第五十四話 翻弄されるラーマとまぁちゃん
大きな衝撃と共に世界が揺れている。部屋の明かりが消え非常灯が点いた。扉の外から警戒心を煽るような甲高いサイレンが響く。急に一変した雰囲気は幼いまぁちゃんの恐怖心を煽るのだった。
「大丈夫かな」
そう言って胡座をかいたラーマ少年の脚の上に座る。そういう時は決まって彼女の小さな体を抱き締めてあげる。そして「大丈夫、俺が守るよ」そう言ってあげるのだ。その根拠なき意思表示に何の疑いもなく少女は「うん」と当たり前のように力強く頷くのだ。そんなやり取りが二人の無力感を薄れさせ不安は心なしかポジティブなものへと変わる。
横目に見るメイド達はお互いに目を合わせて何かを話す。すると1人が部屋の扉を少し開けてその隙間から外の警備兵と会話をし始めたのだ。初めて見るやり取りだ。間違いなく何か異常な事が起きている。話を一頻り終えると「ありがとうございます」と言わんばかりに頭を下げた。扉が静かに閉まる。
情報を掴んだ女性は小声で同僚に状況を説明する。コソコソと対応するその姿は何かを隠していることが明白だ。彼女らはこちらに詳しい情報を与えたくない。そんな意志が行動に現れた。けれど気になるものは気になるのだ。そしてメイド同士で打ち合わせた後、1人が近づいてくる。
「お嬢様。これから少々騒がしくなりますが、直に治ります。ご心配ありませんよ」
優しい笑顔で笑いかけ不安を取り除こうとする。けれど尚も衝撃が続く。只事では無い。そんなタイミングで外から扉が開かれた。その隙間から黄金に輝く光が差し込む。それを見たメイド達が驚きに目を見開いて一瞬反応が遅れてしまう。けれど直ぐにハッとなり、入口に対して直角に整列して並ぶ。それが一斉に頭を下げ90度の位置で姿勢を止める。その雰囲気から無言の敬意が感じ取られた。
扉が完全に開く前に足が隙間から入ってくる。エナメル質の黒い光沢が非常灯の明かりでギラリと光る。そして凶器のように高いヒールに目が行き、太腿の辺りまで伸びたオーバーニーブーツが顕になる。颯爽と姿を見せたのは全身をキャットスーツで包んだセクシーな女性。実際の年齢は数百を超える。けれど見た目だけなら若々しい18歳前後と言ったところだ。そして部屋に充満する光り輝く黄金のオーラの正体はそんな彼女の長い頭髪と覚醒した第三の眼から齎されていた。
「急いで支度しなさい。出掛けるわよ」
そう言ってメイド達に指示する。彼女らはハキハキと返事をして、普段の気の緩みを一切見せず信じられないスピードでテキパキと支度をする。まぁちゃんとラーマはされるがままに身なりを整えさせられる。
そして黄金の少女を目の前にした2人は少し疑うような目線で対峙する。何故ならシュルパナカーがこの覚醒した姿で彼らに会うのは初めてだ。それを今説明する必要もない。
「行くわよ着いてらっしゃい」
何の躊躇もなくまぁちゃんの手を握り扉の向こうへと連れて行く。ラーマもそんな早い歩幅に習う様にして着いていく。その近い距離感に違和感はなく子供達はいつの間にか自然と受け入れていた。何故だか安心する。それにこの匂いには覚えがある。シュルちゃんが来た時の良い匂いと同じ。小さな少女はそう思う。
「シュルちゃんのお母さん?」
「そうね。そんな感じかしら」
シュルパナカーは第三の眼を覚醒させる事で破壊神の力に不正アクセスしているような状態だ。その間は神の監視が著しく阻害され情報を掴めなくさせる事が出来る。その前にこの子を安全で見つからないところへ隠す。本来の任務とは違うが彼女の優先順位ではそれが一番だった。
「何処に行くの?」
「地震が起きちゃったから安全なところに避難するのよ。幼稚園で習ったでしょ?」
何故それを知っているのか小さな少女にそれを疑問に思う事は無い。
「そうだね!…あっ!机の下に隠れるの忘れちゃった!」
「あら、次はちゃんと隠れなきゃね」
そんなたわいも無い会話をしながらカツンカツンとヒールの音を鳴らし子供2人を何処かへと連れ去るのであった。
一方、この騒動を巻き起こした元凶であるフェヌクシス達は、崩れた大穴の中へと滑落し2層目の地盤に激突した。無敵の防御力を誇るショウタロウはその黄金のオーラで仲間を守り無傷である。
けれどガルーダが空の彼方から隕石のように撃ち込んだ凄まじい神撃は巨神となったインドラジットをボロボロに歪ませた。その衝撃を受け切った脚は三重に折れ曲がり、胴体は下半身に沈み、双頭は潰れた。けれど四本の腕だけはこの巨大な鳥神の刃をしっかり受け止めて掴んでいた。




