあちゃんを助け出し、ついでに魔王もぶん殴り、おまけに創造神もぶん殴る。そして全員正座で並べて説教してやるのだ。兄弟は本気である。その決意を偉い人が買い、支援してくれたのがその何よりもの証拠。その偉い人が創造神ブラフマーであるとかそんな細かい事はどうでも良い。俺達がやってやるんだ。感謝しろ!そんな感じだ。
そんな事を想っているうちに敵は目前まで来ている。心配ない。全身に力を込めると鎧の隙間から暗黒が溢れ出し幾つもの腕になる。その手全てに失われた神器が握られている。使い方などわからない。ただそのうちの一つは知っている。それに神力を込めると瞬く間に大木へと成長し到達寸前の三人を捕まえる。
ハヌマーンの瞳の歯車が高速回転する。けれど結果は編集されなかった。兄弟を見るとその奥義によく似た動きをするクリスタル素材のカラクリ時計が内側の黄金の歯車を逆回転させ効果を打ち消す。
「待ってろよ!俺がお前ら全員助けてやるからな!!」
その声は兄弟をハモらせたような声だ。その思いが伝わったかどうかはわからない。ただ虚だったシータの瞳には涙が溜まっているのであった。




