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兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
第五章 ランカー島編 前編
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第五十五話 兄弟は再び鼻を噛みちぎる


プライドは地に落ちた。失うものなど何もない。今日を生きるか。明日死ぬのか。拾い上げた最後の一粒。何もかもを無くしても消えることのない自分だけの存在意義。その為だけに生きてきた。その本質を再認識する。


俺は決して優秀ではなかった。そういう人は多い。違いがあったとすれば諦めたか、諦めなかったか。それだけだ。魔王の息子として生まれたというアドバンテージを父は一切使わせなかった。


取り入ろうとする者。おべっかをへつらう者。俺に近づいてきた奴は皆、いつの間にか周りから居なかったことにされていた。孤独だった。父は自分の息子を崖の底に突き落としたのだ。自力で這い上がってくることを期待したわけでも面白がってやったわけでもない。ただ計画に必要がない。それだけのために自分は整理されたのだ。悲しかった。


無力だ。己の原点が鮮明に蘇る。俺は過去にも一度。全てを失っていたのだ。その時は絶望したが、残ったその一粒は欲望という名の希望。野望という名の夢。決してこんなところでは折れたくない。必ず這い上がって目に物見せてやる。そんな美しさのかけらもないドロドロとした不屈の精神だけが俺をもう一度立ち上がらせたのだ。


それが今、更にもう一度。この俺を立ち上がらせた。三重に折れ曲がった脚が少しずつ、跳ね返るバネのように復元し立ち上がり始めた。潰れた体から錆びた外装がボロボロと剥がれ落ちる。その中から黄金の肉体が顕になる。それは光り輝くオーラを周囲に放ち全身に力を漲らせる。


掴み取ったガルーダの刃をグイグイと返していく。そして完全に立ち上がらせた。黄金の巨神インドラジットはその眼に不屈の炎をメラメラと燃やし言い放つ。


「我は負けん!この身が八つ裂きにされようとも!!我の心だけは決して負ける事はないのだ!!!」


その勢いのままガルーダを吹き飛ばす。巨神となったインドラジットの額には覚醒した第三の眼。彼は神の力を力ずくで我ものにして見せたのだ。


それと入れ替わるように猿神の奥義を使ったシータが巨神となり、勢いを取り戻し突撃してくる黄金の男を目前にして拳を構えた。彼女の肩に乗っていたショウタロウが黄金の弓で相手の急所を狙う。そして放った。


矢は神速を超えて一直線でインドラジットの心臓を射抜いた。けれど現在纏っている無敵の防御力は自分と同じ。力は拮抗してお互いに弾き飛ばされる。リョウスケが急いで矢を拾う。しかし矢尻にヒビが入り粉々に砕けた。


絶体絶命。自分が繰り出せる最大火力が防がれてしまった。今にも奴は立ち上がり再び襲ってくるだろう。そして先に戻ってきたのはガルーダ。こちらもダメージが大きい。体躯にヒビが入っている。神力の補給が必要だ。


「何だよアイツは!!反則じゃないか!」


フェヌクシスが激怒する。そして向こうから戻ってきた黄金の巨神。胸を押さえ屈辱の表情。無傷では無さそうだ。


ショウタロウは思い出す。矢の錬成方法を。初めて覚醒した時の記憶はとても曖昧だった。何故、リョウスケはシュルパナカーの鼻を噛みちぎり、それが矢となったのか。答えを求めても第三の眼がなぜか応答しない。もう一度それを試すしか無かった。弓を剣の形に変える。他に方法がない!やるしかない!


「シータ!少しの間でいい。奴の動きを止めてくれ!」


「わかった!!」


シータの肌が白銀の体毛に包まれる。それは彼女の全身を守る神獣の鎧。その姿は猿神の一族の奥義。鉄壁の衣を纏い戦に出る。そして地響きを鳴らしながら相手に突っ込んで行く。インドラジットもそれを見て負けじと勢い付く。


衝突と共に手と手が掴み合う。しかし向こうは四本腕。それが彼女の胴体を抑え込もうとしたその時、後ろからガルーダが先にその腕を掴んだ。


「何?!」


「お返しだ!!」


ボロボロになりながらも何とか抑え込む。けれどそれは長くは続かないだろう。するとリョウスケの背中に乗ったショウタロウがガルーダの背中を走り登り飛び上がった。


そして弟の上から飛び降り、インドラジットの片方の鼻を切りつけた。硬い。刃が中々通らない。けれど少し食い込んで傷を作る。すると空中にいた犬神リョウスケが体毛を黄金に輝かせて凄まじい勢いで落下する。牙を剥き出しにして巨神の鼻に齧り付いた。


その衝撃で傷が亀裂に発展し、応力が集中したところから脆性破壊が起こった。無敵の防御力を纏った鼻はポッキリと折れて噛んでいたリョウスケと共に落ちていく。そして視界が真っ白に染まる。何かが起きた。


鍔迫り合いのように揉み合っていたその中心で何か凄まじい力の爆発が起こる。三体の巨体は左右に吹き飛ばされ引き剥がされた。


光が収まるとそこにはリョウスケの姿はなく。代わりに黄金に輝く弓と矢が転がっている。けれどその大きさは半端ではなかった。

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