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兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
第三章 霊峰ラヤカーン編
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第二十八話 兄弟は英雄の力を観る


戦争は国家にとって最大のリスクであり最終手段だ。容易に決断は出来ない。世界最強の軍事国家であっても何度も戦いで消耗すれば相手が弱小国家だろうと負け戦になる。


魔王国は歴史の中でそれをよく学び悪魔のような対策を取った。始まりこそ争いを好まない民族性を持っていた彼らもやがて考え方を過大解釈する。ようは自分達が戦争に明け暮れる日々を選択せず、嫌なことは嫌いな者に押しつけて仕舞えばいいのだと。そう考えたのだ。


そして魔人は自分達を迫害し追い立てた獣人の顔面を一発殴りつけた。それは初めての事でその時にようやく気が付いたのだ。彼らは弱い。我らはこんなにも強いのだと、そんな思いに至る。それが魔人の信仰を大きく変化させた。


当時最強の武器は弓だった。けれどそんな物では魔人は殺せない。弱点である心臓を護られてしまえば打つ手は無くなる。再生する不死身の肉体を持つ者のアドバンテージはその殺傷性を無効化したのだ。獣人達は恐れ慄く。追い詰めたはずの鼠は臆病な虎だった。


非暴力的で心優しい虎だったのだ。それを獰猛な肉食獣に戻したのは紛れもなく自分達である。獣人はそう後悔し開き直るようにして、より魔人を毛嫌いした。けれど、それはもう後の祭りだ。


現代、魔王国は侵略した国を次々と属国化し体制を腐らせその国の男どもを次の戦争に強制出兵させる。そういった政策で周辺国家の国力を低コストで大幅に削ぎ落とす事に成功する。そしてそんな状態が現代にまで及んでいる。全ての歴史で巻き起こった出来事が別々に思えても一本に並べて見る事で、線で繋がる。今生きる人々は次代に生きる歴史の中にいるのだ。つまり運命の選択を見誤るとそれが深刻な問題となって貴方の子孫に背負わせる事になる。そういう事なのだ。獣人は現在。報復というツケを支払っているのだ。それも過大な利子を永遠に上乗せされて。


そしてこのラヤカーンの地。そんな世にも恐ろしい魔人だけで構成された最強の不死身軍団が、猿神が護ってきた難攻不落の要塞を攻略せしめるために隊列を組み、時を待っていた。


その夜、ラヤカーンに住む神獣達が次々と山から森から逃げていく。緩くなだらかな振動が地面を揺らし、微細なエネルギー波が膨大に放出される。それを敏感に感じるのは自然と共に生きる者の基礎能力でそこから離れた者にとっては退化して事前に察知出来ない。そしてその時が来た。


世界が壊れてしまったと錯覚するような爆発音と共に爆炎が空高く舞い上がる。上空は灰の雲に覆われ何かが降ってくる。それは燃え盛る礫。火山弾が雨のように地表に降り注ぐ。逃げることのできない森の樹々や逃げ遅れた者を次々と殴り、高熱で焼く。そしてラヤカーンの山頂は灼熱の炎を噴き出した。歩くような速度でゆっくりと這い出る姿はまるで火神の手が掴み上がっているかのようだ。けれどそれは後に来る煉獄を解き放つための演出だ。それは火の手に覆い被さる様にして現れ、急速に溢れ出す。それまで何とか原型を留めていた山肌さえ目まぐるしい速度で飲み込み燃やし溶かし消していく。当時、あれほど壮麗で自然豊かなラヤカーンの地は黒い溶岩と紅く瞬く火の旋律がキラキラと覆い尽くし、星の数ほどに夜景を写し撮った。


兄弟はその光景を空飛ぶハヌマーンの手の上に乗って眺める。二人はこの光景を恐ろしく美しいと思った。ここからまた全てが始まる。それは新時代を祝う祝砲か。はたまた世界の終焉を知らせる悲報か。その選択はこの世界に生きる全ての者に掛かっている。特に神の使徒であるショウタロウとリョウスケは幼くもその使命を背負わされれいる。その自覚を再確認するのに丁度いい刺激と激励だ。


この地獄のフィールドで神話に残る大戦が始まろうとしていた。空中に浮ぶ猿神軍団は完全なる戦闘態勢を維持しゾーンに入っている。緊張感が空間を支配する。大人も老人も子供も皆、森の中の穏やかさを忘れ暴力と殺戮の化身となる。


やがて吹き荒れる火山灰の嵐の中、空の向こうから煌めく巨大な戦艦が空中を泳ぐ。それは一隻ではない。数え切れないほどの膨大な数が大小合わせて1000隻以上この燃え盛るラヤカーンを目指す。


兄ショウタロウが弓を構えた。しかしハヌマーンはそれを止める。彼は言った「ここはオラがやる」。そうして他の仲間に兄弟を預けると単身で前に出る。


そしてハヌマーンは誰よりも大きく大きくその体を巨大化させ雲より上に顔を出した。すると空を覆い尽くし世界全土に広がろうとした火山灰を全て肺に吸い込んだ。体の中で何かを形成している様だ。それを口に手を入れて取り出す。それは長い長いガラス状の赤い槍となって現れる。巨大化したハヌマーンと丁度いいサイズ感だ。


彼はその巨大な神器。如意金箍棒を携え単騎で魔王軍の戦艦群に突撃するのであった。

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