表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄弟が行く 〜異世界へ幼馴染を救い出せ〜  作者: 喜郎サ
第三章 霊峰ラヤカーン編
25/73

第二十五話 復活の妹シュルパナカー


もしものとき。その為に、人一人が用意できる備えには限度がある。だが、その上限は経済力に依存する傾向にもあるだろう。一部の人々はネガティブなキャッチコピーに煽られ災害に備えて食糧を備蓄したりサバイバルグッツを買い漁るようにして急な危機管理に目覚める。大富豪に至ってはシェルターを自宅の地下に作ってしまった。なんて例もある。


怪我や病気には保険に加入して手数料を生活費から搾り出して保険会社に吸い取られながらもいつ起こるかもしれない不安に一定の安心感を得ようとするだろうか。


それはあくまでも最低限の備えであって人が本当に恐れるのはいつだって平等に訪れる死だ。それだけは確定していて誰もその事実から永遠に逃れられないし、逃れる為の商品など売ってはくれやしない。用意も克服も出来ない。それが現実だ。少なくとも現状の人類にとっては…。


暗いジメッとした地下室で無数の管が張り巡らされた棺のような装置が一つ設置されている。表示されたメーターは少しずつ目盛りを増やしている。それが赤色に印された頂点に達すると蓋がバコッと外れて少し横にズレる。息を吐くようにして開いた隙間から水蒸気のような白い煙がフワッと広がり、視界を悪くした。けれどモザイクが掛けられた程度で、少しの輪郭だけは辛うじて確認出来る。


すると棺の蓋が起き上がり中から手が突き出されているのが見えた。それはとても小さい。幼児かそれ以上の子供の大きさに見える。身を起こし辺りを無言で見渡した。そのまま立とうとするが何かが引っかかる。それはへその緒だ


母と子の絆のように棺の中と繋がっていて外す術がなかった。けれど躊躇する事なく両手で持ってその人影はそれを引きちぎった。血が幾らか漏れ出る。床にポタポタ落ちる。それを右手の握力だけで止血し、外へ出た。


その横に誰かが用意したであろう箱が置いてある。開けるとハサミと止血用の止めピンなどの医療セット。そして数着の衣服が入っている。器用な手付きでへその緒に応急処置を済ませると用意された服の中から簡単に羽織れそうなガウンだけを引っ張り出して華麗に袖を通した。


その勢いで水蒸気が吹き飛ばされようやくその人物の全貌が見えて来た。そこに居たのは青い肌の幼い幼女。ブカブカのガウンを羽織り、整っているが悟ったような表情だ。とても子供とは思えない雰囲気を纏っている。そして彼女はため息を吐くようにして一言溢す。


「死んだのか…」


記憶が曖昧だ。けれど根本的な知識だけは鮮明である。言語から祖国の成り立ち、そして自分自身の立場。ただ、思い出といった人との関わりが深い記憶だけが不明瞭でこの空間のように(もや)がかかっている。それも時間が解決するだろう。彼女はそう軽く考えた。


そしてこの幼女が現れるのをずっと心待ちにしていた者がそこにいた。その黒豹の獣人は膝を地面に突き、この日の為に取っておいた涙を思う存分流した。頬は痩せこけ服の上からも憔悴しているのが見てわかる。それは主人の復活の時まで一歩たりともこの場を離れなかった決意の表れだ。


「シュルパナカー様…」


男は救いを求めるようにしてその名を口にした。


シュルパナカーとは魔王の妹。数ヶ月前に犬と人の幼い兄弟によって殺害されたはずだ。しかし彼女は宣言通り再び生まれ変わった。けれど生前に抱いていた憎悪と殺意など微塵も思い出せないでいる。


「今はいつだ?」


そう問われた黒豹の獣人は今日の暦を伝える。彼女はそこから現在と最後に見た日付を逆算して記憶の空白期間を割り出した。


「そうかありがとう。それで…なぜ私は死んだ?」


男は己の知り得る全ての情報を彼女に話した。けれど、その話からはシュルパナカーを殺害した実行犯が特定できない。ただ一つ。その殺人鬼は神の理をよく知る者である。つまり神学に明るい聖職者か或いは神の声を聞く巫女か。そして最も考えたくない可能性がもう一つ。


「神の使徒…まさかな」


すると階段を降りてくる足音がカツカツと反響する。誰かがこの秘密の研究室にやってくる。その存在を知る者は数少ない。そしてこのタイミングでここに現れるとすれば、一人しか浮かばなかった。


「おはよう。我が妹シュルパナカーよ。気分はどうだ」


悠然(ゆうぜん)と現れたその男はこれも青い肌の持ち主で、腕が六本も生えている。高貴な人物であるのがその煌びやかな服装からも判断できた。そしてシュルパナカーを妹と呼ぶ。それは紛れもなく魔王国を統べる世界覇者。魔王ラヴァクシャその人だ。


シュルパナカーは感動の再開といった雰囲気ではない。むしろ眼を細めやれやれといった具合だ。


「これはこれは魔王ラヴァクシャ様。こんなところまで何用でしょうか?」


魔王はニヤリと頬を上げ意地の悪い企みがあると言わんばかりの表情を見せた。一方シュルパナカーは依然とポーカーフェイスに徹する。そして壁にもたれかかったラヴァクシャは6本の腕を器用に組みながら上目遣いで答えた。


「何、我の可愛い妹の為に良い贈り物でもと思ってな。会いたいのだろう?お前を殺した憎い相手に…」


ラヴァクシャは魔王としての命令を下す。シュルパナカーに敵討ちの機会を与えると共に重要な作戦を指揮させるのだ。それは神々を翻弄させる厄介な番狂わせを引き起こすことになるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑↑↑★★★★★評価のほどよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