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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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俺は畑で無双する5

 現在、魔王の領地を抜けて、深淵の上に伸びた一本の道をひたすら進んでいる。

 ここは俺と魔王軍が壮絶な戦いを繰り広げた元戦場だ。防衛都市と魔王軍を繋ぐ唯一の道なので、ここでの攻防は必死だった。沈めたり埋めたり吸収したり忙しかった、うんうん。

 この道の先に防衛都市があるのだけど、この調子なら一時間もすれば着くだろう。

 俺たちが防衛都市に向かっていることは、黒八咫が既に伝えている。

 あれから二度ほど黒八咫が戻ってきて、今後の戦略を自動販売機の陣営とやり取りをした。もう二、三回やり取りをしたら互いに納得がいく策が完成しそうだ。

 防衛都市に着いたらジェシカさんとも話し合わないといけないな。ただなぁ、目を合わせると意識を吸い込まれて、我を失いそうになるんだよ。

 今は昔と比べて精神が鍛え上げられているから大丈夫だとは思うけど、うーん。目を合わせなければ済む話なんだけど、それは失礼だし。

 まあ、目はないけど。


「ジェシカさんと話をする時は嬉しそうですからね……畑さんは」


「確かにそうじゃのう。我とは対応が全く違っておる。浮かれて畑の温度も上がって暑いぐらいじゃよ」


 何を仰っているのか、ちっともワカリマセーン。

 あの瞳の威力は反則級だから仕方ないんだよ。ただでさえ美人なのに魔性の瞳を持っていたら抗えないのが世の中の道理だ。

 なんで不機嫌なのかはわからないけど、果物でもプレゼント・フォー・ユー。

 丁度いい具合に熟れているイチゴのような見た目をした、ウツガをもぎ取ってスッと二人に差し出す。


「こ、こんなことでは騙されませんよ」


「う、うむ、そうじゃな。果物なんかで誘惑されぬ」


 そう言いながらも果物に視線が釘付けだ。二人ともうちの農作物の威力……じゃない、味は重々承知しているだろう。

 なんだかんだ言っても、うちの果物の魔力には勝てまいて。ほーら、欲しくないのかなぁ。ウツガを掴んだ手を左右に揺らすと、二人の顔がゆらゆらと左右に動く。

 ほーら、欲しいんだろぅ。正直に言ってごらん。さあ、その可愛らしい口を開いて、媚びるように上目遣いでお願いして――、


「畑さん、気持ち悪いです」


「えっ、なんて思ってたのじゃ?」


「実は……」


 あっ、キコユに耳打ちされたクョエコテクが俺を半眼で睨んでいる。キコユも一緒になって半眼ですな。こういう時は仲いいよね、キミたち。

 結局、最終的にはウツガを食べたことで白目をむいて失神したので、目が覚めたら機嫌もよくなっているだろう……栄養分注ぎすぎたかな、もうちょっと調整しよう。





「あれ、私は何を……」


「とても気持ちよかった気がするえ……」


 防衛都市の外壁が見えてきたタイミングで、二人が目を覚ました。

 頭を振っているが、どうやら気を失う前の記憶が曖昧のようだ。都合がいい。


「あの、私たちは一体」


『二人とも果物を食べて気を失っただけだよ。ごめんね、ちょっと栄養が多すぎたみたいだ。身体に悪いことはないと思うけど』


「え、ええ。体調は悪くないですむしろ」


「すこぶる好調だ。いつもより調子がよいぐらいじゃのう」


 おっし、食前の記憶はないみたいだ。一時的な記憶を吹っ飛ばすほどの美味か。これ別のことにも使えそうだな、心にメモっておこう。

 防衛都市の外壁までたどり着くと、門の前にはジェシカさんとステックとモウダーが並んで待っていた。俺の身体は大き過ぎて町の中じゃ目立つので、予め移動しておいてくれたのか。

