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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
四章

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ハンターと思惑

 年長者の活躍を目の当たりにして以来、その他のメンバーが活発的になった。

 頻繁に現れる魔物たちに対して、臆することなく気合の入った動きで葬っていく。門番の二人の動きを観察していて実感したのだが、この二人、思っていたよりも強い。

 メイン武器は両方槍で目にも止まらぬような速さで動いているわけでもなく、ラッミスの様な怪力でもないのだが、動きに無駄がない。

 おまけに二人とも目配せや、ちょっとした仕草で意思の疎通を完璧に行なっているようで、自分の死角にいる敵に視線も向けずに、穂先を突き刺すような場面が何度もあった。

 ああいうのを阿吽の呼吸って言うのだろうな。


 いつもは団員に働かせて高みの見物が多い、ケリオイル団長も今回ばかりは本気を出している。短剣を両手に構え、近距離戦では巧みな短剣捌きで相手を切り裂き、距離があると投げナイフを投げつけている。ちなみに命中率は100パーセントだ。

 ラッミスも負けじと奮闘している。自分の力に振り回されることなく、基本の動きを大切にしながら魔物を打ち砕いている。

 俺だって黙って見ている訳じゃない。味方の目が向いていない時に、〈念動力〉を活用して〈高圧洗浄機〉に化けた後にノズルを〈念動力〉で操って水を撃ち出し、相手の不意を突いたりして戦闘でも役に立てるようになってきた。

 今までだと、戦闘中は防御を担当するしかすることが無かったのだが、これからは彼女の力になることが出来る。それが、本当に嬉しい。


「ラッミスさん。もう少し重心を落としてみたら、楽になると思いますよ」


「は、はい!」


 今も戦闘中なのだが、ラッミスの近くでお婆さんが指導してくれている。剣術と体術という違いはあるのだが、身体の動かし方や足運び等は共通点もあるようで、ラッミスが懇願した結果が今の状態だ。

 お爺さんは魔法特化で園長先生は弓と魔法なので、体捌きはお婆さんが断トツで優れていることが判明した。熊会長は体術メインなので、お婆さんと入れ替わりで拳法のような物を教え込まれている。

 教師が優れているのと教え子が従順で真面目なのが幸いして、日に日にその動きに鋭さが増していくのが素人目にもよくわかった。

 そして、ラッミスが鍛錬を始めると、門番ズ、ケリオイル団長、ミシュエルがさりげなさを装いつつ、聞き耳を立てて観察しているのが面白い。

 今も、少しでも盗めるものが無いかと真剣な眼差しを注いでいる。


「はい、そこで全力で踏み込む」


「といああっ!」


 ずんっと、背中越しに振動が伝わり、鈍い打撃音が響く。

 今のはイイ感じじゃないだろうか。ずっと背中にいると手応えもわかるようになってきたようで、見なくても渾身の一撃かどうか判断できるようになってきた。

 視線を向けると骨が粉砕され過ぎて、原形を留めずに欠片となって周囲に飛び散っていた。

 実戦は何よりの鍛錬になるとの方針により、敵に囲まれた状態でラッミスの特訓は続いている。


 敵の数は軽く二十は超えているというのに危機感は皆無で、荷台の上にいるお爺さんと園長先生とヒュールミは温かいミルクティーを啜りながら見物している。

 時折、荷猪車に迫る敵もいるのだが、矢と魔法で瞬殺されていた。安心感が半端ないな。

 とはいえ油断は禁物だ。いつ何時、冥府の王が現れて攻撃を仕掛けてくるか、わかったものではない。


「では、ハッコンさんがいない状態での立ち回りやってみましょうか」


「はい、わかりました!」


 ラッミスの背から降ろされ、俺も見学者となった。

 最近重点的にやっているのが、俺がいない状態で普通に戦うことだ。当たり前のことなのだが、ラッミスにはそれが上手くやれない。

 力が有り余り過ぎて、普通に一歩踏み出すだけでも、意識していないと飛び跳ねるような動きになってしまうようだ。

 十数年、怪力を持て余す体で生きてきたので、日常生活なら自然に振舞える……時折、ミスする程度で済むが、戦闘で全力を出すとなると制御が上手くいかないようだ。


「自分の力を恐れないで。貴方はその怪力を行使しても壊れない体がある。力だけでなく頑丈さも兼ね備えているのです」


 そうなのだ。お婆さんに指摘されるまで気づかなかった俺もどうかと思うが、普通あれ程の力で動けば骨や筋肉がもつわけがないのだ。それを可能にしているということは、彼女は怪力だけではなく、それに耐えうる身体の頑丈さや、しなやかさがあるということになる。

 身体は一流のハンターたちと同等かそれ以上というのが、お婆さんの評価だった。


「体を低く。上に跳ぶのではなく、前へ前へ跳ぶように。膝の関節をもっと意識して」


「はいっ!」


 声だけを聴いているとスポーツの練習風景を彷彿とさせるが、視線を向けると、砂煙を上げて疾走するラッミスが、通りすがりに敵を粉微塵に消滅させているという絵が飛び込んでくる。

 全力疾走するラッミスの姿を目で追うが、たまに追い切れずに視界から消えている。これは対戦相手にしてみれば、たまったもんじゃないな。

 ただ、全力で動くのは体の負担が大きいらしく、長時間の使用を禁止されている。今は治癒の加護を使える者が二人も居るので、自分の限界を把握する為にも、遠慮はいらないそうだ。

