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兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
第五章 ランカー島編 前編
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第五十七話 兄弟の絆


死期を悟ったとき、人は今までにやり残した事を悔やむのだろう。その後に残された時間で出来ることはあるのか前向きに考え始めるものだ。現在の自分が持てる可能性の中で本当はやりたかった事柄に意識がフォーカスされるはずだ。


2階層で待つシュルパナカーは、甥っ子の命がプツリと事切れる気配に己の運命を悟る。アレは最高傑作の一つだった。人工神器の装甲に破壊神の力を取り込ませることで神々に匹敵する超常の存在になっていたはずだ。それがやられたという事は…。


「私がここで時間を稼ぐしかないと言うことか…」


ため息を漏らす。一度死に又もや死ぬのか。過去の記憶が曖昧だからと言って慣れてしまうほど気軽なものではない。彼女は天井を仰いだ。彼らはまだ降りては来ないらしい。


その頃、ショウタロウは破壊神と化した力の制御に悩んでいた。元に戻る事ができない。いや。正確に言えば戻る事は出来るのだろう。けれど一歩間違えれば神の肉体で抑え込まれているこの宇宙創生に匹敵する膨大なエネルギーが世に大放出され世界は終焉を迎えるだろう。そんな結末は望むところではない。神の真の力に触れた自分がそれを一番良く理解出来た。


すると手元の弓と矢が意志を伝えようと瞬く。そこから流れるメッセージを彼はハッキリと受け取る事ができる。


(にいちゃん!凄いや!もう無敵だね!)


リョウスケはこんな姿になっても前向きであった。こちらの世界に来る前の彼を思えば精神的にとても成長したと感じる。子供ながらの適応能力だろうか。ショウタロウはそんな弟に神力を流して形状の制御を試みる。そして何かのプロテクトに衝突する。それはとても悪意のあるモノに思えた。今の力ならそれをどうとも出来るはずだ。躊躇いなく解除した。


すると黄金の弓と矢は手元で溶け落ちて底の方でお互いに融合し始める。そして光り輝きながら巨大な犬の形に変化する。現れたのは犬型の巨神。リョウスケは新たな力を得た。更にその図体は縮小していく。そして一度は子犬の大きさになり、その次に人形に変化する。


そこには懐かしい弟の本来の姿。もう二度と見る事が出来ないと思っていた。けれど今、彼はそこにいる。側に行きたい。その願いは無意識化で力を制御するトリガーになった。破壊神の体内でショウタロウの本体が目を覚ます。突き刺した神器に様々な組織が絡みついて結合していた。無理矢理に引き抜くのは推奨出来ない。意識を研ぎ澄ませてこの神体を構築したシステムの構造を読み解いていく。


そして又もや例のプロテクトにぶち当たった。それは己の心の中にあった。その呪いにも似た選ばれし者の烙印はただ自分達を押さえつけるための首輪である。そんなモノは要らない。一捻りで粉砕した。


途端に視界が変わる。何処までも広がる地平線が眼に映る。深い混沌の世界で何者かがこちらを見ていた。画像として認識できないその姿に概念的な神よりももっと遥か先の存在であるように思えた。


そして意識が戻る。世界の全てが見える。本来の自分が持っている人間的な要素が全て刺激を受ける。途轍もない全能感に襲われた。このままでは飲み込まれてしまう。その時、彼女の声が聞こえた。


「しっかりしろー!!」


視界が破壊神の四面に移る。体の四肢が自傷行為に走り、自分自身を狂ったように殴りつけていた。それはプロテクトを外された場合の安全装置。もはや神は自分達を使徒とは思わないだろ。反逆者。或いは神に仇成す者。


その情報が正確に伝わったならば次に狙われるのは自分達かも知れない。けれど元からそんなモノはどうでも良い。攫われたまぁちゃんを助ける。その為だけに勇気を振り絞ったのだ。尚も声が聞こえる。


「ばかぁーー!!やめて!!」


ボロボロになりながらも何とか自分の自殺行為を止めようと必死なシータの姿が見えた。途端に精神が安定する。すると暴走は止まり神体が沈黙する。ショウタロウの勇気は快楽による精神的な攻撃と物理的な破壊を上回った。息を整えてもう一度、自ら神体の制御に入る。


それは今までとは思えないほど溶け込むように馴染んだ。注ぎ込んだ神力は神器を伝って再び彼の中へと帰って行く。そこに残ったのは骨格だけになったガルーダと気絶したフェヌクシス。そしてこどもの姿のまま髪を黄金に輝かせ両目を閉じ第三の眼だけを開眼させたショウタロウがいた。


「にいちゃん!!」


彼の元へリョウスケが走って行く。一切手加減することなくそこ胸に飛び付いた。兄も愛する弟を全力で抱きしめる。


「よかったぁ…。よかったなぁ」


2人は共に泣き叫んだ。この時、神力によって悲しみや苦しみを抑え込まれ溜め込んでいた感情の全てが一気に溢れ出し思う存分、心を曝け出す。そこには兄弟だけの世界が広がっていた。

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