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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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俺は畑で無双する2

 魔王国の空は薄暗く、日中は陽が殆ど射さない。

 そりゃ、作物が育たない不毛の地にもなるか。

 魔王の居城に向けて走っている最中だが、一度も晴れた空を見たことがない。平地にちょろちょろと生えている雑草もどす黒く「毒持ってますよ!」とアピールしてくるような色合いだ。

 ただ、それだけではなく、時折、新鮮な青々とした葉が生えている一帯もあるのだがあれは……うちの子たちだな。

 自分の畑で育てている野菜には栄養をたっぷり送り込むことで、従来の野菜よりも強靭で干ばつに強い品種へと改良が施されている。

 なので、この国の荒れ地でも元気に育つそうで、うちの畑から嫁いでいった野菜たちが大地に根を張り、元気に育ち、国民の胃袋を満たしているそうだ。


 まあ可愛い子供たちは鍛え上げられているからね、ちょっとの水と養分でも力強く生き抜いてくれるさ。ただ、土の栄養が少ないので俺の畑で作るより味は落ちるけど。

 そんなうちの野菜が普及したことで食料不足が解決して、もう他国を襲う必要がなくなり魔王国は侵略行為を止めた。

 そして知らないうちに俺の功績となっていて、信じられないぐらい持ち上げられ、英雄扱いされているのが現状だったりする。

 よくわからないけど、魔王国では英雄なのか……畑の俺が。


 だから、この巨体で爆走していても、遠くから俺を見つめ拝む魔物が結構いたりするんだよな。う、うーん、とってもむず痒い。

 自分でやったことなら、もう少し素直に現状を受け入れられるのだけど、頑張ったのはクョエコテクとその部下と、うちの子供(野菜)たちだからね。


「そんなことはありませんよ、畑さん。心を込めて野菜を育て干ばつにも負けない品種にしたのは、畑さんの功績です。それは間違いありません」


 農作業に励んでいたキコユが手を休めて、俺を見下ろしている。

 心の声を聞かれていたのか。頬を膨らませて少し怒っているようだ。

 ありがとう、キコユ。でもなぁ、この野菜たちも自分の能力を試す為に、栄養を大量に送ったら勝手に強い子に育っただけの話だし、俺の手柄かと言われると……正直、首を傾げてしまう。首ないけど。


「何か下らぬことで悩んでおるようじゃのう。この国が救われたのは間違いなく、お主のおかげであろう。謙遜は程々にせんと、嫌味になりかねんぞ」


 話に割り込んできたのは、いつの間にか左脚将軍に大出世したクョエコテクさんじゃないですか。


「今、足元から嫌味な波動を感じたのは、気のせいかえ?」


 あ、ジト目で睨まれた。感情が表に溢れてしまっていたようだ、気を付けよう。

 クョエコテクは最近農作業用の服装をしているが、以前は黒のワンピースを着ていた。その時はこうやって畑の上にいると、下からのアングルがなかなか……。


「畑さん、今何か仰いましたか?」


 地面を見つめて微笑むその顔が怖いです、キコユさん。

 あっ、そういえば、キコユ。俺が眠っている間に出会った、もう一人の異世界転生した日本人について少し詳しく教えて欲しい。

 初めて教えられた時は信じられなかったのだが、なんとこの異世界に俺以外で日本から転生させられた人がいるのだ。

 それも驚いたことに……自動販売機らしい。

 自販機ですよ、奥さん! 異世界転生は小説でも漫画でもよくある設定の一つだけど、自販機に転生って、あり得んだろ――と、畑に転生した俺が言ってみる。


「ええとですね、ダンジョンで出会ったのは四角い鉄の箱に宿った方でした。確かに自動販売機だと仰っていましたよ。生前に自動販売機で購入した品ならば、自在に出すことができて、様々な姿に化けられるそうです」


 俺も人のことは言えないけど、奇妙な転生しているよな、彼も。

 ふと思ったのだが自動販売機と畑、どっちに転生した方がマシなのかね。

 って、この二つ比べようがないな。そもそもの基準がおかしい。これって答えが出ないやつだ、違うこと考えよう。


 キコユと黒八咫とボタンがお世話になったそうなので、こっちのいざこざが片付いたら、向こうの手伝いをしようと思っている。何かとややこしいことに巻き込まれているそうだから。