 何回か味方を跳ね飛ばしそうにはなったが、敵を殲滅し終えたみたいだな。


「敵もいなくなったので、ここまでにしましょうか。お腹空いたでしょう、ご飯にしましょうね」


 荷台から園長先生が声を張り上げ、全員が集まってきた。

 戦闘に参加していた面々は幾つか軽傷を負っていたのだが、お婆さんと園長先生が即座に治療をして完治している。


「この治癒力、マジで凄まじいな、ゴルス」


「噂には聞いていたが」


 門番ズが傷跡も残っていない自分の腕を見て、しきりに感心している。

 この世界の治癒能力がどれ程なのかの基準が、王蛙人魔の時のみなので判断が難しいのだが、二人の驚きようを見る限り、相当な回復力なのだろう。

 その治癒能力があるからこそ、実戦での鍛錬を実行できるそうだ。

 ここでの昼食は自動販売機――ではなく、全員が調理をして食べることになっている。園長先生曰く、


「料理は毎日やらないと腕が鈍りますからね。料理はできて損はありません。それと、男女関係なく料理が上手だとモテますよ」


 というありがたい教えに従い、当番制で料理を作ることが決められた。

 俺はスープと飲料、そして食材の提供だけを担当している。遠征中に野菜や果物を豊富に摂取できるのはかなり貴重らしく、それだけでも充分ありがたいと感謝された。


「しっかし、冥府の王は何がしたいんだ。見逃せば、情報が伝わりこうなることぐらいは予測できただろうに」


 ヒュールミは誰に話しかけたわけでもなく、独り言のつもりだったのだろうが、その声は意外と大きく、全員の注目を浴びることとなった。


「どういうことだ、ヒュールミ」


「っと、聞こえちまったか会長。いやな、あいつの手口がどうしても腑に落ちねえんだよ。あれ程の実力があれば全員を殺すことは可能だった。ハッコンの結界は厄介だが、それだって対応策はあった筈だ」


 確かに攻撃を続けられたら、いつかポイントが枯渇してそこで終わっていたし、防御一辺倒の相手なら、殺せなくても足止めや動きを封じる手段は幾らでもありそうだ。


「まるで、自分の強さを見せつけるのが目的だったかのようにすら思える。ラッミスとハッコンは、連絡係として初めから殺す気はなかった。自分はここに残るという伝言を運ばせる為に……ってのは考え過ぎか」


 初めから殺す気はなかったというのか。

 冥府の王は死霊王との戦いを見物していたかのような口ぶりだった。だとしたら、俺の〈結界〉は把握済み。あの一撃を耐えることも考慮して放たれた。

 そして、復讐心を覚えるようにヒュールミとシュイを目の前で殺した。圧倒的な力の誇示と、自分を忘れないように強烈な印象を与える為に……と深読みすることはできるが。


「だが、仮にそうだとして、冥府の王に何の利点がある。自分を討伐に来てほしいって事か?」


 カリオスの疑問は尤もだ。俺もそう思った。


「そこがオレもわかんねえ。普通なら挑発で済む話なんだが、何か目的があってダンジョンにやってきたのであれば、目立つことは避けたいと思うのが普通だ。となると、目的を既に達したのか、もしくはこの行為が目的に繋がる何かなのか……」


「もしや、最近の階層主の復活が相次いだことや、清流の湖階層での異変が関わっておるのかもしれんな」


 熊会長が腕を組みながら大きく息を吐いた。その息で焚火の炎が大きく揺れている。

 階層の異変って、王蛙人魔の発生、巨大過ぎる双蛇魔の強襲だよな。それに、各階層で計ったかのように階層主が復活をした。

 何か関連があると考えた方が自然な気すらしてきたぞ。だとしたら、本当に何が目的だ。姿を晒してターゲットになるような真似をして各階層の猛者が集まってきた。


 まさか……ドMなのかっ! いや、それはないな。真面目に考えよう。

 冥府の王の気持ちになって考えてみるか。魔王軍のナンバースリーで地位もある。自由行動も許されてはいるだろうけど、大掛かりな企みがあるとしたら普通は魔王軍に関係することだよな。

 ……普通は階層主のコインを集めて願い事を叶えると考えそうだが、あいつは死霊王のコインを投げ捨てている。何だ、何を狙っての行動だ。


「情報が少なすぎる。憶測は幾らでも立てられるが……確証がなければただの妄想に過ぎない」


 ヒュールミは腕を組んで、唸りだしている。頭から湯気でも出てきそうなぐらい、脳をフル回転させていそうだ。


「ふむ、滅する前に聞きだしたいところじゃが」


「そんな余裕を見せられる相手では、なさそうですしね。困りましたね、お爺さん」


 お婆さんがそう言うと困っているようには全く見えない。

 もし、ヒュールミの読みが正しければ、この行動には何かしらの裏があるということになる。倒せばそれで終わりということにはならないのか。

 ただでさえ強敵なのに、更に問題が増えるとは。


「でも、まずは冥府の王を倒さないと始まらないよね!」


 ラッミスの言葉に俯き考え込んでいた面々が顔を上げる。

 その通りだな。勝たなければその先は無いんだ。相手の企みも考慮しなければならないが、負けては元も子もない。


「オレは戦闘には参加しねえからな、冥府の王の考えは出来る範囲で一番確率の高い予想を立ててみるぜ。みんなは戦いに集中してくれ」


 俺があれこれ考えるよりも、知識が豊富で頭の回転の早いヒュールミに任せた方が妥当か。でも、心に留めて置こう。どうにも嫌な予感がしてならない。

 まあ、予知能力があるわけでもないので、ただの杞憂で終わる確率の方が高いとは思うが。


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― 新着の感想 ―
予知能力はなくてもフラグ建設能力はあるんです。
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