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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
四章

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精鋭部隊と自己紹介

 各階層の選び抜かれたハンターたちが集まり、集落内の大広間で決起集会が行われている。今回は敵が強大な相手なので、若手や中堅どころでは無駄死にするだけだという判断の元に、精鋭だけを集めたそうだ。

 ざっと見回してみると、如何にも熟練なハンターたちも居れば、ラッミスと同年代か少し上ぐらいの若者も見受けられる。


「若い人も結構多いねー」


 キョロキョロと物珍しそうに、周囲の人を観察していたラッミスも同じことを思っていたのか。


「若い奴らの殆どが強力な加護所有者か、複数の加護を得た者かのどちらかと見て、間違いはねえぜ」


 なるほどな、流石、物知り博士ヒュールミだ。彼女は心停止の影響で未だに万全ではないのだが、戦闘に立つことが無いという理由で、今回の遠征に同行することになっている。

 それに冥府の王が自ら殺した筈の彼女がいることで、相手の動揺を誘えるのではないかという目論見もあるようだ。

 俺の〈結界〉や、ラッミスの〈怪力〉もそうだが、この世界において加護があるかないかで、人の価値が大きく変化する。

 若かろうが強力な加護があれば、熟練ハンターの実力を遥かに凌駕する力を得ることも可能だからだ。


 壇上で説明をしているのが何故か熊会長だ。普通はこの階層の会長がやりそうなものだけど、会長の中でまとめ役のポジションは熊会長なのか。

 決起集会は明日から各自本格的な調査と討伐に乗り込むということで終了した。明日に備えて宿屋に戻るハンターが多かったが、何を思ったのか俺たちの集団に歩み寄ってくるハンターの一団がいた。


「何だ、この年寄りの集まりは。ここは介護施設じゃねえぞ。マジでやる気あるのかよ」


 いきなり暴言を吐いたのはラッミスと同年代に見える、赤く短い髪を逆立てた、小生意気そうな男だった。

 腕、胸元、足だけを覆う部分鎧は全て紫で、色彩センスは酷いとしか言いようがない。

 付き従う仲間らしきメンバーも二人が若い女性で、もう二人は中年に差し掛かったぐらいだろうか。この一団のシンボルカラーなのか全員が紫に染めた防具を身に纏っている。


「何だてめえ、いきなり失礼なクソガキだな、あああんっ!」


 相手の無礼な物言いに真っ先に噛みついたのは、ヒュールミだった。自分が舐められるのも許せないが、仲間を罵倒され見下されることを人一倍嫌う彼女らしい反応だ。


「おい、クソアマ。誰に向かって生意気な口をきいてんだっ! 俺たち紫炎の団を知らねえのか」


 おっ、相手も負けずに凄んでいるな。紫炎の団と自慢げに語っているが、全く聞いたことが無い。俺が無学なだけで、実は有名なのだろうか。


「知らねえな」


「知らないよね、ハッコン」


「わしゃ、聞いたこともないぞ、婆さんは?」


「はて、支援の団とは優しそうなハンターさんたちですねぇ」


「孤児院と同じような事業をされているのでしょうか」


「ゴルス、有名なのか?」


「初耳だ」


 誰も知りませんでした。情報通のケリオイル団長やミシュエルがいたら反応も違っていたのかもしれないが、二人とも体を最良の状態に戻す為に、診療所でギリギリまで治療してもらっているので、この場にはいない。


「て、てめえら、今、話題沸騰のハンターチーム、紫炎の団を知らねえって何処の田舎者だっ!」


 田舎者って、このダンジョンに都会も田舎もないと思う。実は驚くほど発展している階層とかあるのかね。そんな場所があるならいずれ、ラッミスと一緒に行ってみたいが。

 しかし、暴言を吐くこの男を、奴らの仲間は誰も止めようとしていないな。女二人は小馬鹿にした笑みを浮かべて、楽しそうに眺めている。後方に控えている男たちは無表情なまま、黙って従っているだけだ。

 この男のワンマンチームなのか。如何にも引き立て役と言うか、雑魚っぽい言動が目立つ男なのだが、かなり実力者なのだろうか。見た感じチンピラっぽくて、武芸を極めた感じはしない……さっき、ヒュールミが話していた強力な加護を所有している線が強そうだな。


「あんっ、何だ揉め事か。若いねぇ、ラッミス軽く小突いて気絶させてやれ」


 いきなり登場して煽っているのは、つばの広い帽子がトレードマークらしい、ケリオイル団長か。


「あ、なんだオッサン。てめえも、こいつらの仲間か。おいおい、ジジババばっかだ――」


「ケリオイル団長、治療はもういいの?」


「おう、明日には完全復活だぜ。あの骨野郎に復讐する準備は万全だ」


 ラッミスが男を無視して話しかけると、腕を叩いて力こぶを見せつけて復活をアピールしている。


「てめえら、無視してんじゃね……おい、お前、今、なんつった。そこのオッサンを何て呼んだ」


 お、さっきまでの強気の態度が少しだけ治まり、男がラッミスに問いかけている。


「えっ、ケリオイル団長だけど?」


「ふかしこいてんじゃねえぞ! まさか、愚者の奇行団のケリオイル団長とか、ぬかすんじゃねえだろうなっ」


「おう、間違いねえぜ。紫炎の団のリーダー、ニルクワ君」


 相手の名を知っていたのか。ケリオイル団長は帽子のつばに指を這わせて、意味ありげな笑みを浮かべ相手に流し目を注いでいる。


「ひぃうっ。そ、その帽子に腰の短剣……ま、まさか、いや……し、失礼しました! 愚者の奇行団の方々とは存ぜずに、申し訳ありません! 何卒、ご無礼の程をお許しいただければっ」


