第四十一話 兄弟と悪魔の召喚
永遠に続く文明など存在し無い。変化し発展し続ける時代の中で古き文化は衰退し次代を生きる若者がその歩みをより前へと前進させ、或いは昇華させる事で文明はまだ観ぬ境地へと移り変わっていくのだ。それは一方では悲しみと寂しさを運んでくるが同時に希望と活気を社会にもたらす。永遠とは社会が停滞し静かに死んでいくようなものなのかもしれない。
そして鷹神一族は太古の姿を保つ尊き存在ではなくなったのだ。彼らは今後、代を重ねる毎に小さく弱き者へと姿を変えるだろう。生態系の頂点にはもう二度と這い上がる事はないのだ。それは新たな時代への移り変わりだと甘んじて受け入れるほかない。けれど未だ神獣としての肉体だけは維持している。そこに注目したならば野生の世界において彼らは空の支配者に相応しい圧倒的王者だと言える。たとえその残りカスであっても使い道はあるのだ。魔王は再利用の方法を考えて細く笑む。そして言った。
「良いものを見せてやろう。また楽しい殺し合いをしようじゃ無いか!!」
両の手を左右に広げて、邪悪なオーラを周囲に解き放つ。それは亡者となった全ての鷹神の元へと届き体の自由を奪った。そして己の方へと引き寄せる。やがて取り込まれた肉の一部となる。その中に父サムパーティの姿もあった。大量の肉と骨が融合しジャタトリスの体は爆発的に大きく膨れ上がる。その大きさはガルーダと比べてその半分ほどの大きさにまで成長した。何と悍ましい姿だ。余りにもグロテスクで直視できないほどに酷い有様である。
沢山の顔が血の涙を流し苦痛に喘いでいる。ここに来て理性が戻ったのだろうか。彼らは意味のある言葉を発する。「嫌だぁ〜」、「助けてくれぇ」、「死にたくない…」そう言って慈悲を求めてきている。けれどもう手遅れだ。肉の塊となり、一度崩壊して結合した彼らを元に戻し救う方法などないのである。神の奇跡はその加護を失った時点で救いはしない。
そしてそれは段々と中心に向かって圧縮されていく。やがて鷹神一人分ほどの大きさにまで縮小するとツルリとした何者かに生まれ変わる。もはや神獣でも何でもない。未知の生物だ。途轍もない量の禍々しい力を秘めている。その特徴から似ているモノがあるとすればそれは自然発生する怪物の類。トカゲの尻尾、コウモリの翼、そして頭に生えるネジれた奇妙な角は正しく悪魔の姿。魔王は鷹神一族を生贄に捧げ悪魔の召喚に成功したのであった。
「これが神にも匹敵する悪魔の力か…」
手を握る感触を確かめながら魔王は込み上がる無尽蔵な力を感じる。そして何とも言えない全能間に恍惚な表情を浮かべた。
「さぁどれ程の力か試させてもらおう」
魔王は神速に勝るも劣らないスピードでガルーダとの距離を一瞬で縮める。けれどその時にはもう腕をクロスして防御の体勢を取っていた。構わず超重量の拳をわざと大振りで繰り出した。その二つが衝突すると巻き起こった強烈な波動が世界中に響き渡る。
世界各国全ての国がパニックに陥ったのは別の話。一体何が起きたのか誰も知る由はないだろう。けれどとんでもない戦いのゴングが今鳴り響く。そしてガルーダの腕は粉々に砕けて、魔王の拳も同様に使い物にならなくなった。しかしショウタロウ達がオーラの補給を送り続けそのお陰で腕は瞬時に復活と修復を終える。それは悪魔とて同じ。原理は不明だが彼の手も腫れと負傷の跡がミルミルと治っていく。直ぐに元通りになった。これは長い戦いになりそうである。
「はははは!愉快愉快!地獄がお前達に会いたいと願っているぞ!」
だが魔王に焦りはない。何故なら彼は命を賭けていないからだ。卑怯である。そんな奴に負けるわけにはいかない。ガルーダは分厚い胸板の蓋を左右にこじ開けて溜め込んだオーラを神力砲で発射した。魔王も流石に直撃は不味いと思ったのだろう。急いで逃げの態勢に入る。それを追って薙ぎ払う様に凄まじいエネルギーを圧縮した高密度な光線が周囲を焼き払い、遅れて大爆発を起こした。
それが過ぎ去ると一瞬のクールタイムが発生する。魔王はそれを見逃さない。一瞬で翻し欠損部を再生させて流星の如く突進した。その速さから繰り出された蹴りは避けた拍子に肩へ軌道がズレて直撃する。
粉砕された肩を貫通し反対へと通りすぎる。接続部を失ったガルーダの腕はそのまま地上へと落下した。腕を構成していた物質は全て神力の塊。制御下を離れ固形を維持するための力を失った腕は純粋なエネルギーそのモノに戻り膨張と爆破をもたらした。それでも無尽蔵に湧き上がる神力を注ぎ込まれ腕はその場で生え変わる。けれどそれは敵の攻撃に合わせて学習したモノへと進化していた。
「盾を出したか良いだろう受けて立つ!」
魔王は背中に手をまわし自分の背骨を掴み上げた。そこから取り出されたのは一本の禍々しい矛。それを盾にぶつけて何方が強いのか試そうと言うのだろう。神の力と悪魔の力それが真っ向から対決する。その矛盾の真実が今、明らかになろうとしていた。