 あれ、隣にいる二人の男の人に見覚えがないぞ。角切りとスキンヘッドの厳つい男が俺を見上げて唖然としている。俺を知らないということは新しく防衛都市にやってきた人か。

 引き締まった身体つきをしているから、新しい門番なのかもしれないな。


「お帰りなさいませ、守護者様」


 艶やかに微笑むのは防衛都市の領主であるジェシカさん。今日もお美しい。

 このままだと、ジェシカさんたちが話しにくそうなので、身体を地面に埋めていく。土のあるところなら何処でも同化できるからね。

 畑の表面と周囲の地面が同一の高さになると、俺は腕を一本だけ出して彼女の目の前に移動させた。


「お心遣い感謝いたします」


『ただいま』


 いつものように土の板に返事を書きこむ。


「黒八咫さんに頼みましたお手紙は届きましたでしょうか?」


 頬に指を当てて小首をかしげる姿も絵になっていて、ああ、土壌がとろけてしまいそうだ。って、踏ん張れ! いきなり、陥落しそうになるな。

 ジェシカさんは男、ジェシカさんは男。よっし、大丈夫だ。


『読んだよ。作戦も立てたから、冥府の王の軍はなんとかなるんじゃないかな』


「さすが、守護者様ですわ! ジェシカは信じておりました」


 一気に距離を詰めて土の腕に抱き付くジェシカさん。あー、男性だとわかっているのに、わかっているのに、この甘い香りと風に揺れる髪と柔らかい身体があああっ。頑張れ、俺の理性さん! 抗うんだっ!


「ジェシカさん、畑さんが困っています。そろそろ、離れてください」


 どすの利いた低い声を発するキコユから、冷気が流れ込んでくる。

 顔は笑顔なのにとっても怖いのは何故かな?


「守護者様は困っていらっしゃるのですか。ジェシカに抱き付かれては迷惑ですか?」


 そんな潤んだ瞳で見つめられて、迷惑と答える男性がこの世に存在するだろうか。いや、いないと断言できる!


「め、い、わ、く、ですよね」


「そうじゃよなぁ、畑よ」


 うっひょー、クョエコテクまで睨んでいらっしゃるよ。

 ここは自力での撤退は不可能だ。至急、援軍求むっ!

 家族である、ボタンとウサリオン、ウサッピーに助けを求めると――体を背けられた。くっ、身内に見捨てられたっ!

 ならば、ステックとモウダーの従者コンビに助力を!


「はっはっは、守護者様はモテモテでいらっしゃる。私も若い頃は選り取り見取りでして、多くの女性と夜を共にしたものです。何度か修羅場を経験して命の危険に晒されたこともありましたねぇ。いやはや、懐かしい」


「クズ自慢はドン引きです。守護者様はこの町にとって唯一無二の存在です。女性関係は計画的にお願いします。一人、女性ではありませんが」


 ……この二人、助ける気ないわ。むしろ、状況を楽しんでいる。

 あの門番らしき二人は壁際まで下がっているぞ。でも、始めて俺を見たにしては少しリアクションが小さいような。肝っ玉が太いのかな。

 さてと、この状況どうしてくれようか。ここで大事なことは……話を逸らすことだな!


『ところで、冥府の王の軍隊はどこら辺まで迫ってきているの?』


「その情報は黒八咫さんに届けてもらったはずですが? そんなことより、この後お暇ですか」


 そんなことじゃないよね!? 防衛都市どころか国の一大事ですよ! 優先順位間違っていませんかっ!


「この際、ハッキリさせるべきですね。畑さんはこの三人で誰を選ぶのですか」


 キコユさん、身体が大人になってから性格変わっていません? 以前はもっと、お淑やかで引っ込み思案だったような気がするのですが。


「それは面白い提案じゃのう。我は畑なんぞに興味はないが。まあ、あれじゃ、お主がどうしても我と共にいたいと申すのであれば、考えんでもない」


 クョエコテクまでやる気になるとは。俺が眠っている間に一体何があったんだ。

 みんな冷静になって、俺は畑だよ? ラブコメ展開に相応しいキャラじゃないでしょ。


「守護者様が他の方を選んでも怨みはしません。ですが、私を選んで下さったら、一生尽くします」


 再び抱き付かれて懇願されてしまった。

 むむむむむっ。畑になってなんでこんなことで悩まないといけないんだ。人間時代にはホモの集団に追われたり、女子とその彼氏に馬鹿にされたり、デートすっぽかされたりした思い出しかないというのに!

 生身の時に、こういうイベント欲しかった! 今、切実にそう思うよ。


「さあ」「さあ」「さあ」


 三人に取り囲まれて、逃げ場を失ってしまった。俺が夢に見ていたハーレム展開の筈なのに、ちっとも嬉しくないぞ。

 みんな正気に戻れ、畑だぞ! 土の腕だぞ! 無機物だぞ!

 追い詰められたその瞬間、俺の脳裏に天才的ひらめきが生まれた!

 土の腕を大量に地面から伸ばし、急いでウツガを収穫すると、この場にいる全員の口に問答無用で放り込んだ。

 ――全員が白目をむいて、卒倒しかけたので土の腕で体を支えて、そっと地面に寝かせておく。

 ミッションコンプリート!


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