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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
四章

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作戦決行

 闇に紛れて地面に降り立つと、ハンター協会の裏側に回り込んで、そのまま南下する。目的地である大穴は西側にあるのだが、真っ直ぐ進むのはあまりにも無謀すぎる。

 事前に大食い団が調べた、人通りの少ないルートを、足音を忍ばせ、姿勢を低くして進んでいく。

 魔物を何体か見かけはするが、この時間帯は本当に休息をしているようで、地面に腹ばいになって寝ている個体も少なくない。瞬時に倒せる魔物はその場で処分しているのだが、進むにつれて敵の密集率が上がってきた。


「ここから先は見つからずに進むのは流石に無理か」


「じゃのう。蹴散らすのであれば可能じゃが、それをすれば敵に気づかれるのは確実。時を待つしかあるまい」


 殿の熊会長とお爺さんが小声で言葉を交わし、ハンター協会のある方向に目を向ける。

 魔物の総攻撃が始まるまで、暫く待つしかないか。


「みんな……ヒュールミ、大丈夫かな」


「いらっしゃいませ」


「あはっ。そこは、うんじゃないんだ」


 聞き慣れた言葉を聞いて、ラッミスの表情が少しだけ緩んだ。

 きっと、大丈夫だよ。頼りになる門番ズもいるし、ヒュールミが戦場に立つこともないからね。彼らは引き際を心得ている。いざとなったら、屋内退去してくれるだろう。

 全員に飲み物と食事を配り、辺りを警戒しながら休憩していると、遠くから争う音が響いてきた。どうやら、始まったようだな。


「行かないとっ」


「焦っては駄目やよ。逸る気持ちはわかるけんど、もう少し待ちましょうね」


 飛び出そうとした、ラッミスの肩に手を添えて、お婆さんが優しく微笑んでいる。

 反論を口にしようとしたようだが、娘と孫を残してきている、お婆さんの方が辛いことを思い出したようで、小さく頷くと腰を落とした。


「今の内に壁際に寄っておくとしよう。あちら側が少し手薄になっているようだ」


 熊会長の指示に従い、壁際へと歩を進める。


「あらっ」


 路地裏で眠りこけていた鰐人魔と遭遇すると、シャーリィが振るった鞭が相手の長い口に絡みつき言葉を封じると、素早く飛び出したミシュエルが脳天に切っ先を突き刺した。


「妖艶なる影は顕在か」


「会長、その恥ずかしい呼び名はやめてくださいな」


 頬に手を当てて珍しくシャーリィが照れている。熊会長が知っているということは、以前はハンターをやっていたのだろうか。この腕なら納得だが。


「少し速度を上げて強引にいこう。壁の向こうの魔物たちが雪崩れ込む前に、穴をどうにかしておきたい」


「い く よ」


 じゃあ、俺も空へと旅立つか。〈風船自動販売機〉になって〈結界〉を風船で埋め尽くさないとな。

 地面に置かれた俺を、ラッミスがじっと見つめている。やっぱり、俺の単独行動には不満があるのだろうな。


「ハッコン……頑張ってね」


「ん ん っ」


 予想外の言葉におかしな反応をしてしまった。引き留められるか、小言を言われるか覚悟していたのだが。


「束縛がきつい女は嫌われるって、お婆ちゃんも言ってたし、うちはハッコンを信じることにしました。だから、壊れないでちゃんと帰ってきてね」


 ラッミスも成長しているのだな。信用してくれるのは本当に嬉しい。束縛が弱まったのもありがたい話の筈なのだが、ちょっと惜しい気もするのが男心の複雑さだ。


「ま か せ て」


 風船を出し終えて、〈ダンボール自動販売機〉になった俺は上昇していく。眼下ではラッミスが大きく手を振っている。俺も腕があれば振り返したいところだが、今はこれで勘弁してもらおう。

 彼女の手の位置に落ちるように調整して、ミルクティーを取り出した。ちゃんと受け取ってくれたか。じゃあ、行ってくるよ。

 闇の中を飛ぶというのは恐怖心を感じそうなものなのだが、今のところ問題はない。

 地上では魔物たちが行進しているのだが、松明を手にしているようで、ある程度の明かりは確保されている。大通りを真っ直ぐ進んでいるのか。


 その先にあるのはハンター協会で間違いない。殆どが大通りから離れずに、規則正しく進んでいるようだが……どういった仕組みなのだろうか。蛙人魔も鰐人魔も武器を手にして仲間と意思の疎通も可能らしいが、それにしても、きちんと整列して行軍できるものなのか。

 冥府の王の差し金だとはわかっているが、全部の階層の魔物を全て単独で操ること等、可能とは思えない。簡単な指示ぐらいは出せるかもしれないが、上から見た限りでは統率が取れているよな。

 冥府の王の仲間があの中に潜んで、指示を出していると考える方がしっくりくる。だが、あの大群の中から指揮系統を見つけるのは至難の業だ。一目でわかる格好でもしていてくれたら、いいのだが。


 とまあ、考えてはみたが時間があまり残されていない、現状ではまず穴を塞ぎ、後に指揮官がいるなら探し出せばいい。今は、自分のなすべきことをやるだけだ。

 ハンター協会に蛙人魔が貼り付き、壁を登っているのがわかる。鰐人魔は手にした棍棒や石斧らしきもので協会の壁を殴りつけている。防衛側も奮闘しているようだが、テラスを占領されなくても、外壁が壊されたらそこで終わる。

