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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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266/277

自動販売機コーナー

 ナンバー4~20はダンボール、風船のコンボで宙に浮いてくれ。その他の自動販売機は〈高圧洗浄機〉のノズルを出して射撃準備!

 俺の意思に従い、すべて自動販売機が行動を始める。

 ふわふわと空に浮かぶ〈ダンボール自動販売機〉は〈結界〉内部を風船で満たして上空で待機。

 その様子に冥府の王も気にはなっているようだが、地上の自動販売機のノズルが全て自分に向けられているので動くに動けない状態だ。


 さーて、最終決戦にはあれがつきものだよな。ということで、ナンバー21~24は〈ジュークボックス〉にフォルムチェンジ。決戦に相応しい壮大な音楽で頼む。

 冥府の王を中心に東西南北に設置されている自動販売機が〈ジュークボックス〉に変化する。

 それでは、ミュージックスタート!

 荒れ果てた荒野に響き渡る荘厳な音楽。クラシックをチョイスさせてもらったが、ラスボス戦に相応しい選曲だろ?


「どこから聞こえてくるのだ、この音楽はっ!」


「さいごのたたかいには びーじーえむ がひつようだろ」


「びーじーえむ?」


 ラッミスが小首を傾げている。説明はこの戦いが終わってからするよ。

 冥府の王が先に仕掛けるつもりなのか腕を掲げようとしたところに、全方位からの一斉射撃を開始した。

 白い糸がレーザーのように標的を射抜こうと発射される。その数は五十と少し。

 対応しきれないと高を括っていたのだが、冥府の王の周囲を取り囲むように小さな黒い板が大量に発生した。

 それが全ての聖水を防ぎ、今のところ一滴も相手を捉えていない。

 一つを小さくすることで数を増やしたのか。あの数を一人で操る技量……普通なら驚愕に値する実力者だよな。


「やられはせぬぞ! 我は力を得て魔王を滅し、再び頂点に君臨するのだっ!」


 欲望の内容はさておき、その強い意志だけは尊敬するよ。

 だけど、これにも対応できるかな?

 全員、更に三本のノズル追加だ。軽油、レギュラー、ハイオクを使うぞ。

 前に俺がしたように自動販売機の体から三本のノズルが追加される。

 単純に四倍の火力を防げるかな。

 わざと一度、聖水の放出を止めて冥府の王が周囲の状況を理解する時間を与える。

 漂う黒い壁の向こうに姿が垣間見えるが、首がもげるのではないかと余計な心配をしたくなるぐらい挙動不審だ。


「妙な腕が増えた……だとっ! ハッコン、お前は一体何者なんだっ!」


 冥府の王の絶叫に対し、俺の返事は決まっている。


「ただの じどうはんばいきだよ」


 決め台詞も言えたし、この戦いを終わらせようか。

 こいつがダンジョンを破壊したせいで多くの住民が苦労をする羽目になり、少なくない死傷者も出た。ケリオイル団長一家も翻弄されて仲間同士で争うことにもなった。

 今は元の鞘に収まっているけど、決して許される行為じゃない。

 聖水のシャワーに貫かれて成仏するがいい、冥府の王!


 俺は一切の躊躇いもなく、全てのノズルから最大威力で聖水を発射した。

 上に浮かんでいる自動販売機からの光景だと、まるで蜘蛛の巣の中心に冥府の王が囚われているかのような図が描かれている。

 これで終わりだと確信していた……のだが、何処からともなく風が吹いてきたかと思うと、冥府の王を中心として豪風が吹き荒れた。

 ここで竜巻を発生させたのか。黒い板も竜巻の表面に乗っかったまま、目にも止まらぬ速度で周囲を回り続けている。

 高圧で打ち出しているとはいえ風には弱く、おまけに黒い板が高速で回転することで全方位からの射撃を防がれているのか。

 僅かながら聖水が冥府の王まで届いているようだが、全身から薄い湯気が立っている程度で致命傷には及ばない。


「そっちも しぶといじゃないか」


「倒せてないの、ハッコン?」


「まだ けんざいだよ」


 聖水では押し切れないことが判明した。となると、空中部隊の出番だ。

 ナンバー4~20は〈コイン式掃除機〉になって位置の調整。冥府の王の真上に陣取れ。そして、到着したメンバーから各自……爆撃開始だ!

 聖水の放出を続けることで上空に注意が向くことを封じ、相手をその場に固定させる。

 真っ先にたどり着いたのはナンバー7か。縁起のいい数字だ、一発目としては最高の人材……自動販売機。

 そこで〈中古車自動販売機〉にフォルムチェンジして、真下へと突撃!

 重力に従い巨大な体が冥府の王を目がけて落ちていく。もちろん、足下にはコンクリート板の基礎も召喚済み。


 発生している巨大な竜巻の上にナンバー7が乗っかったのだが、落下が止まった。これだけの質量をあの竜巻は押しとどめているのか。

 それどころか体が回転し始めている。これを回すほどの威力があるとは流石だな。

 急に影が落ちたことで冥府の王も頭上の存在に気付いたようで、見上げた状態で大口を開けてポカーンとしている。

 今日は驚いてばかりだな。じゃあ、もっと驚いて腰でも抜かしてもらうか。

 ナンバー10、12、17、到着したなら順番に落下だ。ナンバー7の上に乗っていくぞー。さあ、降下開始!

