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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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俺は畑で無双する4

 本気で駆けるなんて珍しい。あの子たちは本気を出すと跳躍力が半端ないので、一歩で十メートル近くを低空で跳ねている。

 何か伝えたいことでもあるのか。

 土の腕を伸ばして手を広げると、その上に二匹がほぼ同時に着地した。

 ウサリオンが少し速く到着したのだけど、ウサッピーの方を向いて鼻を鳴らしている。どうやら自分の方が早かったことを自慢しているようだ。

 ウサッピーが悔しそうにその場で跳ねている。兄妹なのだから仲良くしなさい。

 二匹を畑の上まで運ぶと、キコユの元に駆けていく。


「あら、どうしたの」


「お主たちは女騎士と一緒におったのではないのかえ?」


 クョエコテクの言う通り、二匹と両親は第八王女ハヤチさんと一緒に殺意の森付近の様子を調べに行っていた筈だ。

 あの森は最近魔物が暴れていて被害が出ているとの話だったので、ハヤチさんが暴走しないようにウサッターたちを護衛に付けたんだった。


「どうしたの。背負っている鞄に何か入っているのね」


 そういやウサリオンが鞄を背負っているな。ちょっとした荷物や手紙を運ぶときに使う鞄を使っているということは、そういうことなのだろう。

 キコユが中から丸めた書状のようなものを取り出し、俺の体の一部である土の腕の前で広げてくれた。

 ええと、何々……左腕将軍がダンジョンの力を得て防衛都市に進軍してきている?

 ダンジョン内で暴れていることはキコユから聞いていたけど、この和平交渉の真っ只中に何やってんだ。まさか、今回の一件も実は罠で魔王たちの手の平で踊らされている……いや、違うか。魔王は他国を襲う理由が存在しない。

 だけど――キコユ聞こえているよね。心の声で返事してくれ。


『はい、聞こえています』


 この紙を魔王に渡してくれ。そして、魔王の心を読めるなら読んで欲しい。無理なら感情の動きだけを探るだけでもいいから。


『わかりました、やってみます』


 以前の彼女なら能力が高くなかったので危険性は高いが、大人になって能力が急激に上昇した今なら可能な筈だ。

 もし、これがバレて危険な目に遭ったら、俺が全力で守る。


「これをお読みください」


 キコユが紙を手渡すと、食事の手を止め受け取った。


「ん、なんだこれ。ちょっくら拝見させてもらうぜ。えっと……ほぅ」


 お茶らけた表情をして文章に目を通していた魔王だったが、読み進めていくとその表情が真剣味を帯びていく。


「おい、右腕将軍。これ見て見ろや、ふざけたことが書いてあるぞ」


「では失礼しまして……ほほう、とうとうやらかしましたか」


 見た感じだと、左腕将軍が勝手に暴走したことに対して、二人が苦笑いを浮かべているようだが。


『畑さん。二人とも表面上は笑っていますが、内心では左腕将軍に対して怒りを覚えているようです』


 そうか、ありがとう。もう心を探らないでいいよ、バレたら怒られそうだからね。魔王たちの策略じゃないとわかったのならそれでいい。

 じゃあ、ここからは筆談で俺が直接話し合うか。


『ってことらしいんだけど、これって魔王の指示?』


「んなわけねえだろ。左腕将軍が勝手にやったこった。前々から裏切る気満々だったのは知っていたが、ダンジョンの力を手に入れて調子乗りやがったな」


「姑息なことをするのが趣味のような骨ですから」


「左腕将軍は陰険で自信家じゃから、我も苦手にしておった」


 上司と同僚からの評判は散々だな。クョエコテクなんて嫌悪感を露わにしているし。

 魔王の命令でないとわかれば、左腕将軍を倒しても何の問題もないってことだよな。


『じゃあ、俺たちが左腕将軍を倒しても問題ない?』


「おう、当たり前だ。何ならこっちからも援軍出すぜ」


「魔王様。それは防衛都市側に挟撃の意思があると取られかねません。相手が魔王軍を裏切ったと知らしめるために、幹部の一人を向かわせるのはどうでしょうか。援軍も要請があれば向かわせる意思があるとの書状を持たせて」


