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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
四章

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予感

 更に数日が過ぎたが冥府の王との遭遇は無い。他のハンターチームからの連絡もないらしく、本当にまだこの階層にいるのか疑問を抱き始めている。

 だが、熊会長の説明によると転送陣には、偽装や隠蔽能力を見抜く目を持つ加護所有者を特別に配置しているそうで、魔法や加護の力であっても、その目は欺けないらしい。

 熊会長の考えによると冥府の王は、人に化けて転送陣を利用して移動した可能性が一番高いとのことだ。転送陣を通らずにダンジョンに入った前例はない。


 冥府の王との戦いが待ち遠しいわけじゃないのだが、どうにも不安が治まらないのだ。時間が経てば経つほど不安が増していくのがわかる。

 ヒュールミも日を追うごとに表情が険しくなっている。どうやら、俺の様な曖昧な考えではなく、何かしらの答えに辿り着いたようだ。

 深夜、荷猪車の脇でぼーっと突っ立っている俺の隣に、そっと腰を下ろしたのはヒュールミだった。


「ハッコンちょっといいか」


「いらっしゃいませ」


 いつもと違い静かで感情の起伏が無い声だ。たぶん、あの事を話したいのだろう。


「あれから、冥府の王の考えを探っていたんだが……これはただの憶測でまだ思案の最中だ。だから、口の堅いハッコンにだけ伝えておくぞ」


 口が堅いというか人に話せないだけなのだが、信頼してくれて嬉しいよ。


「今から話すのは、最悪な展開への予想だ。心してくれ。まず、冥府の王はわざとラッミスを見逃したと仮定して考えてみた。何故、そんなことをするのか。それは自分がここにいることを他の奴らに知らしめる為だ、とする」


 確証がないので仮定に仮定を重ねる話になるのは仕方ないよな。


「となると、それを知った人々はどうするか。敵の知名度を考慮すると、ハンター協会としては、今のように討伐をしようという流れになるよな。」


 実際そうなっているのだから、その点に関しての異論はない。


「ハンターが亡者の嘆き階層に集まり、自分を討伐しようとして何のメリットがあるのか、そこが問題になってくる。考えられるのは自分の力を見せつけて楽しんでいる変態。これだと話は早いが、それは無いと仮定する。となると……自分を討伐させること自体が、やつの目的だとしたらどうだ?」


 どうだと言われても、まさか俺のドM説が正解なわけでもないだろう。英雄を望むような発言をしていたから、自分の相手になる強力なライバルを求めているとも考えられるが。


「たぶん、ラッミスに話した英雄の下りは、ただのハッタリだろうな」


 言葉が話せなくて良かったよ。恥をかくところだった。


「殺されたいというのは違うか……討伐隊を組ませたかった。力を持つハンターをこの階層に集めたかった。というのはどうだ?」


 実力者をこの階層に集める。えっ、でも集めてどうする。有力なハンターを一掃したいということなのか。


「でだ、その狙いなんだが……正直、わかんねえ。罠が仕掛けてあって、力のあるハンターをまとめて殺すってのが妥当だが、冥府の王がそんなことをする理由が思いつかねえ。魔王軍の本拠地とここは離れすぎている。奴らとの戦争に邪魔になる者を処分するなら、帝国や防衛都市を先にどうにかすべきだ」


 確か、最北端に魔王の治める国があり、その南に防衛都市があり帝国領地内になっているのだったか。その南にこのダンジョンが位置している。

 そうだよな、防衛都市と帝国を攻めあぐねている状態でダンジョンに手を出す意味がわからない。


「ってことで、つまりよくわかんねえんだよ。各階層の異変も気になるしなぁ。皆にこんな話しても混乱させるだけで言い出せなくてよ。悪かったな、答えのない無駄話に付き合わせて」


「いらっしゃいませ」


 気にするなと言いたかったが、それに相応しい言葉を話すことができない。温かいミルクティーでも飲んでリラックスしてもらおう。


「お、わりぃな。いただくぜ」


 缶を両手で包み込んで、ゆっくりと飲むヒュールミを見つめながら、彼女の言葉を反芻していた。





 今朝は空がいつもの曇天模様とは違い、赤黒い。

 朝焼けなのだろうが、乾く寸前の濁った血をぶちまけたような、気持ちの悪い色をしている。


「ふむ、魔力の流れがおかしいのぅ」


 朝の早い、お爺さんとお婆さんが目を細めて空を見上げている。


「そうなのですか、お爺さん」


「うむ。大気中の魔力が増大して、荒れておる。これは一波乱ありそうじゃ」


 異様な空模様に、お爺さんの指摘。昨日のヒュールミの話もある。フラグが立ちすぎだろ。良くも悪くも今日何か起こりそうだな。

 そんな俺の予感は……的中することなく、あっさりと次の日の朝を迎えた。

 やはり、今日も空が赤黒い。昨日は敵が一切現れず、異変が起こっているのは確かなのだが、それが何であるか一切不明のまま一夜を過ごした。

 そして今日、歯と歯の間に食物繊維が挟まったかのような、気持ち悪さを抱えていた俺たちの元に、待ちに待った一報が届いた。別の場所を探索中のハンター一行が冥府の王と遭遇したとの連絡。

