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兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
第四章 神の乗り物ガルーダ編
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第三十五話 翼を失ったフェヌクシス


神獣は神の祝福を受けて生まれてくる。その根拠なき愛が彼らの全てだ。自分達は特別であるという自負が当然あるし、代々引き継いできた使命は揺るぎないアイデンティティだ。そしてそれを守り続けるだけの力も与えられている。一族は皆、その為だけに生きていると言っても過言ではないのだ。それが出来ない者に価値はない。


「しばらくここで待て。貴様らの処分は後だ」


そこは湿っぽい洞穴の中。入口から僅かに差し込む光だけが自分達の存在を確かとする明かりとなる。3人の冒険者は完全降伏し、無抵抗で彼ら鷹神の戦士に従った。その結果男はこの牢にぶち込まれ女は別場所に連れて行かれた。自分達の境遇とこれから起きる処分に不安が募る。


「どうすんだよ。俺たちも結局死ぬのか…」


それが想定できる一番最悪の結末である。これでは何故助けられたのか疑問だ。そして一つの可能性を示唆した。


「あの青年だ。きっとあの青年の事を言えば生きて帰れる。彼の方ならきっと俺たちの味方になってくれる!そうだよな?」


2人はこの秘境で出会った神の如き青年に再び助かる可能性と希望を持ち「そうだ。きっとそうだ」と込み上がる不安を慰め合う。そこに根拠などない。けれど何か心の拠り所を持たないと精神が持ちそうにないのだ。その証拠に彼らの目線は既に死を直視していた。すると牢の端。薄暗い影がさす方から声がかかった。


「無駄だよ。彼らは同族には優しいがそれ以外には容赦しないよ。直接殺しはしないだろうけど、この国からはただじゃ出られない。追放で済めばいい方さ。そして他の神獣に食われる。そういう定めだ」


そこは暗くてよく見えない。けれど目を凝らすと薄っすらと誰かの輪郭が浮かび上がる


「お前は誰だ…。捕まったのか?お前も冒険者か?」


するとその物陰からスッと誰かが姿を見せた。現れたのはとても大きな黄色い鳥神。その大きさから神獣の一種で間違いないだろう。そして僅かに残る黄色い産毛がまだ若者である事を意味している。つまり彼は巣立つ前の雛鳥だ。この国の一族なのは間違いないだろう。けれど何故こんなところに。よく見るとその手足は鎖と共に壁に繋がれている。鞭に打たれたような傷だらけの体はその背景を想像させた。彼は罪人か。


「まだ子供じゃないか。何たってこんなところにいる。どんな罪を犯したんだ?」


自分達も鳥人の生まれだ。鳥神の一種だろうと似たところが多いだろう。少し親近感を抱いたせいか。その雛鳥に同情の念を抱く。しかしその問いに何の返事もない。詰まらない奴だ。きっと思春期で気難しい年頃なのだろう。そっとしておくのが一番である。けれどしばらくしてその若者は1人でに語り始める。


「僕は君達と一緒さ。翼がない」


そう言って背中を見せ翼を広げる。しかしそれは関節の付け根から先が無く。申し訳程度に羽毛が立ち上がるばかりだ。


「僕みたいに翼を失った子供は成人したその日にこの集落を追い払われるのさ。虚しい人生だったよ…」


その日が明日に迫っている。この牢に閉じ込められたのはその掟に異を唱え王の間に直接乗り込んで暴れまわった彼の最後の足掻きだ。それも呆気なく鎮圧されてしまったのだ。これ以上の事をしでかさない為にその日まで幽閉されている。この地では飛べない鳥に価値はない。


すると強い突風と共に外から誰かが飛んでやって来た。逆光で何者かの確認が出来ない。けれど若者はその正体をよく知っている。その謎の人物が声をかけながら入ってきた。


「おーい愚図。いよいよ明日だな。楽しみだな」


現れた影の主は若者を愚図と呼んだ。けれど牢に近づいて来るその姿は檻の中の若者と瓜二つ。けれど産毛の色は黒。そして背中に広げられた翼はたいそうご立派で惚れ惚れするような光沢と艶を持つ。それをいかにも見せつける様であった。


「お前がやっと居なくなって清々するよ。一族の面汚しめ。お前のせいで叔父上も叔母上もずいぶん苦労なされた…お前やっと親孝行できるな」


そう言って笑うその顔はとても悪意に満ちた表情をしていた。愚図と呼ばれた若者はその言葉に激怒する。


「誰が愚図だ!!僕の名前はフェヌクシスだ。お前のせいだジャタリトス!!お前があんな事をしなければ!僕は今頃…」


フェヌクシスはダンダカ王家の長子として産まれた王位継承第一位の王子であった。一方、ジャタリトスは同じ乳母の抱卵のもとでほぼ同時刻に産まれる。そのため2人はかつて兄弟のような関係だった。


それがジャタリトスの悲劇の始まりだ。彼は産まれながらにして優秀な鷹神であったがいつも嫉妬の炎を燃やしていた。何故なら彼の父は鷹神の王の弟ジャターユ大公であり、どれほど国のために努力しても脚光を浴びる事がないのを父の姿を観て知っていた。その事実が彼の絶望だった。


フェヌクシスは飛ぶのが上手かった。幼いながらも上手に風を操り、一度羽ばたけば嵐を呼ぶとさえ称されるほどだ。けれどそれは自分も同じ。けれど褒められるのはいつも彼ばかり。それを囲うようにして褒め称える配下どもが彼をもてはやす光景が許せなかった。関心はいつも彼ばかりに向いていた。それが当たり前だと見せつけられているようで我慢ならない。


そしてある日、とある男に特別な鋏を預かった。その誘惑は凄まじく気付けば魔が差していた。フェヌクシスが夜にスヤスヤと眠る頃、ジャタリトスはそのハサミを羽の裏に忍ばせてそこへやって来た。彼は禍々しいオーラを放ち途轍もない狂気を孕む。その力は痛みも与えず血も流させず眠るフェヌクシスの立派な翼を静寂を保って切り落としたのだ


よく朝、目覚めたフェヌクシスは絶望と悲しみに打ちひしがれた。けれど一族の誰もが彼に同情の声をかける者はいなかった。彼が代わりに見たのはジャタリトスに媚びへつらう元配下達と勝利を確信した禍々しい笑みを浮かべるジャタリトスの姿であった。

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