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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
三章

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決戦

「団長。赤から、この先で死霊王らしき魔物を発見したって報告が来たよ」


 紅白双子の遠距離で意思の疎通ができる加護のおかげで、偵察に出ていた赤と大食い団二人から連絡を得ることができた。


「見つけたか。赤たちには一定の距離を保って見張りを続けさせておけ。俺たちも急ぐぞ」


 本番か。何度も脳内でシミュレーションをしてきたから何とかなるとは思うが、いざとなったら守りに徹しよう。

 非戦闘員であるヒュールミをどうするかなのだが、荷猪車と一緒に現場に向かっている。幌付きの荷台なのだが、幌を取り外してそこに射手であるシュイも乗り、遠距離攻撃を仕掛けることになっている。

 護衛に大食い団のスコとペルもいるので、大丈夫だろうという判断だ。どっちにしろ、置いていけないし集落にも戻る訳にもいかない。


「大体、十分ぐらいで着くからな。腹くくっておけよ」


 御者席に乗り手綱を操るケリオイル団長の言葉に全員が頷いている。

 結構な速度が出ている荷猪車には愚者の奇行団全員とヒュールミが乗り、大食い団とラッミスは並走している。

 いい加減慣れそうなものなのだが、俺を背負って無理なくこの速度が出る脚力には驚かされるよ。俺を背負わない状態で力を上手く操れるようになったら、ラッミスは誰にも負けない強さを手に入れられそうなのだが、制御がかなり難しいそうだ。何度も練習して体に覚えさせるしかない。


「っと、いたか」


 前方の岩陰に赤と大食い団ミケネ、ショートがいる。手を振る彼らに速度を落として近づき、岩陰に全員が一先ず隠れることとなった。


「状況は?」


「この先に死霊王とその配下と思われる魔物の一団がいます。死人魔が五、死霊魔が五、骨人魔が八、炎飛頭魔が四です」


 簡潔な質問に的確な答えが返ってくる。取り巻きの数は二十二。事前の作戦では許容範囲だが、少し多いよな。


「やれないことはないが……初手である程度数を減らしたいところだな」


「副団長がいないっすからね。弓だと接近するまでに数体はやれるけど」


 一気に倒す方法か。魔法が無いので遠距離攻撃は弓と団長の投げナイフぐらいか。大食い団はあの手なので飛び道具を操るのは無理だし、ラッミスは命中率が低すぎる。

 〈高圧洗浄機〉で水を出せば炎飛頭魔の火は消せるが、他の魔物には効果が無い。魔物たちは死霊王を取り囲むように配置されていると、赤が説明しているので、むしろあの炎を利用するべきか。となると〈灯油計量器〉になって灯油をばらまき一帯を火の海にするというのはどうだろうか。

 お、これは意外と良い案かもしれない。念の為に引火点の低いガソリンや軽油にした方がいいだろうか。〈ガソリン計量機〉もちゃんと機能の欄にあるしな。


「雑魚を一掃できると後が楽なんだが……おっ、ハッコン何か策を思いついたのか」


 姿の変わった俺を見てケリオイル団長の目が見開かれる。期待してもらえるのは悪くない気分だが、問題はこの使い方を即座に理解してもらえるかどうか。

 一見、ただの自動販売機にも見える四角いボディーに赤、黄色、緑のノズルが突き刺さっている。日本人の成人なら誰しもが理解しているとは思うが、赤はレギュラーガソリン、黄色はハイオク、緑は軽油を出すノズルとなっている。

 ラッミスも何か考えがあるのだろうと、形状の変化した俺を地面に下ろして、じっと見つめているな。さて、問題はここからだ。彼らにどうやって理解してもらおう。


「これは水を飛ばす装置に似ているな、これ抜いても構わねえか?」


「いらっしゃいませ」


 ヒュールミは一目見ただけで、そこを見抜き軽油のノズルを引き抜き、手に取って眺めている。


「やっぱ、水出すのと仕組みが似ているな。これを引くと先端から何か出るって感じか」


「いらっしゃいませ」


 先に高圧洗浄機の知識があって助かるよ。


「ちょっと、引いていいか?」


 もちろんだ、望むところだよ。


「いらっしゃいませ」


 ヒュールミが先端を誰もいない方向へ向けてからレバーを引いた。ノズルの先から透明の液体が勢いよく噴出する。本来は先をタンクに入れなければ出ないように、安全装置が付いているのだが、それは解除させてもらった。