 次々と縦に並んで積み上がっていく〈中古車自動販売機〉それはまるで、自動販売機の塔のようだ。

 四台目が最上部に乗った時点で体の回転はなくなり、竜巻が急速に縮んでいく。もう一息だとわかったので、更に二台同時に勢いよく乗る。

 一気に自動販売機タワーが沈み、土砂が地面から噴出して空から土が舞い降りてきた。

 これは完全に潰れた。あれを止められる存在なんてこの世界には存在しないだろう。


「やったね、ハッコン! 凄い凄い!」


 無邪気に喜んでくれるのは嬉しいけど、念の為に冥府の王がどうなったか確かめないと。粉砕された骨の確認をしないと勝利宣言できないからね。

 上に乗っている自動販売機を全部消して、落下地点を確認する。

 地面がコンクリート板の形で陥没して窪みが出来上がっていた。そして、中心部には砕けた骨が……ない? 代わりに地面へ細い亀裂のような穴が開いていた。

 って、これは!


「まだおわってない らっみす けいかいして」


 俺が大声を発すると、ラッミスが驚きのあまり小さく跳ねた。


「えっ、あっ、穴が」


 おそらく、耐えきれないと判断して地面に魔法で穴を掘り、その中に飛び込んだのではないだろうか。だとしたら、まだ生存している。骨なので生存という言葉が正しいのかは不明だけど。

 そろそろ、時間もやばいよな。残り時間は……一分を切っている!

 このまま潜み続けられたら、俺たちの勝機はゼロだ。どうにかして、冥府の王を地面から追い出さないと。


「じかんがない はやくけっちゃくを つけないと」


「あっ、そうか。時間制限あったよね。じゃあ、うちの出番だね!」


 何を思ったのかラッミスが地面の穴に向かって全力で駆けていく。

 窪みの淵に差し掛かると膝を曲げて屈み、中心部の穴へ向けて真っすぐに飛び込む。

 拳を強く握りしめ、大きく息を吸い込んだラッミスは、


「全力全開粉砕撃」


 なんとも評価しづらい技名を叫ぶ。俺の自動販売機コーナーに対抗して即興で技名を考えたっぽいな。

 背負われながらそんなことを考えている内に、凶悪な破壊力を秘めた拳が穴の脇に叩きつけられた。

 ない耳を覆いたくなるような轟音が荒野に鳴り響き、地面が爆発して土砂が天高く飛び散る。周囲の自動販売機の体が地面からの振動で大きく揺れた。

 全部の自動販売機がその光景を凝視している。

 吹き上がる砂塵の中に――黒い骸骨を発見。体を反らせた状態で吹き飛ばされながらも、その赤黒く輝く瞳は俺たちを見ていた。

 空中で急停止すると、冥府の王はぼろ雑巾のようになった黒のローブを震わせながら、口を開く。


「ここでの勝利は譲ろう。だが、我はまだ終わらぬ! いつの日か必ずっ」


 捨て台詞を吐いて、その体が急上昇していく……って見逃すわけがないだろ!


「らっみす あのからだのうえに のって」


 取り出し口からペットボトルを出し、前方にいる〈アイス自動販売機〉へとぶつける。

 ラッミスは何も言わずに言うことに従い、ナンバー31の頭上に乗っかった。

 残り時間は三十秒。これがラストチャンスだ!

 ナンバー31は即座に日本最大の氷の自動販売機へとフォルムチェンジした。もう二度と会えないと思っていたが、〈変形〉を覚えたことで復活を成した。

 十メートル以上の高さへと伸び、冥府の王との距離が一気に詰まる。


「ええい、面倒なっ!」


 飛んで逃げる最中の冥府の王が振り向きざまに、俺へ向けて魔槍を放つ。

 だが、その斜線上に飛び込んできた、宙に浮かんだままだったナンバー5〈ダンボール自動販売機〉が〈結界〉でその攻撃を受け止める。

 ラッミスが全力で蹴りつけると同時に足場の日本最大の自動販売機が〈結界〉で弾き、弾丸のように射出された。

 このまま、なら届く。ラッミスが最後の一撃を秘めた拳を握りしめている。

 あとは冥府の王の顔面に叩き込むだけだ!

 ぐんぐんと迫る黒い頭蓋骨。もう拳を突き出すだけの距離。俺もラッミスも勝利を確信した、その時、冥府の王が更に加速して距離が開いていく。


「我が風の力を侮るでない」


 あの竜巻の要領で風を操り逃走速度を上げたのか、手の届く範囲にいた冥府の王が、一メートル、二メートル、三メートルと遠ざかる。


「そ、そんなあと一歩だったのにっ!」


 唇をかみしめ握りしめた拳から血が滴り落ち、涙目で冥府の王を睨むラッミス。


「まだだ まだだよ あとじゅうびょう のこっている」


 俺はそこで〈コインロッカー〉にフォルムチェンジをすると正面ではなく、ラッミスの背後に扉を開く。

 ロッカーの中にはコーラのペットボトルが詰め込まれていて、飲み口は全て扉の外へ向いている。そして、中身を少し減らしたコーラのペットボトルの中に入っているのはキャンディー……ではなくガスだ。〈ガス自動販売機〉のガスをペットボトルの中に充満させている。

 コーラをキャンディーで一気に噴出させる技の進化版なのだが、実際にやると危険なので絶対にマネしないように!

 俺は一斉にコーラのキャップを消すと、中身が凄まじい勢いで噴出する。

 更に〈コインロッカー〉の両脇からあらゆるノズルを出して、噴射口を背後に向けて全力で空気を放つ。

 ノズルから放たれた空気と、ペットボトルから飛び出したコーラの威力に押されてラッミスの体が急加速した。

 必殺コーラバーニアだっ!

 爆発的な推進力で冥府の王に追いつくと驚愕に歪んだ顔が、一瞬、呆れたかのような皮肉な笑みを浮かべたように見えた。

 その顔面をラッミスの拳が捉えると、触れた途端に骨が砕け弾け、腕を振り切った時には粒子となって空に散っていく。


 長かった冥府の王との因縁に今、決着がついた。


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[一言] 車販売ビルのテトリスやぁ~~
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