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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
四章

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ダンジョンとは

『キミたちは違和感を覚えなかったのかね。各階層で魔物が活性化するだけではなく、階層主がこぞって復活を始めた。それは全て我がやったことだ、実験の一環として』


 階層の異変が今回の一件に繋がっていたのか。これもヒュールミと熊会長は予期していたが、断言されると結構ショックだ。


『今、魔王軍は防衛都市や周辺の国に同時攻略をしている状態なのだが、防衛都市を担当している左脚将軍の部下が思わぬ抵抗に遭い、手間取っていてね。同僚として何とかしてやりたいと思ったのだよ』


 それは仲間想いな事で。関係のないような話に思えるが繋がってくるのだろうか。


『そこで、帝国と防衛都市を挟む位置にある、このダンジョンを利用できないかと思案してみたのだ。このダンジョンの魔物を支配下に置き、ここから近隣の町や村を襲い、帝国を荒らしたら楽しいことになるのではないかとね』


 こいつ、同僚の為だと口にはしていたが、心底楽しそうな口ぶりから察すると嘘だろ。個人的に楽しんでいる様にしか思えない。


『ダンジョンにある程度は介入できたのだが、まだまだ研究と実験の最中でね。だが、とても面白いことを発見したのだよ。魔物やハンターがダンジョン内で死亡すると、その者が力を持つ者であればあるほど、ダンジョンに大きな力が注入される。そして、その蓄積された力を利用して新たな魔物を生み出せる。これがダンジョンの仕組みの一つなのだ』


 ダンジョンを管理するゲームか何かで、同じようなシステムがあった気がするな。

 魔物が尽きることが無いのは、死んだ魔物はポイントとして還元されるので、同じ個体を何度でも創造できるってことか。更に死亡したハンターもポイントとなりダンジョンに蓄積されるので、それを利用して魔物を生み出せると。

 そんなゲームみたいな話あり得るのか? だが、俺もポイントで能力を得ている。同じようなシステムで大規模になっただけだと考えれば、そうおかしくもない。


『そこで、我はこのダンジョンにいる人々を全て殺し、新たな魔物の群れを生み出せないかと考えたわけだ。さて、その方法なのだが、察しの良い者なら、そろそろ気づいたのではないか。この階層に腕利きを集めることにより各階層の防衛機能を低下させ、魔物の群れを襲わせたら……どうなると思うかね』


 ……最悪だっ! じゃあ、今も清流の湖階層や他の階層も魔物の襲撃に遭っているというのか!

 ハンターたちがざわついているが無理もない。俺だって、心が掻き乱され過ぎて今にも故障しそうだ。


『とはいえ、今回の戦いは我も消耗が激しい。暫くは傍観者に徹することとしよう。さあ、急いで戻った方が良いのではないのかね。ああ、そうそう。ここから各階層への転移は可能だが、ダンジョン外への転移は不可能とさせてもらっている。では、二回戦開始だ。精々足掻いて、良質な力をダンジョンに与えてくれたまえ』


 暴露して満足したのか、杖がその場から消え去ると、冥府の王の声も聞こえなくなった。

 ハンターの殆どが踵を返して、集落への帰路を急いでいる。


「ありがとう。頑張ったね、ハッコン。一緒に喜びたいところだけど、急いで戻らないと!」


 クレーターの斜面を滑り降りてきたラッミスが、俺を背負いながら称賛の言葉を口にした。そうだよな、今は喜んでいる場合じゃない。清流の湖階層のことが心配だ。

 慣れた手つきであっという間に背負うと、クレーターから脱出して仲間の元へと駆け寄った。

 離れた場所で荷猪車と共に待機していた、ヒュールミたちも既に合流している。


「くそったれな展開になっちまった。オレの考えが浅かった、すまん!」


 ヒュールミが謝っているが、それを咎める者は誰一人としていない。

 元々、情報が少なすぎた。そこから、相手の考えを全て予想できるわけがないのだ。


「これは誰も予期せぬ事態だ。まずは全力で集落に戻ることだけ考えよう。速度が重要となるが、ここからだと、どう足掻いても最速で三日がいいところだ」


 熊会長の言う通り、ここは集落からかなり離れている。これも冥府の王の狙い通りなのだろう。ラッミスが俺を背負わずに全力で走れば一日でいけるかもしれないが……一人で清流の湖階層に向かわせるのは危険すぎる。

 こうなると、俺の重量が邪魔でしかない。軽いボディーに変化したとしても、一日二時間が限度。くそっ、完全に足を引っ張っている存在に成り果てている。


「この荷猪車をウナススだけではなく、我とラッミスも協力して押せば時間の短縮になる筈だ」


「うん、そうだね!」


 熊会長とラッミスが加われば、荷台の早さは倍増するだろう。だが、最速でも二日はかかりそうだ。


「ならば、ワシが風を纏わせ重量を少しばかり軽くするとしよう。孫が心配じゃ、出し惜しみはせんぞ」


「お爺さん、お願いします……」


「任せておけ、婆さん。大丈夫、馬鹿娘と孫はきっと無事だ。安心せい、ワシが婆さんに嘘を吐いたことなんぞ、無かったじゃろう」


 手を合わせて祈り続けているお婆さんの手を、お爺さんはそっと包み込み、白い歯を見せて豪快に笑った。

 心から男前と思えるお爺さんの行動に、男女問わず見入ってしまっている。


「なんじゃお前ら、じろじろ見てからに。そんなことをしている場合じゃなかろう」


 照れを隠すように少し怒ったような口調のお爺さんの言葉に、全員が頷く。

 熊会長は四つん這いになり、ウナススよりも前に並ぶ。その体には荷台と繋がるロープが巻き付けてある。ラッミスは荷台の後ろに回り、押す役目を担っている。

 他の面子は荷台に乗り込み、お爺さんが風を荷台に纏わせると、重さで地面にめり込んでいた車輪が浮き上がってきた。

 今は地面の上にそっと添えられているだけで、車輪が殆ど沈んでいない。


「ワシの魔力が尽きるまで、この風は維持をする。全力でとばすがええ!」


「行くぞっ!」


「はい!」


 熊会長の合図に従い、荷猪車が発車――いや、発射した。あまりの勢いに体が後方に引っ張られたのではないかと錯覚するぐらいで、周りの風景が文字通り飛ぶように過ぎ去っていく。