「その任務、我に任せてもらえないでしょうか」


 魔王と右腕将軍の前にクョエコテクが跪き、強い意志を感じる瞳を向けている。

 そういや魔王軍の幹部だったな。四肢将軍の一人だということを、あの農作業スタイルを見ていると忘れそうだ。


「元よりそのつもりだ。お前が適任だからな、頼んだぞ」


「はっ! お任せください」


 こういうシーンアニメとか映画で見たことがある。いやー、異世界っぽいなぁ。


「んじゃ、ささっと書いちまうから、ちょっと待ってくれや」


 右腕将軍が懐から紙と万年筆を出して渡しているが、そんな物を常に内ポケットに収納しているのだろうか。それにしては紙に皺もないな。

 もしかして、魔法の一種で異空間と繋がっている仕様とかなのか。

 あっという間に書き上げた書状を渡してきたので、ウサリオンに運送を頼もうかとも思ったが、黒八咫の方が断然早いことに気づき、そっちに任すことにした。

 黒八咫は背負い袋だと邪魔になるので、首から下げるタイプの鞄を取りつけて、そこに書状を入れておく。


「クワックワー」


 一鳴きして羽ばたいた黒八咫は空に舞い上がると、もう見えなくなっている。

 あれなら防衛都市まで数時間で着きそうだ。

 俺たちは食事会を早々に切り上げ、魔王たちにお土産の野菜と果物を渡すと、挨拶もそこそこにその場を立ち去った。

 早く防衛都市に戻って対策を練らないといけない。


『ところで、冥府の王ってどんなの?』


 走りながら農作業を続けているクョエコテクに質問をする。

 地面に浮かび上がった文字を見て、考え込むような素振りをしているな。


「そうじゃのう。腕が四本生えて尻尾がある骸骨で間違いない。ただ、膨大な魔力と姑息な手段を得意としておって、諜報活動や裏工作を得意としておるらしい」


「面倒臭い相手みたいですね」


 骨で陰険なんて救いようがない魔物だな。でも、無駄に能天気で明るい骸骨よりかは、らしくていいのか?


「我は死体を操る術を得ておるから、何度か配下にと勧誘されたのじゃが、不遜な態度と自意識過剰が鼻についてのう。丁重に断らさせてもろうた」


 そうか。ネクロマンサーっぽいことがクョエコテクはできたんだった。骸骨の部下として似合いそうだ。

 骨だったら吸収して良質な栄養にならないかな。

 そんなことを考えながら疾走していると、進行方向に白っぽいのが地面から次々と湧いている。

 あれって骸骨集団か。この露骨なタイミングで現れた骨の群れ。つまり、冥府の王とやらの配下かな。

 避けようともせずに俺の前に立ち塞がっているということは、敵ってことで間違いないだろう。一応、クョエコテクに確認もしておこうか。


『クョエコテク、前方に骨の群れがいるけど、野良魔物とかそっちの配下ってことはないよね?』


 クョエコテクが眉根を寄せて文字を確認した後に、畑の前方に移動して遠くを睨みつけている。


「うむ、あれは冥府の王配下の者じゃろうて。魔力の質がよく似ておる」


 彼女がそう言うのなら、間違いないのだろう。実際、骸骨たちは武器を手に構えてやる気満々のようだし。

 でもなぁ、骨ごときが俺の前に立ち塞がってどうする気だ?

 百×百メートルに厚さ十メートル。五メートル以上の長さがある土の脚が二十本生えている、この畑様の前に立ち塞がるとは笑止千万! 腹はないけど片腹痛いわっ!


 必殺、畑暴走撃!


 説明しよう、畑暴走撃とは質量に任せてただ走り抜けるだけの技だ!

 足下から骨の砕ける音が伝わってくる。この感覚……寒い日に霜柱を踏み潰していた幼少期を思い出させるなぁ。

 こんな巨体をカルシウムしか売りのない骨が防げるわけがないだろうに。

 跳ね飛ばされる際に手にした錆びた剣やメイスを叩き込む者もいるけど、いや、俺、畑だし、痛覚とかないし、ダメージってなんですかってレベルだから。

 そもそも、痛覚があったら鍬で体を耕すたびに激痛で死ぬわ。ドMなら最高なんだろうけど。


 大半の骸骨を蹂躙すると、なんと残りの骸骨たちが密集して……ビッグ骸骨に変貌した。

 もうちょっと上手に接合すればいいのに、適当に骨をくっつけて人の形にしていました感がある。雑な仕事だ。

 一応、額に角のようなものを取り付けているが、全長十メートルぐらいの骨だな。

 なるほど、俺の突進を止めるには巨大化するしかないと考えた訳だ。うんうん、悪くないと思うよ。

 まあ――はい、ドーン!


 俺が正面から衝突すると骨が砕け散り、辺りに飛び散った。

 いとも簡単に砕けた巨大な骨がもったいないので、足代わりの腕を十本だけ上部に移動して空中の骨をキャッチ&吸収しておく。

 カルシウム美味しゅうございます。安心してくれ、君の体は栄養となって我が野菜の糧になってくれ……今度は美味しい野菜に生まれ変わって、みんなに喜ばれるといいな。

 やるべきことは終了したので、今度こそ寄り道もせずに防衛都市に向かおう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 姑息の意味を本来の意味と違って使っている人は、令和3年度調査で73.9%にもなるそうです。 姑息の本来の意味は「一時凌ぎ、その場だけの間に合わせ」です。 素直に「卑怯」という表現を使うか…
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