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第十四話 兄弟が圧倒する


海から大陸へと一本の路で繋ぐ陸海一路構想なる国際プロジェクトを魔王国が提唱した。それは海と大陸にある全てのセーフティゾーンを海運と鉄道で繋ぎスムーズで管理しやすい物流経済圏を構築することだ。それは実質的に魔王国中心の世界に造り替える事を意味している。一昔前ならそんな話、一蹴されただろう。けれどそう出来ない時代に現在はなっている。


海運で最も重要な要所である狭い海域。そこをチョークポイントと呼ぶが既にその殆どが魔王軍に抑えられてしまった。そのため他国から燃料や食料を買い付ける際に絶対にその海域を通る事になる。そこから輸入した物資に依存したインフラを持つ国は必然的に魔王国と有効な関係を維持する事を望むのだ。貿易で栄えるサヘラ王国はもちろんそういった国の一つに数えられる。必然的にそのプロジェクトに積極的な姿勢を見せていた。


そこで邪魔になったのがフボの街中央にあった大岩だ。セーフティポイントに鉄道を通すにあたって特別この岩を迂回させるわけにはいかなかった。この大岩が怪物の発生を抑えているという根拠は全くない。ただの文化的主観だ。そう考える現実主義者は意外と多い。結局長いものに巻かれた方が得をする。それが宗教上罰当たりな思想だったとしても本当に罰が当たるかなど信じなければ何も問題はないのである。


先日、遂にそれを推し進めるための法案が元老院を通過した。それは明らかな属国化への足掛かりになる法律だった。サヘラ王国は経済戦争で魔王国に屈した。国際的にそう捉えられても仕方ないような内容だった。


そして今日、大岩を撤去する為、ひいては国の力を誇示する為に使者が聖地を訪れた。その男は魔王国から派遣された魔人だ。他国の民衆など虫ケラ程度にしか思っていない。しかしそれが今、怒りで顔を青黒く染めて憤慨している。顔に泥を塗らねた気分だ。何故ならサヘラ王国にこの国最強の護衛を自分に寄越すように命令したはずだ。それが死刑執行人の二人だった。


そんな強者がこんな名もない若造に容易く地面に膝をつけさせられている。舐められたものだ。自分を欺いた責任は必ずつけさせる。その前にこの憎たらしいクソ野郎と犬畜生を血祭りに上げてからにしよう。男はそう思い前に出た。


そしてカバの獣人の背後に立った。彼は腕をその背中に突き刺して心臓を抜き取る。その瞬間に巨体が事切れて地面へと崩れ落ちた。それを見た弟リョウスケは嫌な予感がしてまだ息のあるヘラジカの獣人を他所に投げ捨てた。それからいつでも反撃が出来る態勢をとる。そして男はカバの獣人の心臓を握り潰しながら自ら名乗り出た。


「私はブロディ!貴様!名を名乗れ!」


貴様呼ばわりされた青年は仕方なく自己紹介を始めた。


「俺はショウタロウ。坂井ショウタロウだ!」


サカイショウタロウ。その名を聞いたことがない。これ程の手練れだ。それが無名なはずがなかった。この野郎は偽っている。未だに自分をコケにするつもりなら体にそれを教えてやる。ブロディは落ちていた大斧を拾い上げ目の前の野郎に投げ渡す。そして自分はもう一つ落ちていた大鎌を拾って構えて言った。


「そんなに腕に自信があるなら俺様が痛い目に合わせてやる。さぁ!勝負だ!!」


ブロディは物凄い踏み込みで一瞬にして間合いを縮めた。大鎌の刃は既にショウタロウの首の目前だ。その速さを肉眼で捕らえられた観衆は誰としていない。恐らく彼らが目にするのはいつの間にか首が飛んで血が噴きの出た青年の(むご)たらしい姿だろう。ブロディはそう確信した。


けれどそんな刹那の中でブロディは見てしまった。野郎と目が合っている。奴の目は私の瞬足を目で追っている。そして決着がついた。神速の刃が振り下ろされる。敗者は頭から胴体にかけて真っ二つになったブロディの死体だった。


そんな兄の元へ弟リョウスケが歩み寄り心配の声をかける。


「にいちゃん大丈夫?」


「嗚呼、大丈夫だ。血で汚れたな…今日は風呂に入ろうか」


そんな呑気な会話が聞こえた。すると静まり返った観衆からポツポツと声がする。


「英雄だ」、「英雄?」、「英雄の再来だ…」、「サヘラン様の再来?」……。


その声はやがて歓声に変わり街中が熱狂に包まれた。


「英雄様の誕生だ!!」、「我らの聖地を御守りになられたぞ!!」、「まだ希望はあった!!」、「ショータロー!」、「ショータロー!!」「英雄!ショウタロウ様の誕生だ!!」。


民衆に溜まった不満がこの時、僅かに救われた。魔王の属国になるしかないと半ば諦めていた。そこに救いの手が差し伸べられたのだ。それは気休めの無力なものではなく力強い人知を超えた力を国民に見せつけた。彼らは暫定英雄の誕生に夢中である。きっとこの青年が我らをお救いになられると信じて疑わない。


軍服を着て威勢を放っていた集団は恐れ慄いて逃げていく。その代わり黄色い歓声と共に現れたのはタオルや布を持った街娘達だ。皆が「ショウタロウ様ぁ!」と我も我もと押し迫り。青年の体についた返り血を拭き始めた。誰もが一番に気に入れられようとして積極的に世話を焼こうとする。


それを黙って見ていられない娘がいた。すし詰めになった女の塊へと強引に割り込んで唯一の男の手を握った。そして思いっきり引っ張り救出する。最後の捨て台詞に「もうこの男は私のものだから!早い者勝ちぃ!!」そう言って連れ去るのであった。


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