 先にスタートを切ったハンターチームを余裕で追い越し、荷猪車は亡者の嘆き階層を疾走する。

 他のハンターたちを抜き去る際には、園長先生とお婆ちゃんから治癒の力が放出され、一瞬で他人を治療しながら走り去っていく。

 これ何キロ出ているんだ。俺が高速道路で最高速を出した時より、速くないか。お爺さんの風魔法のおかげなのか、この速度でも荷台は安定していて揺れが少ない。

 この調子なら想像以上の速さで集落に着けるかもしれないぞ。





 途中、体力を消耗した二人に治癒魔法と体力回復の薬、そして俺からの食事が与えられ、一時間だけ休憩した後に無理を承知の上で、再び全力で駆けて行く。

 本当はもっと休憩をして欲しかったのだが、寝ようとしてもどうせ眠れないと二人は首を縦に振らず、今も走り続けている。

 出発してから、もう十時間は過ぎようとしている。熊会長とラッミスは疲労困憊で、ウナススに至っては限界を超えたので、食事だけ置いていき後で集落にくるように指示を出した。

 ケリオイル団長に言わせると、かなり頭のいいウナススなので大丈夫だとのことだった。


 息も絶え絶えの本人たちが断るようなら、気絶をさせてでも眠らせようと荷台の仲間が苦渋の決断をする直前に、前方に集落が見えてきた。

 もう既に夜なのだが、何と一日も経たずに俺たちは亡者の嘆き階層の集落に、戻ってこられた。

 集落内には夜なので何体もの魔物がうろついていたのだが、園長先生の広範囲浄化魔法であっさりと一掃され、魔物の姿が消え去った。


「申し訳ありませんが、私は先に始まりの階層に帰らせていただきます。孤児院の子供たちが心配なので!」


 返事も聞かずに園長先生が荷台から飛び降りると、転送陣のある建物へ一人駆けて行った。


「俺は診療所に行って団員の状況を確認次第……悪いが、始まりの階層に向かわせてもらう。シュイの故郷だ、仲間の大切な人を守ってやりたい。すまねえ、会長」


 愚者の奇行団は仲間の絆を大切にしているのは知っている。団長の判断に俺たちが口を挟む権利は無い。


「ケリオイル団長。ホクシーを頼む」


 熊会長は肩にそっと手を添えると、大きく頷き団長の行動に同意を示した。


「すまねえ。あっちが片付いたら必ず、そっちに向かう! 皆、死ぬなよ!」


 ケリオイル団長が診療所の方向に振り返ることなく消えて行った。


「感慨にふけっている状況ではないぞ。ワシらも清流の湖階層へ急がねば」


 お爺さんの言葉に全員が表情を引き締め、転送陣までそのまま移動する。


「会長、大食い団はどうするの」


「それは心配ない。彼らは動けるようになったら清流の湖階層へ先に戻れと言ってある。既に戻っている筈だ」


 大食いと言うデメリットはあるが、ハンターとしての能力は高い大食い団が先に戻っているのは吉報だな。今、どういう状況に置かれているのかは不明なままだが、少しでも明るい情報があるのはありがたい。


「ラッミス、ハッコン。皆が無事だと信じたいが……最悪な展開が待っていても取り乱すんじゃねえぞ。嘆くのも自暴自棄になるのも全てが終わってからでいい。わかったな」


「うん……わかっている」


「いらっしゃいませ」


 そうだ。ずっと考えないようにしてきたが、下手したら全滅をしている可能性もゼロではない。普通の状態なら魔物の軍団が襲ってきたとしても、耐えているのではないかと期待させてくれる門番ズや、取り仕切る熊会長の手腕に期待ができた。

 だが今はリーダーも不在。守りの要である二人もここにいる。嫌でも最悪の展開を思い浮かべてしまう。


「不幸中の幸いと言うべきか。今、清流の湖階層には多くのハンターが集まっている。大丈夫だ、きっと大丈夫だ。彼らなら耐え凌いでいてくれている。大丈夫だ」


 熊会長の言葉は俺たちに向けているのではなく、自分に言い聞かせているように思えた。


「冥府の王が真実を語った証拠は何処にもない。お主ら、狂言に振り回されているだけかもしれぬことも、考慮しておくがええ」


 お爺さんは軽くその言葉を口にしたが、その目は真剣で口とは裏腹に心中穏やかではないのだろう。

 ミシュエルは何も言わずに付き従っている。ダンジョンに思い入れが少ない自分が口を挟むべきではないと、自重してくれているのか。

 カリオスは目が血走り、腕が小刻みに震えている。残してきた彼女のことを思っているのだろう。そんな相棒の姿を見つめ、ゴルスは口を一文字に噤んでいる。

 各自が覚悟と期待と愛する人への想いを胸に秘め、清流の湖階層へと転移した。


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