俺は畑で無双する7
合体階層主の上に乗っていた冥府の王はどっかに行ったな。自動販売機たちの方が誘い出してくれたようだ。
これで戦いやすくなったけど……敵が頭を地面に伏せて大口を開けている。何をする気だ。火炎とか遠距離攻撃でも仕掛けてくるのが定番だが。
そう考えて待ち構えていると、その口から――魔物が現れた。
おっとそっちか、意表を突かれたな。全身が溶岩でできた人型の魔物が一体。それに、身体が燃え上がっているデカいカエルもいる。その合計二体が追加の魔物か。
ちょっと面倒なことになったが、この土の腕でぶっ飛ばそう。
「畑さん。あの敵は私に任せてください」
体内に控えてもらっていたキコユがそんなことを言ってきた。
う、うーん。成長して強くなったのは知っているけど、敵も結構強そうだからなぁ。
「私ではなかろう。私たちではないのかえ?」
体内に視線を向けるとクョエコテクが参戦を希望してきた。その隣でウサリオンたちが跳ねている。やる気満々のようだ。
全員で挑むなら、勝機は十分にありそうだな。家族なら仲間なら信用することも必要だ。なんでも自分一人で解決するのが正しいわけじゃない。
じゃあ、お願いしようかな。前までは呪いを解く力があるキコユが俺の体に触れてないと、身体がその場に固定されて動けなかった。
だけど、大人になって力が増したおかげで離れても俺は畑として暴れられるようになった。だから、安心して戦っておいで。
敵を真似て体の一部にトンネルを作ってキコユたちが出られるようにした。
そこから仲間が姿を現し、俺の前に整列する。
ここで俺のやるべきことは、こっちの戦闘に仲間を巻きこまないことだ。
敵の出した二体がこっちに向かってくるのを見て、二十本の腕を限界まで曲げる。畑の下部が地面に着いた状態から、一気に腕を伸ばして跳躍した。
仲間と敵二体の頭上を通り過ぎ、着地地点には合体階層主がいる。
チェエエエエンジ、ハタッケー!
体を真四角のサイコロ状にすると、敵に衝突する一面から腕を生やす。それも、無数の土の腕を出すのではなく、全ての腕をまとめた巨大な一本の腕だ。
想像して欲しい、サイコロ状の土の塊の一面から巨大な腕がにょきっと生えているところを――想像力が豊かな人への精神ダメージが通った気がする。
その土の剛腕を躊躇うことなく、合体階層主の顔面に叩き込んだ。
相手は畑である俺の変身ぶりに驚いたようで、無防備な状態で拳を受けて吹っ飛んでいる。
俺は土の腕一本で華麗に着地すると、そのままぴょんぴょんと跳ねて相手との間合いを詰めていく。
たぶん、気のせいだろうが、岩でできている合体階層主の顔が怯えているように見える。魔物が俺を見て恐怖を覚える様なことはないだろう。
ほーら、怖くないよぉ。
今度は体の側面から無数の腕を出して、カサカサと音がしそうなぐらい素早く腕を動かして迫ってみる。
あれっ、後ずさりしてないか。失敬な魔物だ。この姿は農協のゆるキャラに任命されそうなぐらい可愛らしいだろうに。
何故か俺から逃げる合体階層主を追い回しながら、仲間たちへ目を向ける。
体が燃えていた大きな蛙は、空から舞い降りてきた黒八咫の羽ばたきの風により炎が掻き消え、そこに土煙を上げて爆走してきたボタンが突撃した。
立派な一本角が蛙の背中から突き刺さり、腹から先端が飛び出ている。だが、まだ生命力が尽きていないようで、腹の角を押し出そうとしていた。
そこでウサッター一家が飛び込み、鋭く尖った耳を振るう。蛙の全身に赤い線が走ったかと思うと、そこには細切れになった肉片が……。
圧勝じゃないですか、うちの家族は。まあ、黒八咫たちは初めから信頼していたけど。
もう一体の溶岩の相手はどうなっているのかな。
そっちに視線を向けると、キコユが手をかざし吹雪を発生させると、溶岩の身体から蒸気が上がっている。あの雪を発生させる力、スキー場でバイトしたらぼろ儲けできそうだ。
クョエコテクは腕を組んだ状態で突っ立っているだけに見えるが、彼女の周りには無数の魔物が集まっている。
一見、彼女が魔物に襲われているように見えるが、あれは彼女が操っている死体だ。
俺は離れる前にクョエコテクに頼まれて、さっき畑に取り込んだばかりの魔物の死体を置いていった。それを彼女のネクロマンサーの力で操っている。
吹雪に晒され動きが取れない魔物に死体たちが群がっていく。生身の身体なら寒さに体が縮こまるところだろうが、あれは既に死んでいるので感覚はない。
溶岩人型の表面は冷え固まり、下半身には魔物の死体が纏わりつき、その体が凍ることで相手の動きを封じ込めている。
下半身の自由を奪われた溶岩人型が魔物を引き剥がそうとしているが、身体が冷えたことで関節も固まり出しているのだろう、動きが鈍重で時間が経つにつれて更に動きが鈍くなっていく。
あっちの戦いが終わるのは時間の問題だな。じゃあ、俺も終わらせることにしよう。
唐突ですが、畑さん殲滅クッキングのお時間です。
今日の献立はハリセンボン風岩の串刺しです。
材料は生きのいい大きな犬の形をした岩。そして、畑から採れたてのゴボウとなります。このゴボウは品種改良を繰り返し硬さに特化した逸品で、どれぐらい硬いのか試す為に防衛都市の壁に投げつけたらあっさり貫通した代物です。驚きですね。
鍛冶屋の方が「鋼より硬いんじゃないか」と驚愕されていました。
そのゴボウを大量に抜き出し畑の上に並べます。まあ、硬くて太くて先が鋭くて美味しそう。それを土の腕でガシッと掴みます。
ここでワンポイントレッスン。ゴボウを投げる時は遠慮なく思いっきり投げつけること。
(使用後のゴボウはスタッフが後で美味しくいただいています)
では、大きく振りかぶって、畑選手第一球……投げました!