 見事なまでの手の平返しだな。何度も何度も頭を下げて完全に怯えている。

 愚者の奇行団ってそこまで有名だったのか。だが、この過剰反応は有名だからってだけじゃないよな。


「おいおい、そんなに怯えなさんな。一緒に討伐に向かう仲間じゃねえか……馬鹿な言動を慎むなら何もしねえさ」


「は、はい! 胆に銘じておきますっ!」


「皆さん、遅れてすみません。今、治療が終わったのですが、そちらの方は」


 ミシュエルが駆け寄ってきている。身体の痛みや違和感を誤魔化している感じはなさそうだな。これで全メンバーが揃ったのか。


「おー、今回、一緒に行動する孤高の黒き閃光ミシュエルじゃねえか」


 ヒュールミの説明台詞に、ニルクワと呼ばれた男の顔面が蒼白になった。相手がどんな反応をするか理解した上で口にしたろ、ヒュールミ。グッジョブだ。

 萎縮した彼は脱兎のごとく、この場から立ち去った。力を笠に着る者は、それ以上の力を前にすると、あそこまで情けない姿になるのか。


「ビビり過ぎだろ。ったく、うちの名前が変に有名なのも困ったもんだ」


 愚者の奇行団が有名なのは信じるしかないが、あれ程までに怯えるということは、どんな噂が広まっているのか興味がある。


「んじゃまあ、明日からよろしく頼むわ……じゃねえ、よろしく頼みます」


 年長者である三人には頭が上がらないようで、珍しくケリオイル団長の腰が低い。

 後で知ったのだが、熊会長を含めた四人は、ベテランの間では知らない者がいないレベルの超有名ハンターチームだったらしく、過去に世話になったことがあるケリオイル団長は、頭が上がらないそうだ。


「あっ、全員が揃ったんだから、改めて自己紹介しようよ! まずは、うちからね。ハッコンの相棒やっているラッミスです! 皆さん、よろしくお願いします」


 返事も待たずに率先して自己紹介を始めたラッミスに老夫婦と園長先生が拍手をしている。他のメンバーも釣られて手を叩いた。


「しゃーねえな。オレはヒュールミ。ラッミスの幼馴染で魔道具技師だ。戦力にはなんねえが、知識だけはそれなりにある。敵の情報やら魔道具の修理なんかは任せてくれ」


 何だかんだ言って付き合い良いよな、ヒュールミは。


「では、次に私が。ミシュエルと申します。偉大なる先輩方と共に戦える幸運に胸を震わせております。若輩者ではありますが、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」


「となると次は俺か。清流の湖階層で門番をやらせてもらっているカリオスと言います」


「ゴルスです」


 ミシュエルはイケメンモードでの挨拶なのだが、門番のカリオスはまだしも、ゴルスはもう少し愛想を良くしても、いいのではないだろうか。


「愚者の奇行団で団長をやらせてもらっています、ケリオイルです。今回は団員のこともありますので、力を貸していただきたい」


 ケリオイル団長も続いて自己紹介を終えた。丁寧な口調の団長と言うレアな状態は一応録画しておいた。後で見舞いの時に団員に見せて上げよう。

 そういや、副団長は大食い団と団員の看病に回っているそうだ。恐怖を押し殺して参戦を希望したそうだが、団長が部下を頼むぞと押し留めた。とシュイが言っていた。


「年齢順のようなので、次は私ですね。始まりの階層で孤児院を経営していまして、ホクシーと申します。日頃は園長と呼ばれていますので、お好きな方でお呼びください」


 園長先生は前回の一件を考慮すると、一番この階層で頼りになる人かもしれない。


「若い者順なら、次は私ですね」


「何、下らん見栄を張っておるんじゃ。それなら、次はワシじゃろうて」


「お爺さん……」


「そ、そうじゃった、婆さんが先じゃったな。いやー歳を取ると物忘れが激しくなっていかんのう」


 あ、お婆さんの一睨みでお爺さんが黙った。眼力が凄いというよりは、日頃の上下関係が垣間見えたというべきか。


「ユミテと申します。加護に癒しの光と、剣術を少々たしなんでおりますが、皆様の足を引っ張らぬよう気を付けますね」


 回復魔法も使える剣士か。ゲームならパーティーに一人は欲しい人材だ。剣は仕込み杖の事だよな。以前、あの杖から刃が出てきたのを目撃したことがある。

 どの程度の腕なのか……たぶん、回復がメインで呼ばれている筈だから、自分の身を守れるぐらいの腕があれば、仲間が楽できそうだが。


「最後はワシじゃな。名はシメライ。魔法と幾つかの加護を所有しておる。遠距離はワシとホクシーに任せておけばええ」


 お爺さんは魔法使いなのか。どうりで、武器を携帯していない訳だ。

 前衛、回復役、後衛。かなりバランスのいいパーティーだな。後は各自の実力次第ということになる。老いさえなければ何も問題は無いのだろうけど、老夫婦は若くても六十代。園長先生はおそらく五十代。その年齢による衰えが心配になる。

 期待と心配が入り混じっているが、敵の強さを目の当たりにしたケリオイル団長なら、全員の動きを観察して、適切な判断を下してくれるだろう。


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