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兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
第五章 ランカー島編 前編
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第五十話 兄弟はと火神アグニ


満たされない。嗚呼、あの頃が懐かしい。人は何故、我を崇めなくなったのか。我を見よ。もっと観よ。この膨大な海の水が泡立つほどの熱を観てくれ。この様な事ができる者など我を除いていないのだ。これが神の力ぞ。恐れ崇め讃えよ。我はここに有り!人類よ観よ!そして美女を我の前に連れて参れ!


切実だ。こんな神様は観たくない。何とふしだらな願望なのだろうか。威厳のかけらもない。しかし今回ばかりはそれに救われそうだ。


漁船が一隻。荒れ狂う海域を目指して大海原を進む。その先端にロープで巻き付けられたエキゾチックな女性が唇をへの字に歪めて不満を露わにしている。首や腕に金細工の装飾品を身につけ。体は薄い布を巻き付けただけの簡単な服装である。それが降りかかる海水で濡れて地肌を薄らと浮かび上がらせていた。


「本当にこれで良いの?!」


その当人であるシータは不安を隠せない。甲板に立つショウタロウは本来の姿のまま腕を組み「大丈夫!任せろ!」そう言って海面に睨みを効かせている。シータの不満は着実に積み上がっていくのであった。


そして遂に異変は起きた。船底の海面が何かに乗り上げたかのように浮き上がりその高い位置のまま船は何者かに捕まって動かなくなった。


「捕ったどー!!」


元気いっぱい。ハイテンションで高らかに叫ぶのは巨大な男を象った炎の塊。双頭で顎に髭を蓄え人当たりの良さそうな好々爺。その体を形造る深い赤は反対側を見通させないほどに密度が濃い。そして船の先端へ贈る二つの眼差しはスケベ親父そのものである。


「これはワシのじゃ!もうワシのもんじゃ!!」


二人分の声がハモって聞こえる。ふざけた事を言っているがその表情は本気。狂気の発言である。「大事にするからのぉ」そう言ってウットリと眺める。恍惚に開かれた口の中に無数の舌がレロレロと高速で蠢いて舌舐めずりをしている。シータはゾッと身震いして甲板のショウタロウとリョウスケに目で訴える。「キモ過ぎる」そう言いたいのだろう。けれどチャンスの時まで喋ってはいけない。間もなくそのタイミングが訪れた。


火神アグニは胸の溝落ちに、手の指を突き刺し肋骨部分を開口した。その中にアグニが創造した悪趣味な世界が封じ込められている。覗くそこはボロ雑巾のように痩せこけた皺くちゃの人型が無数に項垂れて寝ることも死ぬ事も出来ず、悠久の時の中で絶望に暮れていた。かつては美しい娘達だったのだろう。それを不要とばかりに掴み出し海へ乱雑に捨て去る。深い海に沈みゆく人型は安らかに目を閉じ、ようやく解放されたと喜びの表情を浮かべて海の底へと姿を消した。


そして中身が綺麗に片付くと開口に船ごと押し込んで入れ始める。チャンスはもうすぐ。アグニはシータの美貌に夢中で甲板の子供に気づかない。そしてスッポリと入れ込んで大事に仕舞おうとしたその時だ。胸の穴から湯水の如く黄金のオーラが溢れ始めた。


「な?!何!!!」


大パニックである。突然現れた異物を取り出そうと何度も手を入れては掴むを繰り返す。けれどもう船はものけのから。取り出した頃には遅かった。


「シヴァめぇ!!やってくれよったなぁ!!」


火神アグニはまんまと破壊神の罠にハマってしまったと激昂し周辺の海を滾らせ膨大な湯気が辺りを覆い隠す。これから何が始まろうとしているかなど外界からは一切見えなくなった。そして神の体内への侵入に成功した三人はあるモノを探して進む。


それを阻むように燃え上がる火神の胸の中は浄化の炎で満たされ神を冒涜する不届き者どもを燃やし尽くそうとしている。けれど第三の眼が覚醒し輝く黄金の頭髪と立派な肉体に成長したショウタロウが神々しいオーラで仲間を包み守る。船の先端から(ほど)き降ろしたシータの手を握って立ち昇る炎の中を掻き分けて進んだ。


彼女の胸の内にモヤモヤとした不満と嬉しさが入り混じる。見上げたその逞しい背中は強く、握られる手には優しさがあった。ズルい。ズルい男だ。その視線に気付いたショウタロウが振り向く。


「どうした?」


やはりその顔は彼女のストライクゾーンど真ん中に直撃し顔を赤らめさせた。二人の視線は無言のまま数秒間留まる。高鳴る心臓の音が漏れ聞こえそうなほどにバクバクと心を振動させる。今、彼の表情でちょっと許してしまった自分が悔しい。


「何でもない…けど…」


「けど?」


何か見返りが欲しい。借りは十分に出来た。交渉するだけの権利が私にはある。シータはそう思い勇気を振り絞った。


「…するから…。私絶対にあんたと結婚するから!」


「はぁ?」


その突然の言葉にフリフリしていたリョウスケの尻尾がビタっと止まる。何やら始まった男と女の大人な展開に口をアワアワとさせてショウタロウとシータを交互に見るのであった。

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