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兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
第五章 ランカー島編 前編
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第五十六話 兄弟は神を借りる



とても人が持てるような代物ではない。お飾りにしても大きすぎる。黄金に輝く弓と矢は神々しさだけを放つばかりで使用できる者などこの世にいないのかもしれない。けれどそういう考えは、神々の基準を当てはめなければの話だ。この場に選ばれし者達が募っている。彼らにとっては希望そのものであり、神々にとっては由々しき事態だ。


「リョウスケ!!」


着地したショウタロウが見当たらなくなった弟の行方を探す。その声に反応したのは彼の隣で存在感を放つ黄金の弓であった。断続的に瞬いて、兄に何かしらの意思表示をする。


「リョウスケなのか?何故そんな姿に…」


いつもなら直ぐに答えを授けてくれる第三の眼は一向に反応を示さない。自分達は見捨てられたのか。そんな不信感が脳裏に浮かぶ。だからと言って絶望するつもりはない。言葉で分かり合えなくなっても触れる事でその温もりを感じた。弟は生きている。必ず元の姿に戻してやる。けれどまずは敵を排除しなければならない。ショウタロウは走る。向かうは巨神となったシータの下敷きになっているガルーダのところだ。敵が目覚める前に行動するしかなかった。


神の意志とは違う。彼だけの考えで行動が進む。そしてヒビの入ったガルーダの装甲を一蹴りで破壊し風穴を開けた。それから無理矢理中に乗り込んだ。目指すは心臓。つまり操縦室だ。


以前なら光による案内があったが今回は扱いが違う。神との通信がうまく行かないせいだろうか。本来は侵入した敵を排除する機能が自分に牙を剥き、執拗に攻撃をしてくる。それを全て弾き飛ばし中心部へと向かう。けれどガルーダの体内に広がる小宇宙が距離感を狂わせ妨害する。


「フェヌクシスは何をやっているんだ」


恐らく気絶してしまったのだろう。そうでなければ自分はこんな目には合わないはずだ。けれど叩き起こすにも心臓部に行かなくてはならないのだ。そんなとき、頭に浮かんだのは斬新なアイデア。


よく良く考えると、何故心臓に直接神力を注がなくてはならないのか、以前なら一度も浮かばなかった。けれどそんなぶっ飛んだ閃きを止める神の見えざる手は今尚機能していない。ショウタロウは手に持った黄金の剣でガルーダの体内を突き刺した。そこにありったけのエネルギーを注ぎ込む。


「ウラぁぁぁぁぁあ!!!」


それは限界を突破しガルーダを完全に支配した。もはや毛の一本すら感覚が共有される。起き上がった巨大な鳥人は気絶したシータをその場に寝かせ立ち上がる。すると全身に伝うひび割れから黄金の光が強く発せられ、ボロボロと剥がれ落ちる。破壊神の制御下を離れ、体内に小宇宙を持ったそれはもはや現存する神の姿。


長く黄金に輝く髪を天井へと高く棚引かせ。筋肉隆々。腕は八本、頭は前後左右で4面を持つ。その全てに第三の眼を開眼し、それぞれの表情に喜怒哀楽を表現する。そして四つの声色をハモらせて言った。


「こんな隠し球があるとはな、破壊神もケチな野郎だ」


違和感を察知して遂にインドラジットが意識を取り戻す。見ると己の体から発せられた黄金のオーラが敵のいる向こう側へと吸い込まれているのだ。彼は観た。そこに顕現する古の神の姿を。


足が竦んだ。不屈の精神はあくまでも人類の世界観から齎されるサクセスストーリーだ。それが神々のテクノロジーを得たところで神話の下位交換でしかない。けれど目の前にいるのは不滅の存在である。勝ち負けなど等に意味をなさなくなった。


神の化身は巨大な弓と矢を拾い上げる。けれど逃げる事は出来ない。神力の全てを吸い取られ、カラカラに乾いた体は錆びついた鉄屑のように摩擦を起こして上手く動かない。潤滑油を必要としてキーキーと不快な音を鳴らすばかりだ。


弓は構えられた。動かない標的では誇り高く死ぬ事も許されない。自然と口から命乞いが搾り出されていることに気付いたのは相手の返事があったからだ。


「し、死にたくない…。見逃してくれ」


「それはどういう意味だ?」


その声は喜んでいるのか怒っているのか複数の声色が混ざり感情を読むのが難しい。けれどただでは見逃してくれそうにはない。父に抱いたような雪辱の気持ちは一切湧いて来ず、平伏す事だけが正解のように思える。気付くと床に額を擦り付けていた。


「お許しください。どうか寛大な御慈悲を…」


彼の意識はそこで途切れた。答え次第で生き残る事が出来たのかは誰もわからない。


「もう休め。安らかに」


その一言はどの面からも発せられたものではなく、ショウタロウ本人から静かに伝えられたのだった。

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