第四話 兄弟が捕われた
水晶が光る。その中に映るのは幼い裸猿の兄弟。それは不吉の予兆。闇の魔女は兄である魔王にそれを知らせた。
「魔王ラヴァクシャ様。今宵、不吉な予言が御座いました。あなた様は2人の幼い兄弟に追い詰められるでしょう。共にするのは猿と鳥。それがいずれこの島にやってくる。お気を付けて下さい」
魔王は何人もの女性を侍らせていた。6本の腕はその一つ一つにお気に入りの娘を抱えている。妹である闇の魔女の予言はいつも正しかった。そのお陰で幾度も助けられてきた。けれどそれは数百年前までの話である。
現在、彼は不死身の体を手に入れていた。もう恐れるものは何もない。もはや死に興味がないのだ。それを表現するように頭を振り、手をヒラヒラとさせて帰ってくれと示した。とにかく面倒そうな事は嫌だ。永遠に好き放題すると決めたのである。邪魔者が現れるなら代わりに相手をしてもらう事にしよう。魔王はため息一つして妹にそれを押し付けるのであった。
「我が妹シュルパナカーよ。我はもう無敵なのだ。心配ならお前が何とかしろ。我は忙しい」
そんな事を言われても闇の魔女シュルパナカーは表情と仕草に一切の隙を見せず「畏まりました」と頭を下げた。心配して見せたのは護身のためである。恩はいくら売っても無駄にならないのだ。今の地位をそうやって維持していた。
恐らく予言を変える事は出来ないだろう。運命の神が定めた未来は絶対だ。しかし敵の足を引っ張る程度には見せておいて、少しは兄のご機嫌をとっておかなくては後が怖いからね。魔女はそう思った。
一方、その幼い兄弟は面倒を見てくれた心優しい夫婦に全ての事情を話した。こんな子供が友を助けるために勇敢に立ち上がり見知らぬ世界へと来た。その事実は2人の胸を打ったのだ。
後先考えず感情で行動する事は無謀なことかもしれない。けれど友のため正しい事のために前に進む子供たちの姿は彼らの心を動かしたのだ。難しい事は大人がやれば良い。夫婦は自分達の正道を挫いた権力と暴力がもたらす恐怖心を剥いで捨てた。
遂に戦わなければならない。敵の正体を知っている。この国には神々の時代から生きる不死身の魔王ラヴァクシャがいる。麻薬、殺人、そして人身売買。この世の全ての悪事はこの男の元に集う。首に6匹の蛇が絡み合う刺青を入れている者は皆彼の手下だ。その影響力は国の中枢にまで侵食し腐らせている。
けれどこの国の民はただ指を咥えて見ていたわけではない。来るべき日のために反体制組織を水面化で発足して少しずつ力を貯め戦いの日に備えていた。夫婦の夫である熊の獣人バンサはその組織の幹部の一人であった。
「俺はまだビビってたみたいだ。子供に先越されたと知られたら皆に笑われる。リョウスケそしてショウタロウ。俺が何とかしよう。お前たちはここで安心して待ってな」
バンサは精一杯格好を付けて2人を安心させようとした。子供に何が出来るのか。何も出来ないし危ない目には合わせたくない。そう思うのが大人の考え方である。
けれど兄弟は納得しない。誰かに頼らないと何も出来ない事は身に染みてわかった。だがこの戦いは自分達の戦いだ。バンサに救い出された幼馴染のまぁちゃんをただこの場で待つのではなく。自分達が迎えに行くためにここにいるのだ。
そんなやり取りの最中、真夜中の訪問者がやって来た。夜の静けさを割ってノックの音がよく響く。カルシャが覗き穴からその素性を確認した。そこに居たのは憲兵団だ。ドキリとした。後ろを振り向き夫に無言の合図を出す。そして代わりにバンサが扉を開けた。
「やぁ今晩は。こんな夜更けにご苦労様です。何か物騒なことでも?」
扉を開ける前にカルシャが子供たちを引き連れて寝室に隠した。その間にバンサが応対する。憲兵の男は黒豹の獣人だ。隙のない雰囲気を放っている。油断は出来ない。
「裸猿の子供が2人。この家にいると聞いた。何処にいる」
バンサは表情に出さないが内心とても驚いていた。なぜそれを知って探しにきたのか不思議でならない。何かある。とにかく今は時間を稼ぐしかない。そして合図を出して妻と子供を裏口から逃す。そう考えた。
「憲兵さん。失礼、こんな事は言いたく無いんですがね。俺たち夫婦はもう子供がいないんですよ。2年も前に人攫いにあいましてねぇ。確かに妻は裸猿だけど、子供はもう…」
黒豹の男はその金色の目で身の上話をする熊の男を冷ややかに見た。全く信じていない風である。けれど合図は出した。後ろに組んである手で2の数字を作り逃げろと指示をしてある。けれど寝室の扉が開いた。
「子供を見つけました」
憲兵がもう1人出てきた。裏口から逃げようとしたカルシャと兄弟を待ち構えていたのだ。まんまと嵌められた。彼らは本気のようだ。黒豹の男がようやく口を開く。
「子供を連れて行け。この夫婦もだ」
作戦は失敗した。カルシャが必死に子供たちに危害を加えないでくれと悲願する。ここで抵抗したら命がない。バンサは追い詰められてしまう。不幸にも兄弟の持つ運命は早速動きを見せ始めた。