投げつけたゴボウの束が宙でばらけて、合体階層主のお尻と脚に突き刺さる。
関節に刺さったゴボウが邪魔で走れなくなった敵が豪快に転び、地面の上を滑っていく。
ここは必殺の一撃を叩き込む絶好のチャンス!
大きく跳躍すると空中で再び畑の形を変化させる。
下を鋭く尖らせた四角推――つまり、ピラミッドの先端を鋭角にして逆さに向けた形になった。その先端にはゴボウを集めて鋭く尖った切っ先を下に向けた。
更にてっぺんから一本土の腕を出し、畑で採れたサツマイモ――この世界ではシテミウマと呼ばれる野菜の蔦をまとめた物を握りしめている。
そして、その蔦を体に巻き付けると一気に引っ張り上げた!
そうするとコマの要領で体が激しく回転を始める。重量に鋭利な先端、更に回転力を加えることにより威力が倍増する……と、どっかの漫画に描いてあったと思う!
俺は地面に倒れて動けない合体階層主の頭に着地する。下から何かを砕いたゴリゴリという破壊音が響き、一瞬だけ俺の身体は停止したが、すぐさま回転しながら下へと降りていく。
そして、その回転が収まった時には、原形をとどめていない合体階層主の破片が周囲に散らばっていた。
クッキング終了!
貴様が負けたたった一つの要因は……食物繊維をおろそかにしたこと、さっ。
地面に突き刺さったまま、二十もの腕を出し親指を立ててポーズを決めてみたが、格好をつけている場合じゃなかった。
みんなはどうなっている?
慌ててキコユたちへ目を向けると、あっ、氷の塊の中で身動きが取れなくなった敵がいる。死んでいるかどうかはわからないけど、勝ちは確定だな。
防衛都市の方に千以上の敵を逃したので、そっちも確認してみると全ての敵を倒し終えていた。目立った怪我人もないようでホッとしたよ。
実は防衛都市の兵士たちも最近メキメキと実力を付けていて、新兵でも中級レベルの魔物に勝てるとの話を聞いたことがある。
ボタンたちもそうだけど、俺の野菜を食べ続けるとどうやら身体能力が格段に向上するらしく、兵士だけではなく町の人々も医者いらずの健康体でめっちゃ元気なんだよな。
我ながらたまにうちで採れた野菜の効力にビビる時がある。変な成分は入ってないと思うんだけど……。
「お疲れ様でした」
「うむ、よくやったな畑よ」
「流石です、守護者殿」
「クワックワー」
「ブフゥブフォォ」
駆け寄ってきた仲間から称賛の言葉が投げかけられた。ウサッター一家は嬉しそうに周囲で飛び跳ねている。
あれ、ハヤチも合流していたのか。ウサッターたちがいるから当然と言えば当然だけど。
『みんなもお疲れさま、全部片付いたら祝勝会やろうね』
俺が書きこんだ文字を見て嬉しそうに頬を緩めている。
こっちからは新鮮な野菜を提供するから、防衛都市に戻ったら盛大な野菜祭り開催だ。
「そういえば、ハッコンさんたちはどうなったのでしょうか?」
ハッコンって確か自動販売機の名前だったよな。キコユは少しの間だけど共に旅をしたらしいから、この中で一番彼らと近い間柄だ。心配にもなるよね。
冥府の王と戦っている筈だけど、現状が確認できない。
辺りを見回してみるが、その姿が見えない。魔法で何処かに運ばれたのか?
もし苦戦している様なら手を貸すけど、たぶん、大丈夫だろう。何故かはわからないが、確信にも似た考えが頭に浮かんだ。
畑としての手伝いはここまでだとしても、同郷として勝利を信じているよ……ハッコン。
畑の活躍はこれにて終了です。
次回からハッコンに戻りますので、ご安心ください。