 比較的近い場所にいた俺たちは、全速力で彼らのいる場所へと向かうこととなった。





 一時間ぐらい経過しただろうか。指定場所まであと少しの距離まで近づくと遠方から、怒号と剣戟、何かしらの炸裂音のような物まで聞こえてきた。


「既に戦闘中のようだ、ホクシー戦況はどうなっている」


「冥府の王らしき個体が一。骨人魔、炎飛頭魔、死人魔及び、それらの上位種らしき個体が合計で……百ちょいでしょうか」


 額に手を当てて遠くを見つめる園長先生の目には、戦場の様子がくっきりと見えているようだ。俺にはただの地平線にしか見えないが。

 敵の数は百前後か。普通なら尋常ではない数なのだが、年長組は落ち着き払っている。


「ハンター側は二十ぐらいですね。今のところ冥府の王は高みの見物らしく、戦闘に一切手出ししていません。ハンター側には目立った負傷者もなく、押し気味の様ですわ」


「わかった。ならば、我らは相手の裏側に回り込み強襲する。他のハンターたちも近いうちに合流する筈だ。一気にねじ伏せるぞ」


 熊会長の指示に全員が頷き賛同を示す。

 敵を前後から挟み込む。基本の戦略だが、実力と数が揃っている状態なら一番効果的だろう。昔、読んだ戦記物でも数が有利であるなら奇策を用いるのではなく、相手の策に注意を払い正攻法で倒すのが最も効果的。とかどうとか書いていた気がする。


 更に数分が過ぎ、相手の裏側に回った俺たちは、お爺さんと園長先生の遠距離攻撃……いやもう、これは砲撃と呼んでいいレベルの魔法と矢の雨を降らしながら突っ込んでいく。

 牽制目的の攻撃だけで軽く十数体が削られた。この二人の戦闘力の高さにはもう何も言うまい。

 冥府の王を取り囲むように配置されていた魔物たちが、こちらの存在に気づき二十近くが走り寄ってきている。


「お爺さん、ホクシー。あれには手を出さないでくださいね」


「ああ、わかったわい。好きにしたらええ」


 荷台から疾走するウナススの背にひょいと乗り移った、お婆さんが仕込み杖に手を添え姿勢を低くしている。

 荷台に乗らずに並走している、ラッミス、ケリオイル団長、門番ズの視線がお婆さんに集中している。その一瞬の剣捌きを見逃すものかと。

 相手との距離が徐々に詰まっていく、激しく揺れ動くウナススの背だというのに、振り落とされることなく仕込み杖を構えた状態のまま、じっと前を見据えている。


 そして、その距離が数メートルまで迫った、その時、鞘鳴りの擦る音と同時に銀の残光が無数に走った。

 棒立ちになった魔物たちの間を荷猪車が疾走する。俺は身構えそうになったが、魔物たちが全員ピクリとも動かないのを見て悟った。

 カチリと、仕込み杖に刃が納まる音がすると、脳天から真下に切り裂かれ二つに分断された魔物が大地に転がる。


「数が多いと十字切りは面倒ですので、勘弁してくださいね」


 お婆さんが手を合わせて頭を下げているのは、自分の切り裂いた魔物たちへのせめてもの供養なのだろうか。

 その強さを何度も目の当たりにしてきたので、当たり前のように受け入れている自分がいることに若干驚く。

 どう考えても剣の間合いじゃないのに敵が分断されたのは、剣撃を飛ばす技だそうだ。魔法や加護がある世界なので、思考を放棄して、そういう物なのだろうなと理解することにした。

 漫画やアニメでも見たことあるし、ゲームでも一般的だもんな、うん、そういうことだ。

 こちらが参戦してから敵を五十近く葬ったにも関わらず、敵の数が減っているようには見えない。次から次へと地面から魔物が湧いてきているようだ。


「荷猪車とヒュールミはここで待機。ホクシー、シメライは、ここから援護攻撃を担当してもらいたい」


「任せてください」


「適当に蹴散らしてやるとするか」


 熊会長の指示に頼もしい答えが返ってくる。


「カリオス、ゴルスは万が一の為に荷猪車の護衛を頼みたい。いけるか」


「守ることなら、俺たちの右に出る者はいないぜ。なあ、ゴルス」


「このお二方に護衛が必要とは思えないが、承った」


 防衛術に長けた二人なら、格上の相手が現れたとしても時間稼ぎができ、その間に火力がある二人の攻撃が加われば、ここは鉄壁の砦と化すだろう。ヒュールミを安心して置いていける。


「ラッミス、上手くやれよ。冥府の王には出来るだけ近づくな。今回は猛者が山ほどいるんだ、無理する必要は全くない。ハッコンも頼んだぞ」


「うん、頑張るよ!」


「いらっしゃいませ」


 前回と違い、頼りになり過ぎる仲間と凄腕のハンターがうじゃうじゃいるのだから、俺たちが無理する必要は全くない。


「残りは共に突撃する。冥府の王を倒すことが目的ではあるが、無茶はするな。仲間は増える一方だ。時間を稼げれば奴を倒すことも容易になる」


 熊会長の言う通り、他のハンターもかなりの腕利きなのが一目見ただけで理解できた。危なげなく敵を処理しながら、殆ど怪我を負っていない。雑魚相手なら何時間でも戦い続けられそうな余裕を感じる。


「では、我らが力を見せつけようぞ」


 口角を吊り上げ熊会長が笑みを浮かべると、前衛担当が釣られてニヤリと笑う。

 迫力のある笑みと言うより邪悪な感じがするが、そこは突っ込まないでおこう。この面子で突撃するのか、魔物が不憫に思えるぐらいだよな。

 それでも、冥府の王が動いてないからこその余裕。あれが動きだせば戦況は一気に変わるだろう。

 俺の視線の先にいる四本腕の銀の骸骨は、黙って戦況を見守っているだけなのが、不気味で仕方がない。


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