第四十七話 兄弟は企む
大陸とランカー島を跨ぐ海域。その間に海神が住んでいるという。そんな逸話がある。海は陸の神々にとっても未知の領域。冥界へと続くその深海の世界は死よりも恐ろしい現象に満ちていた。この大航海時代においても魔王軍の護衛無しにまともな航海は出来ないとされていた。
世界各地の戦略的要所には魔王軍の基地が建設されほぼ全てのチョークポイントは押さえられている。その一つ一つがかつて海神の被害で海運が出来ないと諦めかけていた重要なエリアだった。その海の脅威を武力によって制圧した。魔王の覇権は世界のあり方を根本的に変えてしまったのだ。
そして世界の海は解放された。活発な貿易経済は国を大変裕福にしその利益なしでは立ち行かないほどに世界各国の人々の暮らしは豊かになったのだ。その一方で貧富の格差は極端になってしまう。選ばれし金持ちだけがいい暮らしが出来る。そんな世界になっていったとも言えるだろう。
けれど未だ野放しになっている海神が一柱だけ残っていた。それがランカー島周辺に住む火神アグニである。彼は古い神で海底火山の全てを操って管理していた。創世記。神々だけが世界を牛耳っていた時代に創造神ブラフマーより陸の創造を任された偉大な神なのだ。けれど今となっては破壊神によって海の底に封じ込められた哀れな存在でもある。
そして現代。魔王に首輪をつけられ島に攻め入る敵を殲滅するための国防装置としての役割が現在の姿だ。もはや番犬である。けれどアグニ自身はそうと思っていない。ただ縄張りに侵入して来た不届き物を怒りのままに排除した。破壊神の眷属に目に物見せてやった。そんな志で日々を過ごしているのだ。その脅威は上空にまでは及ばない。今日も魔王軍の飛空戦艦が何隻も空を行き来しその運航を妨げる障害は存在しない。海の上では味わえない快適な空の旅が約束されていた。
今日も空は晴れていい天気である。海は暴れる火神アグニの荒々しい性格で荒れに荒れているが、空はちょうど良い風が吹きとても平和である。そしてその更に上空。大気圏を超えたほぼ宇宙空間で真っ赤に照らされたガルーダがランカー島のすぐ足元までやって来ていた。その中で最終的な作戦を打ち合わせている。
「それは譲れない。そんな作戦は無しだ!」
ショウタロウがフェヌクシスの考えた奇襲作戦に難色を示した。
「そんなこと言ってる場合か?あの島は敵の本拠地だぞ?戦いは始まりが大事なんだ。最初の一撃でどれほど敵の戦力を削ぎ落とすかが勝利への鍵だ。わかるだろ?」
そんな事は百も承知だ。第三の眼が弾き出す最適な戦略もこのガルーダから発射する最大火力を序盤に使う事を推進している。けれどそんな事をすればまぁちゃんの無事を保証できない。魔王がそれを加味して人実に取っているかは未知数だがそんな作戦は断固拒否である。けれどそれだけではない。
「まぁちゃんと俺らの関係はもう向こうに伝わってるかも知れない。だがなガルーダも同じだ。もし俺が全力で力を注げば確実にここにいる事がバレる。そこを対策されてないと思うか?」
「…確かに」
フェヌクシスに迷いが生まれたと同時に第三の眼にも迷いが生じる。神も魔王を恐れていると言うことか。向こうには創造神ブラフマーの肉がいる。それを盾に使われてしまえば直前に防ぐことも可能かもしれない。
「じゃあどうするの?」
シータにこの手の話は苦手だ。気の利いた意見は出せないが何とか話にはついて来れている。
「普通に入ったらダメなの?」
リョウスケが元もこうもない事を言った。けれどショウタロウは考え込む。
「それはなかなか良いアイデアかも知れない…」
「ホント!やったー!」
褒められて喜ぶリョウスケが激しく尻尾を振る。他の二人は苦笑いだ。皮肉を言ったと思ったのだろう。けれどそれは違う。今の今まで神が描いたシナリオ通りに進んできた。その度に魔王の罠にハマり苦労する。それの連続だ。そしてガルーダによる。上空からの最も最適化された侵入方法。読まれていない訳がない。確実に対策されているはずだ。
しかし海はどうだ。海神が大暴れしそのせいで荒れ狂ってまともに船を出す事は出来ない。万が一無謀に渡ろうとしても向こうは今まで戦ってきた神獣とは違い。本物の現存する神だ。力の差は歴然。そして地の利がある。間違いなく殺される。敗北は必至。けれどそこをどうにか切り抜けることが出来れば。
「名案を思いついた。聞いてくれるか?」
他の3人は食い入るように「もちろん」とそう答える。彼が悪い顔をしている。こう言う時はとんでもない悪巧みを思いた時の顔だ。そして確実に実証できると踏んだときにしか笑わないのである。




