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第十八話 兄弟は犯人を追う


己の心臓を捧げた信心深い篤信者(とくしんしゃ)は星の数ほど存在する。しかし神が心の底から欲した黄金の魂を持つ英傑は必ずしも己が信徒とは限らない。それを敵対する邪神の手に委ねるのは正に敗北を意味する。


ブロディの崇拝する神は智慧を司っている。それが今、自分に力を貸そうともせず静観している。何故なら現状を打破する閃きが一切降ってこないのだ。見捨てられたのだろうか。経験したことのない奇妙な恐怖が心を覆い尽くす。だがこんな所で諦めたくはない。祖国で必ず昇り詰めると心に誓ったのだ。


逃げろ。その言葉だけが頭に浮かんだ。それは神からの助言ではない。生物として死が迫っているのだ。生き物本来の生存本能がそう叫んでいる。ブロディは己の判断に身を委ねた。彼は唸り千切れた断面に力を込めた。すると失った腕は瞬時に生え変わる。体はびっしょりと汗で濡れ息も荒い。だが休む事なく立ち止まらない。


持てる怪力で壁に打ち付けられた矢を引き抜いた。それは変形して一振りの刃に変わる。その黄金の剣の先は矢が飛んできた方向に向けられた。一筋の光が差している。それがチラチラと数回遮られると石壁は粉々に粉砕されて見覚えのある顔が現れた。


やはりあの野郎だ。額のバンダナは外され第三の眼がこちらを光明に観ている。全てを悟ったような視線だ。無性にその場で跪きたい。その足に接吻をして罪を償いたい。そんな真理に必死の抵抗をする。絶対に勝てない。それが真実だ。この男は神に限りなく近い存在であることを隠そうともしない。


兄は一歩前に出た。その手には黄金の弓が握られている。とにかく矢を取り返さなければならない。だがブロディは狂ったように奇行に走った。手に持った神器は彼の掌を焼き焦がす。その代償を本来の再生能力で崩壊を食い止めているだけだ。彼は知っているのだろう。万が一この神器の片割れがショウタロウの手に揃えば今度こそ彼の命はないと。


そしてブロディはシータを縛り付ける鎖を砕き彼女を脇に抱えてそのまま逃走する。兄弟はその後ろ姿をただ見逃した。彼が向かう先はわかっている。焦ることなくそこを目指した。


向かうはサヘラ王国の聖地。古の魔人が封じ込められているとされる大岩。セーフティポイントを生み出す根拠の一つ。そのどれもがブロディにとって笑い話になっている。


ここは聖地でも何でもない。我が一族の神が齎した奇跡。故郷を追われた先の仮の棲家。その事実を人類は隠している。政治の道具に利用して勝手に住み着いた。それが正しい歴史だ。


あの大岩が塞ぐ穴の中に本当は何が封じ込められているのか奴らは知らないだろう。怪物が発生しないセーフティポイント。そんなものは存在しないのだ。理論上、一定の面積に発生する怪物の質と数はどれも等しく一定である。それが破壊や討伐されない限り新しい個体は存在し得ないのだ。


我ら一族の持つ秘術はその法則を制御し利用する。広大な面積を一つに結びつけ怪物の発生点を絞る。するとそこに世界を脅かすほどの怪物が誕生する。その力は天変地異を引き起こす荒ぶる神の如しだ。それを封じ込める神器がその胸に刺し込まれ産まれながらにして身動きを封じている。それが生きている限りこの地に新たな怪物は発生しないのだ。


今がその目覚めの時だ。我らが神が生み出した神器なら自分にも扱えるはず。そうすればあの野郎と対等に戦えるようになるかもしれない。後に怪物が何をするかは知った事ではないのだ。もはや人類に穢された大陸などいっその事滅びればいいのだ。


この行為は決して罪とは言わせない。むしろ我の故郷を奪った罪は奴ら人類にある。神が罰をお与えにならないのなら私がそれを下す。そうしなければこの胸騒ぎは治りそうにない。


ブロディは大岩にたどり着いた。手に持った神器をそこに突き立てる。すると嘘のようにその一点から亀裂が入り、大岩は真っ二つに割れてしまった。シータをその場に捨て去り割れ目の隙間から中に彼は飛び込んだ。


そのあとすぐに兄弟は追いついた。倒れたシータを抱きかかえ息を確認する。彼女は気絶しているだけのようだ。リョウスケの背に乗せ安全な所に下がらせる。何故なら目の前の大岩から尋常じゃない邪悪な気配が無尽蔵に溢れているのだ。


快晴の空に曇天が現れる。渦を巻き落雷が落ちた。それが大岩の中に喰われるようにして吸い込まれる。やがて追い被さった半分ずつの岩が空高く爆散した。


大岩の面積と同じ大きさの穴がそこに残される。その中は無明の渦に覆われていた。何かがくる。巨大な手が這い上がった。その肌は青い。それが2本目3本目4本目と穴の淵をつかみ身を押し上げてようやくその顔を見せた。


着地と共に地面が大きく揺れる。それは古の魔人というほどの見知らぬ姿ではない。不敵に笑うその顔。忘れもしない。怪物は兄弟の元から逃げて行ったはずのブロディに似た骨格をしていた。

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