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兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
第四章 神の乗り物ガルーダ編
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第四十三話 ジャタトリスの悲しみ


埋没した他者の人格に押し潰されて精神は暗い奥底に沈む。けれど意識はハッキリとしていた。皆の声が聞こえる。恨めしい。今更、嘆いたとしても、もう遅い。この腐った一族は我が潰さなくても勝手に滅びていただろう。それを早める手助けをしたまでだ。我は悪くない。


光が満たされる。そして弱まり再び暗闇へ。それが何度か続いた。虫唾が走るような暖かい希望だ。亀裂が塞がると渦巻く憎悪だけの世界に戻ってしまう。これこそ我の居場所だ。不満だらけの吹き溜まりを押し退けて亀裂の向こう側を覗く。そこには我ら鷹神一族成人の証。太陽の様に燃える赤色。その色に染まった巨大な鷹神の土人形。その名をガルーダ。これで3度目だ。


古い記憶を呼び起こす。産毛が生え変わる前。優雅に空飛ぶ従兄を憎い目で見上げた空の更に上。世界の果てを目前にして永遠に浮かぶ神が置いていった古き守護神の姿。それは遠すぎてハッキリとはわからない。逆光で黒く染まる。けれどその存在感は確かに我の腐った心を掴んで引き上げようとしていた。自分もいつかその風に乗って上空の彼方。誰もが見上げ憧れる同じような存在になりたいとそんな願いに気づいてそうでない自分に憤りを感じたものだ。


一族総出で持て囃すアイツと違い我はただ一人自分の闇と語り合った。それは仕方ない。誰からも見向きもされなかったのだ。分からなくて良い。ただ今思えば、守護神ガルーダだけはいつまでも見守ってくれていた。最後の一線を越えるその瞬間まで信じてくれていたのかも知れない。我は魔に魅入られ快楽にのめり込んでいた。視野は極端に狭くなり映るのはその女だけ。彼女は甘い言葉をかける。


「んっ…もうすぐよ。もうすぐで貴方の時代が来るわ」


重なる二人だけの世界で悍ましい計画が着々と現実のものへと成りつつあった。そしてある日。我の手に錆びついた奇妙な鋏が手渡された。彼女は言う。


「貴方なら出来る。皆が寝静まった頃がいいわ。誰も貴方がやっただなんて思わない。そして直ぐに貴方の魅力に気づく。大丈夫よ。私がついてる」


そう耳元で囁かれた。そこからしばらく記憶がない。意識を取り戻した頃には既に事は済んでいた。血の一滴を流さずに二枚の翼が床に寝そべる。切り離された若者は朝まで目覚めない。実感の湧かない勝利が今決した。夜が明けるのが楽しみだ。


そして朝日が昇る。悲鳴はその後すぐに聞こえた。嬉しい。奴の不幸が嬉しいのだ。駆け回り皆に説明するその姿に笑いを堪えて見せ物とした。


もう一族は我の魔に毒されている。この禍々しい鋏が全ての関係を断ち切った。何もかもが想いのまま。思わず吹き出したのを見られ奴と目が合う。怒っている。いい気味だ。


「フェヌクシス殿下は少し気がおかしいようだ。牢の中にぶち込んで差し上げろ。頭が冷えるだろう」


昨日まで奴の側近だった者が我に賛同し、奴を冷酷に蔑む。気分がいい。そう思った時だ。空から突風が舞い降りて我の力を吹き飛ばした。一族共々が正気に戻っている。不味い。そう思った。外に顔を出し目にしたのは太陽のように赤い巨大な鷹神の姿。それは正しく伝説に見た神の乗り物ガルーダそのもの。その手が我に迫る。急いで飛んで逃げた。尚も追ってくる。向かうはあの女の所だ。話が違うのだ。必ず責任を取らせてやる。


そうして見えたのは両手を広げて我を出迎えるあの女の姿。その頬は薄らと笑みを浮かべて僅かに狂気を孕んでいる。何かある。我はそう思った。


「どう言う事だ。話が違うぞ!!」


「そんな事はございません。貴方様の時代はもう始まっているのです。あんなモノはこうしてやりましょう」


そう言うと女は我の手から鋏を取り上げて自分の胸に突き刺した。それより起きた事は人知を超えている。その激しい戦いから何とか我が身を守るのに精一杯だった。美しかった彼女はもう原型を止めず、鬼神の如き暴力装置となってガルーダを追い詰めた。始めから倒す気など無い。玉砕覚悟でひたすらに砕け合う。そしてくたばり動かなくなった彼女の成れの果てを確認すると、ガルーダは力無く天空へと姿を消した。


我は勝った。そのはずだった。なのにこの悲しみは何だ。ドロドロに腐り落ちた肉の中に例の鋏がそのまま残っている。けれど彼女の姿は何処にもない。意識が空っぽになっていく。大切な何かを今失った。我は愛していたのか。あの女を。淡い思い出が蘇る。それは偽りではない。我を支えていたのはいつも彼女の言葉と温もりだった。どれほど無視されようとも、蔑まれ冷たい一言を浴びせられようとも、ここに来れば自分を取り戻せた。そんな彼女はもう何処にもいない。そして気づく。


「名前を聞きそびれた…」


悲しみが目から溢れる。そして誓う。いつか仇を取ってやる。お前を殺したこの世の中を全て壊して。歪な愛は歪な愛でしか折り合いをつける事が出来ないのだった。

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