俺は畑で無双する1
一週間ほど畑視点で話が進みます。暫くノリが変です
苦手な方や自販機のみの活躍が見たい方は、一週間後から読んでいただけると丁度いいかと
オッス、オラ、畑農幸! みんなからは畑って呼ばれてるよ!
趣味は掘ったり掘られたりすることかな……おっと、腐属性の淑女の皆様、勘違いしないでくれよ。そっちの意味じゃないからな。
今のは言い方が悪かった、もう一度チャンスをください。
つまり、自分の体を開発したり、指でほじくられたり、挿入れられたり、抜かれたり、道具を使って掘ったり掘られたりするのが日常なだけさ!
更に誤解が深まったところで、真面目に自己紹介をしようか。
日本で平凡な学生だった俺はふと気づくと異世界で転生していた。
これだけなら「えー、定番の異世界転生でしょー。マンネリー、ワンパターン」で終わる話だったのだが、何と俺が転生したのは『畑』だったんだ。
畑ってのは、農作物を育てて収穫する、あの畑で間違いない。
「ん、この人、頭に害虫でも住んでいるのかな?」
なんて思ったそこのキミ。わかる、わかるよ。俺も鍬で耕されている自分自身に当初は戸惑ったもんだ。まあ、今はもう慣れたけどな! 適応能力って凄いよね!
じゃあ、ここで俺の体がどうなっているのか説明をしようじゃないか。
まず、俺の身体は百×百メートルぐらいの敷地面積で深さは十メートル。これが俺の体の全てだ。全て土でできているんだぜ、砂利もあるけど。
土だから目は何処にあるのかと思わなかったかい? 思わなかった? そこは思ったというのが礼儀だ。こういう空気を読む能力が社会に出た時に活かされるから、覚えておくように。俺は日本で学生だったから社会人経験ないけど。
でだ、視覚は自分の体の何処にでも移動させることができるので、死角はない! 視覚に死角はない!
……さてと、畑として出来ることは視覚移動だけじゃない。他にも自分の感情の変化で、土質を変えることが可能なんだ。
怒れば土が熱くなり、悲しめば土が濡れ、冷静になれば土は冷たくなる。楽しい気持ちになれば土が柔らかくなり、真面目に考え込めば土は固くなる。
他に何かできることあったかな……ええと、土の中に閉じ込めたモノの養分を吸い取ることもできるよ。腐敗させるだけでも可だ。
あっ、そうそう、身体から合計二十本の土の腕も出せる。昔は一本しか土の腕を出せなかったけど、なんだかんだあって二十もの腕を操れるようになった。
今は自在に二十の腕を操れるので、畑を土の腕で支えて移動することもできる。左右から十本ずつデカい土の腕を出して、疾走する姿は皆さんにも見せてあげたい。
もう、自分について語ることはないかな……これもそうか。畑の身体は自分の意思で結構自由に形を変えることができるってのも、追加しておこう。もう、こんなぐらいか。
じゃあ、ここからはホットなメンバーの紹介だぜ!
先ずは俺の愛すべき友……いや、家族からだ!
エントリーナンバー1、艶やかな黒い羽に三つの目と三つの脚。そんじょそこらのカラスと一緒にされちゃ困るぜ。天空の覇者、黒八咫!
エントリーナンバー2、純白の毛並を纏いし一角の弾丸。頭から生えた角がキュートな猪突猛進野郎、ボタン!
エントリーナンバー3、ウサギ? おいおい、我が一族をそんなものと一緒にしてもらったら困るぜ。気軽に触れたら怪我しちまうぜ、そこんとこよろしく。鋭い耳に可愛い姿、ウサッター一家! 父、ウサッター。母、ウッサリーナ。長男、ウサリオン。長女ウサッピー。
以上が俺の家族だ。全員、人間に負けないぐらい頭がいいだけじゃなく、その身体能力は人を遥かに凌ぐ。同種の仲間とも比べ物にならないぐらい強く育っている。
初めて会った時より明らかに体が大きく筋肉が付いているのだけど、なんでだろうな。うちの野菜を食べているだけなのに。
家族は動物だけと聞くと寂しい奴だと思われるかもしれないが、彼らは最高の家族だ。新婚夫婦なんかよりも熱々で、熟年夫婦よりも強い絆で結ばれている。
おっと、それだけじゃない。親しい仲間だってもちろんいるぜ?
ここからは動物以外の仲間について話すとしようか。あ、ちょっと待った。まだ一番大切な人を紹介していない。
その人は――オータミお婆さん。俺が異世界で初めて会った大切な人だ。
優しく朗らかで誰よりも……寂しがり屋だった。あることが原因で亡くなってしまったが、そのお墓は今でも俺の体の上に乗っている。
一生忘れない、とても、とても大切な人だ。
おーっと、らしくないしんみりとした空気になっちまったな。
ここからはテンションアゲアゲで行くぜっ!
フレンドナンバー1、巨大少女? いえ、今はビューティフルホワイトレディー。最近急成長した雪精人。元は薄幸の美少女、今は誰もが見惚れる美女。彼女は友ではなく家族と呼んでもいい間柄だけどね。通訳でいつもおせわになっております、キコユ!
フレンドナンバー2、何処からどう見ても絶世の美女以外の何者でもない、ジェシカ坊……さん。目と目が合った瞬間好きになりかけたのは、オラ悪くねえだ。一目で相手を悩殺する防衛都市の美しき領主、ジェシカ!
フレンドナンバー3、見た目は渋めの老執事、中身は切れ者。ジェシカさんにはツッコミきつめ。昔はかなりモテたんだろうなというのが言動で見え隠れしている、ステック!