 今日、決行したのは間違いではなさそうだ。

 〈結界〉内部の風船のガスを噴き出して、位置を変更しながら空を彷徨っているのだが、そろそろ、お目当ての場所の真上に到達する。


 壁の外には数え切れない量の魔物がいるな。それに、遠くからこちらに近づいている火の粒に見えるものが、魔物が手にしている灯りだとしたら、まだまだ増えるということか。

 この数、集落内に居る数よりも外の方が多いぞ。やはり、壁をどうにかしないと勝ち目がないな。

 さてと、ラッミスたちは……まだ見つかっていないようだ。作戦では俺が上から真っ逆さまに落ちて、穴の前を塞ぎ仲間が飛び出す。そして、敵を掃討しながら土魔法とラッミスの怪力を掛け合わせて壁の修復を急ぐ。ということになっている。

 なので、出来るだけ集落側の魔物が壁から離れた時を狙いたい。じれったいが、最良の時を見極めなければ。


 壁の外の魔物は動きが無い。集落内にいる魔物の大半はハンター協会へ向かっているが、それでも百体近くが穴付近に居座っている。

 この数でも危険だが、外の魔物が動く前にやるべきか。踏ん切りがつかない状態で、見下ろしていると、魔物が一体だけ大通りを逆走しているのが目に入った。

 戻ってきた? 他の魔物は一体たりとも戻ってきていないのに、あれは連絡担当なのだろうか。

 じっと観察していると、大穴前で佇んでいる魔物の群れの前で停止している。何か話しているようだが、この距離では全く聞き取れない。

 戻ってきた個体は、暫く動かなかったのだが再び動き出すと、大通りの方へと戻っていった。どうも、伝令役っぽいな。


 危険を覚悟で少し高度を落とすと、集落内の群れから数体が穴の方へと移動している。これって、外の奴らに進軍命令を出すつもりか!

 あの数体の中に指揮官がいそうだが、ここからでは見分けがつかない。

 穴の前でそいつらがピタリと止まり、何やらしていると壁の外にいた魔物たちが動き始めた。

 躊躇っている暇はないか。投下ポイント確認! 位置よし! 角度よし! 高さよし!行くぞ、降下!

 日本一の大きさをほこる〈氷自動販売機〉に変化すると、真下へと落ちて行く。

 集落の壁ギリギリを狙ったので、近すぎて壁を擦ることになったが、これぐらい密着しないと意味がない。


 大地を揺るがす振動と激突時の衝撃波で周囲の魔物が吹き飛んでいる。真下にいた魔物たちは原形を留めずに圧縮されていることだろう。

 突如、空から降ってきた巨大な自動販売機に戸惑い、壁の外の魔物が慌てふためいている。

 あれ? 蛙人魔が結構逃げ出していないか。元々、臆病で慎重な魔物なのは知っているが、ハンター協会を狙っている奴らは、仲間が死んでも決して引かず、決死の覚悟で戦いに挑んでいた。

 もしかして、今の衝撃で何らかの方法で操っていた指揮が乱れたのか。洗脳か魔法で支配をしていたのかは不明だが、それならそれで好都合だ。

 敵の統率が取れていないなら、今がチャンス。一気に仕事をこなさせてもらおう。


 俺はこの数日ずっとどうやれば穴を塞げるか、そればかりを考えていた。自分の商品を見つめながら、使えそうなものはないかと。

 穴を埋める工事に最も適しているのは、セメントだが俺は自動販売機で売っているのを見たことがない。

 となると、他に何か壁を埋めるのに適した商品は存在しないのか。そう思い、血眼になって探したのだが、該当する商品は見つからなかった。

 そこで、発想を変えてみた。機能に壁を修復するのに使えそうな能力はないのかと。


 よっし、この自動販売機では初挑戦だが、他のでは練習済み。やれると信じて、あとは実行するのみ!

 俺は新たに取った機能から〈自動販売機設置据付用コンクリート石版〉を実行した。

 この機能はその名の通り、自動販売機を設置する際に下に敷くコンクリートの石版のことだ。本来はアンカーで固定して自動販売機が倒れないようにする目的の品なのだが、今回の用途は違う。

 この巨大化した〈氷自動販売機〉の下に突如、地面に面している部分より少し大きなコンクリートの板が出現した。

 よし、よし、想定通り。ここまでは様々な大きさの自動販売機で実験した結果と同じだ。発動時の自動販売機の大きさに合わせた〈自動販売機設置据付用コンクリート石版〉が出現することは立証済み。


 問題はここからだ。本来ならコンクリートの板にアンカーを埋め込み、自動販売機を固定するのだが、それはやらずに再び〈自動販売機設置据付用コンクリート石版〉を発動させる。

 ずんっと視界が少し上に移動する。そして、更に〈自動販売機設置据付用コンクリート石版〉を召喚! まだまだ、終わらないぞ! 四度〈自動販売機設置据付用コンクリート石版〉をっ!

 と、相手がどう反応していいか戸惑っている間に、俺はコンクリートの板を次々に積み重ねていく。前の〈自動販売機設置据付用コンクリート石版〉を残したまま次のを発現させると、新たにポイントを消費することになる。

 この巨体の場合、ポイントの消費量が一回につき1000減り、お世辞にも安くない消費だが、この程度であれば、みんなからの寄付で得たポイントでおつりがくるレベルだ。

 このコンクリートの板は本来なら10センチ程度なのだが、この巨体を支えるとなるとその厚みは1メートルを越える。穴の直径が10メートルあったところで、十枚重ねれば済むだけの話。

 一気に積み上げるぞ!


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