第三十一話 兄弟と覚醒のシュルパナカー
巨大な影が雲の代わりに満月の光を遮る。空を覆い尽くす大艦隊と猿の巨神が激突する。魔人を乗せた人型のカラクリ兵器はヒヒイロカネの赤い装甲とシンギョクコウを動力源とした高出力のエンジンを積んで人類最強の軍事力を見せつけた。
しかし一人の巨神に対して10機ほどの比率でやっと戦況は拮抗し僅かに猿神一族が優勢に戦いを進めた。そして沈黙を貫く艦隊は同志撃ちを嫌いまともな援護ができない。敵味方の鍔迫り合いを前に乗り出してヒヤヒヤと見守る。
そんな中、魔王軍はハヌマーン一行を最大にマークし、その進撃を食い止めようと躍起になる。しかしこの人型兵器が何機束になって掛かろうともその勢いを止めることはできない。この戦場で最も大きい巨体を持つハヌマーンが槍を一振りすれば、何百という敵を一瞬であの世に葬ることが出来る。その一撃はとても防げるようなモノではない。やがて士気が低迷を見せた。
遂には前に出て勇敢に戦おうとする死にたがりはもう一人もいなくなり自然と道は開ける。そして猿の英雄は大艦隊の前にする。それを待っていたかのように全ての主砲が一点に発射される。鳴り響く轟音と広がる爆炎。けれど眩い光と共に黄金のオーラがそれを吹き飛ばした。ハヌマーンの肩に乗る兄弟が溢れ出る神力を膨大に膨らませた。それが4人を包み込んで守る。見開かれたショウタロウの第三の眼が神々しい眼差しで睨みを効かせる。
最高司令官インドラジットはこめかみに青筋を浮かべ激怒する。魔王軍が誇る最大戦力を持ってしても止められぬ相手がこの世に存在する方が間違っているのだ。彼はそう思い怒りを露わにした。
「この化け物め!!貴様らなんぞに負けてたまるかぁ!!総員に告ぐ!ブラフマーの怒りを用意せよ!!今すぐにだ!急げ!!」
けれどその部下達は青い肌をさらに青ざめて不安の表情で振り返る。
「しっ、しかし!それでは!…」
「良いからやれ!このままおめおめと帰れるかぁ!やるのだ!」
インドラジットは怒りで我を忘れている。ブラフマーの怒りはこの巨大な母船に内包する全てのエネルギーを撃ち出す最大にして最強の破壊攻撃。けれど全ての動力を失った船がどうなるか説明せずともわかる事だ。
そんな時、魔王軍最後尾よりさらに向こう。こちらに向かって超高速で飛んでくる飛行物体をレーダーが捉えた。
「司令!こちらに向う目的不明の味方機を確認!識別番号0002!?しゅっ!?シュルパナカー様です!!今、我が艦隊を通過しました!」
「何?!何故、伯母上がここに?!」
そんな筈はなかった。インドラジットは亡霊でも見ている様な気分だ。突然の出来事に司令部は混乱状態に陥る。その時、暗黙のうちに成り行きを見守る僅かな時間が生まれた。そして兄弟の前にその小型の高速飛行船は急停止する。そこには体のラインがハッキリとわかるピチッとしたライダースーツを着た謎の人物。頭にフルフェイスヘルメットを被り顔が分からない。けれどその者は明らかに子供である。背丈を見ればハッキリそうだとわかるのだ。そしてその奇妙なライダーはヘルメットから髪をバサっと振り上げながら外し、鋭い眼差しでショウタロウを見る。
「ふぅ。久しぶり…と言ったところか。会いたかったぞ?」
シュルパナカーは自分を殺した者の記憶が欠落している。だが間違いない。巨神の肩に乗る覚醒し者。あれは神の使徒だ。彼女はそう決めつける。そしてショウタロウとリョウスケは眼を大きく見開いて驚きの表情を見せた。
「シュルパナカー…なのか…」
そう呼ばれた彼女は頬を上げて「そうだ。私の名を知っているか…」と嬉しそうに答える。幼い顔つきだがその鋭く大きな瞳は彼女の面影を残していた。そしてシュルパナカーは右手を兄弟に差し出した。
するとそれに共鳴するようにしてリョウスケが首から下げた袋の中身が輝き出す。中にはフボの街で巨神となったブロディの胸から抜き取った錆び付いた名もなき神器がある。それは古い殻を剥ぎ捨てるようにして黄金の姿を取り戻した。そして一人でに宙に飛び出して形状を変化させる。その姿はまるで樹木を象った生命の象徴。シュルパナカーは誰に指示される事なくそれを引き寄せて掴む。
「ほう、中々にしっくりくる。少し試してみるか…」
不思議と手に馴染む感触を確かめた後、シュルパナカーは神に祈りを捧げる様にして眼を閉じ、神器を天に掲げた。するとその黄金の樹はドンドンと空へと伸びる。逆に何処からともなく空からイカズチが落ちて避雷針に吸い込まれる様にそれに直撃した。
けれど何故か一切の破壊がその手に齎された形跡はない。むしろその膨大なエネルギーを吸収して幼女の姿をしたシュルパナカーの額に力が集中する。そして変化が起きた。
彼女の額が縦にパックリ割れ見たことのある神々しい眼がカッと見開く。それは第三の眼。シュルパナカーはこの時、覚醒したのだ。すると幼女の肉体がみるみると成長して美しい少女の姿になった。黄金の長髪を棚引かせ凄まじい量のオーラを爆発的に解き放つ。そして言った。
「これで私も神の使徒…よろしく頼むぞ?」
あり得ない事が起きた。魔人が神の使徒、正しくは破壊神の使徒である。決してそれに選ばれる事は出来ないはずだった。しかし理はそれを許す。世界の法則。神の秩序が狂った。何が何だかわからない。信じていた真実が目の前で崩れていく。
「くっそぉ!!なんてこったぁ!!許さねぇぞー!!これでも喰らえ!!」
すると、それに怒ったハヌマーンが槍を全力で振りかぶり覚醒したシュルパナカーの頭頂部へとダイレクトにぶつける。けれど世界最大硬度を持つヒヒイロカネの槍はそこに当たった瞬間から粉々に砕けた。彼女は余裕の笑みを浮かべる。
「無駄だ。わかるだろ?」
急激な状況の変化に一同は動きを止める。しかし何かしないとこのままじゃ世界は滅茶苦茶になるその事実だけは胸に警鐘を鳴らし続けた。