フレンドナンバー4、そろそろ、説明飽きてきたし、みんなも読み飛ばしたいだろうけど、もうちょっと我慢だ。無表情、毒舌、と見せかけて実は動物好きの可愛い一面もあるメイド。動物を溺愛する姿は変質者レベル、モウダー!
フレンドナンバー5、部隊を率いる女騎士だと思ったら、実はお姫様。一見優秀そうな見た目に騙されるな。意外と残念な人だぞ、ハヤチ!
フレンドナンバー6、高性能案山子との呼び声が高い、ツンデレ、吸血鬼、ネクロマンサー、左脚将軍。属性が多すぎると冷めるよね、あと名前が覚えにくい、クョエコテク!
その他にも鍛冶屋や町の住民、クョエコテクの仲間がいたりするけど省略。
ここ試験に出るから、ちゃんと覚えておくように。あー、別に覚えなくても雰囲気で大丈夫かな。
さて、ここからが本筋だ。
そんな家族と仲間に支えられ、俺は畑として平穏で退屈な日々を過ごしていた。
たまにやってくる人に野菜を提供したり、畑に腕を生やして山を下り平原を爆走して、防衛都市の人々を驚かせて、野菜で人々を洗脳……魅了したり、魔王軍を撃退もやったりしたけど。
何処にでもいる普通の畑だった俺は、魔王軍の元左脚将軍との壮絶な一騎打ちの結果、意識が途切れ自我を暫く失っていた時期があってね。
闇の中を漂うだけの日々が過ぎ、孤独でどうにかなりそうだったある日、俺の世界に再び光が射した。
闇が晴れた光の世界には涙目の家族と仲間がいて、俺は自分が完全復活をしたことを理解したんだ。
意識を失っている間に状況は激変していた。意識がなかった期間も畑として農作物を育てていたらしく、俺の野菜の苗や種が魔王国の全域に広がり、飢えに苦しんでいた魔王国の食料事情が一変したらしい。
それをやった元五指将軍の一人だったクョエコテクは、昇進して左脚将軍に任命されていた。何というスピード出世。
もう帝国と魔王軍は争っていないという話だったが、正式な文書を交わしていないので代表者として俺が魔王の居城に招待されることになった。
というのが、前回までのお話だ。
「畑さん、説明口調でずっと今までのことを話していましたけど、一体、どのような意味が?」
俺の上で農作業中のキコユが地面を見下ろしながら、疑問を口にしている。
しかし、改めて見ると、本当に成長したな。百人中、九十九人が振り返る程の美女に変貌している。幼女時代から可愛かったから納得の成長具合だけど。
「ありがとうございます。畑さんにそう言われると、照れますね」
頬を赤らめて照れる仕草に思わず見惚れそうになる。っと、心の声はキコユに筒抜けだったな、あんまり強く思うのは程々にしないと。
「何をいちゃついておるのじゃ。我には何か言うことはないのかえ?」
口を挟んできたのは、地味な色合いの長袖長ズボンといった格好のクョエコテクか。
昔は黒のワンピースに長く黒い前髪で顔も碌に見えなかったのだが、その髪は後ろで一括りにしている。手にした農具と相まって非常に健康的に見える。
畑から一本腕を伸ばして地面に文字を書きこむ。
『健康的になったね』
「ふむ、褒め言葉としてはあれじゃが、まあよいであろう。あれからずっと農作業に励んでおるからのぅ」
左脚将軍になったというのに毎日うちの畑の手伝いをしてくれている。
普通なら上司である魔王に怒られそうなものだが、彼女が出世した理由が魔王国の飢餓を無くした功績によるものらしいので、これが彼女の仕事らしい。
「もう少ししたら、ご飯にしましょうか。みんな頑張ってね」
「ブオフゥゥゥ」
「クワッカー」
彼女たちと一緒に農作業をしている黒八咫とボタンが元気よく返事をした。
「しかし、あれじゃのう。移動がかなり上手くなっておるな。揺れを殆ど感じぬぞ」
クョエコテクの感心する声に、顔があるならドヤ顔を返したかった。
実は今、魔王の居城に向けて進行中なのだ。つまり、腕を出して畑を持ち上げて地上を走っている最中だということ。
この巨体なので魔物を踏み潰さないように細心の注意を払いながら、魔王軍の領地を疾走している。
まあ、俺が気を遣わなくてもこの巨体を見ただけで、多くの魔物が勝手に逃げ出してくれるのだけど。
この調子なら、あと二日もかからずに到着するかな。
正確には会合場所は居城の側面に広がる平原らしいけど。この体で城に入ったら大惨事間違いなしだから、しょうがない。
魔王城かー、楽しみだな。魔王は意外といい奴で、何度か言葉を交わしている内に仲良くなって、今じゃ親友だ。
他国を襲っていたのも自分の国の国民を飢えさせないための行いで、放置していたら魔物たちは、本能の赴くまま残虐性を剥き出しにして他国を襲い暴れていたらしい。
統率していなければ、各国はもっと悲惨な状況になっていたと魔王軍の右腕将軍が語っていた。
実際、話し合って思ったのは魔王に話が通じたし、悪い奴には思えなかった。「侵略戦争を実行しているのだ、今更綺麗事を並べても言い訳に過ぎない」と自分の罪を魔王は認めていたのが印象的だったな。
あの魔王相手なら問題なくことが運ぶと思うけど、和平交渉で他の魔物がごねたら、問答無用でうちの野菜を食わせるか。