 まさか、左腕将軍がダンジョンで暗躍しているなんてな。このことも魔王との会合で触れておこう。もしそれが、魔王の命令なら取り消してもらえるように交渉するつもりだ。

 拒否されたら、和平交渉も取り消して食料の提供も打ち止めだ。各地に散らばったうちの子供たちは回収させてもらう。

 魔王の性格なら左腕将軍を止めてくれると信じているが……国のトップとしての責務もあるだろう。その場合は敵対することになるのか。


「私はどのような結果になっても、畑さんに付いてきますから」


 そう言って微笑むキコユは信頼のおける仲間なので心配もしていなかった。だけど、そうなると魔王軍の新たな左足将軍となったクョエコテクは立場上、無理だよな。

 と、俺の考えを土の上に書きこんでいく。文字を追いながら何度も頷いていたクョエコテクが最後まで読みきると、大きく息を吐いた。


「ふむ、何を勘違いしているのかは知らぬが、我はお主につくぞ。魔王様はあくまで上司でしかない。この国を、我が村を救ったのはお主じゃ。勘違いするではないぞ、お主を好いておるとかそういうわけではなく、我は恩を返したいだけじゃ」


 ぷいっと顔を背け言い放つ姿は理想的なツンデレだ。と茶化したいところだが、その気持ちを素直に受け取らせてもらうよ。

 こっちの味方になってくれるなら頼もしい限りだ、クョエコテクの死体を操る能力もかなり強力だし、俺との相性も悪くない。


「私との相性も悪くないですよね」


 はい、そうですね。独り言に絡んでくるのはご遠慮願いたいのだが、キコユに心の声を聞かせないように考えるのって難しいんだよなぁ。


「我も畑の声が直接聞こえるといいんじゃがのう」


 クョエコテクが、俺とキコユとの会話を羨ましそうに見つめている。一人だけ蚊帳の外なので寂しいのだろうか。

 みんなに声が届けられたら楽だけど、心の声が全部漏れるとなると面倒なことになりそうだ。ハイテンションな時とか結構あるからね……。

 お婆さんと一緒だった頃は人様に聞かせられないようなことを、散々口にしていた気がする。


「クワックワッカー」


「ブフゥゥー」


 っと、黒八咫とボタンが鳴いている。両方進路方向に視線を向けているということは、あっ、あれが魔王の居城か。

 遥か前方に天を突き刺すように、鋭利な先端を伸ばした建物が見える。

 全体が黒に近い灰色で西洋風の城の屋根を無駄に尖らしたデザインだ。如何にも魔王の居城といった雰囲気。

 うむ、わかっているじゃないか、魔王。魔物の本拠地はこうじゃないと。

 これでピンクメインのアダルトなホテルや夢の国みたいな外観だったら、どうしようかと思ったよ。

 居城の前は何もない荒れ地が広がっている。話し合いの場はあそこら辺かな。

 普通城の近くには城下町が広がっているものだけど、魔物の国はそうじゃないのか。城だけがポツンと建っている。


 遠くの方に人影が見えてきた。二人いるな……如何にもオーダーメイドですと言わんばかりの高級そうな服とマントをはためかしているのは魔王か。トレードマークの一本角が額で反りかえっているから間違いない。

 相変わらずイケメンじゃのぅ。力もあって顔もいい、そしてカリスマもある。くっ、普通なら完敗宣言をする相手だが、残念だったな! 貴様には美味しい野菜は作れまい! だから、悔しくなんてないんだからねっ!

 心の中で一方的な勝利宣言をすると、隣に立つ人物に視線を移した。

 執事っぽい服装をしている筋肉質なダンディー。背中に骨格だけの羽が見えるから、右腕将軍だよな。一度、魔王と一緒に会ったことがある。

 右腕将軍って見た目は五十代ぐらいのダンディー紳士で、俺も人間のまま年を取ったら、あんな風になっていたのだろうな……すみません、誇張しすぎました。どう足掻いてもあの仕上がりにはなりません。

 魔王側はトップとその右腕。こっちは畑と動物と美女だ。


「美女だなんて、褒め過ぎですよ」


「キコユ、今、なんと言ったのか教えるのじゃ」


 頬に手を当てて照れているキコユにクョエコテクが詰め寄っている。

 うん、心の声がもろに聞こえていることを、いい加減学ぼうな、俺。

 魔王たちの目前で急停止したのだが、二人とも驚く素振りも見せない。ちっ、脅かし甲斐のない奴らだ。

 全ての腕をひっこめて大地の上に体を置くと、魔王と右腕将軍が浮かんで俺の体の上に着地した。


「体の上から失礼するぞ」


 俺と会話するときは畑の上に移動してもらうことにしているので、気にしないでいいよ。

 さーて、ここからが本番だ。何もなく和平交渉が終わればいいのだけど。


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