「うわっ、くっさいよこれ!」


 大食い団の面々が鼻を押さえて、しかめ面をしている。

 ヒュールミはレバーを戻し、ノズルを元の位置に差し込むと屈みこみ、地面に零れた軽油を調べ始めた。


「ハッコン、これ触っても大丈夫か。毒とかじゃねえよな」


「いらっしゃいませ」


 ちょっと触るぐらいなら問題ないよな。手が臭くなるぐらいだ。


「臭いは、こりゃきついな。感触はぬるぬるして油っぽい。紙に浸してみるか」


 ヒュールミは軽油で濡れた紙を持って少し離れると、懐から出した手のひらサイズの円柱状の物体――着火用の魔道具を取り出した。

 この世界で百円ライターを提供すれば売れるのではないかと、一時期考えたのだが、普通にライター代わりの魔道具が出回っていることを知り、あっさりと諦めた過去がある。

 魔道具の先端に火が灯り、それを紙に近づける。


「うおっ! スゲエ燃えるな」


 ヒュールミは素早く手を離して地面で燃え続ける紙を観察している。紙の炎に下から照らされたヒュールミの笑顔が若干怖い。


「あれか、ハッコンはこの良く燃える油を奴らにぶっかけろと言いたいんだな」


「いらっしゃいませ」


 正解だよ、ヒュールミ。


「じゃあ、私が敵に突っ込みながら油撒いたらいいんだね」


「そうなんだが……いや、待てよ。この油もっと使い道があるな。ハッコン、水入っている容器を利用しても構わねえか?」


 何か思いつき口元に笑みを浮かべたヒュールミを見て、俺も理解した。もちろんだとも、好きにやってくれ。


「いらっしゃいませ」





 死霊王に動きが無いうちに作業を終わらせ、戦闘準備が整った。


「それじゃあ、作戦通りにやるぞ。役割分担を忘れるなよ……行くぞ!」


 全員が岩陰から飛び出し、ラッミスと俺は仲間から少し遅れて、死霊王に向かい正面から突っ込んでいく。

 距離はまだあるが、相手がこちらの動きに気づいたようで、まずは取り巻きを俺たちにぶつけるように指示を出している。

 死霊王から魔物たちが離れ、ひと塊になってこっちに向かってきたところで、仲間が一斉に手にしたペットボトルを投げつけた。ラッミスだけは軽油のノズルを引き抜いて、相手に向けているが。

 放物線を描いて相手の上空にペットボトルが達したところで、俺はペットボトルだけを消して満タンにしておいた中身――軽油を魔物の頭上から浴びせる。

 炎飛頭魔の炎が軽油に引火、辺りが火の海と化した。更にノズルから噴出した軽油が撒かれたことにより、炎は激しさを増す。


 突如現れた炎の一帯を避けるように左右に分かれて仲間が回り込んでいる。だが、俺たちは炎の中に平然と突っ込んでいく。

 〈結界〉で炎も熱も二酸化炭素も侵入を許さず、炎の中を一気に走り抜ける。

 視界は炎で閉ざされているが、それは敵も同じ。タイミングをずらしたことにより、今頃は先に挟み込む形で、死霊王の視界に仲間が飛び込んでいる筈だ。

 相手が敵を認識して注意が逸れているところで、炎を突っ切って俺たちが飛び出す。


 ビンゴだ! 敵の正面、距離10メートル程度。金色の刺繍が至る所に施された漆黒のローブを着込んだ骸骨がそこにいた。

 相手は魔法を放つ直前だったようだが、俺たちを見ると標的を変更して、骸骨の腕が重なり合って形成された杖をこちらに向ける。

 魔法が来る! 〈結界〉の準備は万端。どんな魔法でも確実に防いでみせる。

杖の先端は骸骨の閉じられた拳が寄り添っていたのだが、その全ての手が開き、そこから閃光が伸びてきた。

 稲妻かっ。電気系は自動販売機にとって最悪の相性。〈結界〉で静電気の一つも通さず、全てを弾き飛ばした。その瞬間、眼球のない死霊王の瞳に宿る赤い光が揺れた気がした。動揺しているのか。


「我が魔法を防ぐだとっ! その青白き光はもしや……結界かっ、小癪な」


 お、骸骨が喋った。中々威厳のある良い声をしている。声帯ないのにどうしているのだろうとか、突っ込むのは野暮な話か。俺だって自動販売機なのに意思があるしな。

 俺の〈結界〉を一目で見抜くとは、生前は優秀な魔法使いだったというのは本当なのかもしれない。

 こちらに意識を奪われている間にシュイ、ケリオイル団長からの矢と投げナイフが放たれる。


「無駄なことを」


 死霊王が軽く杖を振ると、両脇から骸骨で埋め尽くされた骨の壁が出現した。更に、もう一度杖を振ると、骸骨の壁が崩れたのだが、骸骨たちは破壊されることなく地面に降り立ち、仲間に向かって襲い掛かっている。

 壁一枚につき骸骨が三十はいる。合計六十近い骸骨となると、助力は期待できそうにないな。


「そこの娘よ、背にあるその箱……何かあるな」


「さあ、よくわかんない!」


 問いかけられた言葉を無視して、ラッミスが突っ込んでいく。

 ここからは一対一プラス一台だ。こうやってボス級の相手に二人きりで挑むのは初めてだよな。気合入れて行くぞ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法使いで骸骨でマント付けてる……………… (゜_゜ )リッチ?
[気になる点] 軽油は常温では火を近づけても引火しないはずです
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