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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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最終決戦へ

 小高い丘の上に陣取って双眼鏡になり眼下を眺めている。そんな俺を、覗き込んでいるのはラッミスだ。


「魔物たちも休憩しているみたいだよ」


 現在、冥府の王軍は遮蔽物がない平地で休息をとっているようだ。進路方向には暫く平原が続くが、途中から見事な色彩の農園が広がっている。

 緑の絨毯が大地を埋め尽くしているのだが赤や黄の一帯もあり、配置にもこだわっているのだろうか、緑とのコントラストがただただ美しい。思わず録画してしまうぐらいに。


「この農園を守るために打って出る判断をしたのなら、わかる気がするね」


「いらっしゃいませ」


 そうだね、ラッミス。俺もこの光景を見て意見がガラッと変わったよ。ここまでの農園を作り上げるのには、相当な苦労と時間を要したことだろう。

 部外者の俺だって守ってやりたいと思ってしまったのだ、地元の人間だったら命懸けで守りたくもなる。

 見事な農園の先には防衛都市の外壁が辛うじて見える。双眼鏡でギリギリ見える距離なので、裸眼では見えないよな。

 立派な壁だな。高さも清流の湖階層より上だし、厚さも相当あるな。打って出るのも、いざとなったら町中に逃げ込めるという安心感があるからなのか。

 巨大な門の前に兵士がずらっと並んでいるが、その数は百程度……正直、あの大群を相手にするには戦力不足だとしか思えない。

 だけど、兵士たちの顔には死地に挑む悲壮な顔……をしてないぞ。緊張はしているようだが、何処か余裕が感じられる。


「んー、ボタンとかキコユちゃんとかいないね。町の中にいるのかな」


 そういや、見かけないな。畑の姿も見当たらないし。そういや、どういった見た目をしているのか聞いてないぞ。畑なのだろうけど、あれか地面に同化しているのか?

 あれっ? どうやって、移動するんだ? 畑に転生したというとんでもない設定に驚きすぎて、他のことが頭から抜けていた。

 どうやって、畑なのに国を救ったんだ? もしかして、畑の土を固めてゴーレムのように人型になっているのだろうか。それなら、納得がいく。実はあの兵士の中に紛れ込んでいるのかもしれないな。


「あっ、冥府の王軍が動き出したよ!」


 その声に意識が現実に戻される。冥府の王は相変わらず合体階層主の上に乗っかっているが、自分たちは動かずにまずは魔物たちを進ませている。

 合体階層主で一気に蹴散らして、そこを魔物たちに襲わせた方が早いと思うのだが、冥府の王の今までの性格からして、まずは様子見とか好きそうだもんな。

 魔物の群れの隊列は上から見ると先端が伸びた長方形だ。単純明快な陣形なのだが、防衛側の人数も少ないし、数で押し切るには間違いじゃないのかもしれない。

 防衛都市へと繋がる幅広な道を真っ直ぐに突き進む。速度は駆け足程度だが、一万近い数が一気に動くとその迫力は壮観の一言。

 長く伸びた長方形の冥府の王軍はご丁寧に整備された道の上を進んでいる。いや、街道だからこそ罠を仕掛けられないと見込んでの行動かもしれない。

 地肌が剥き出しで平坦な道。罠を仕込んだとしても丸見えだ。落とし穴ぐらいはできるかもしれないけど、そんなもの先頭の魔物たちが少数落ちておしまいだ。


「そろそろ、うちらも動かないのでいいのかな?」


 車を使えばこの程度の距離なら数分で到達する。あまり近づき過ぎて、俺たちの存在がバレるのもよくない。合体階層主の周辺に数百体の魔物もまだ控えている、まだ辛抱するべきだ。


「ああ、もうすぐ農園に到着しちゃうよ! 畑が荒らされちゃう!」


 ラッミスが騒いでいるので仲間たちも近寄ってきた。魔物の動きは肉眼でも確認できるので、みんな目を細めて遠方を睨みつけている。


「防衛側はどうする気だ、兵を配置してねえぞ。あれじゃ、みすみす農地を荒らされるのを待つだけだぜ」


 ヒュールミは荒い口調で吐き捨てた。その苛立ちはみんな同じだ、仲間たちは忌々しげに遠方を睨みつけている。

 本当に動かなくていいのか? このままだと農園が蹂躙されるだけだぞ……。


「えっ、ええええっ、あれっ!?」


 突然、ラッミスが奇声を上げたので全員の視線が集中する。


「先頭にいた魔物たちが急に消えたよ!」


 仲間を見ていたので魔物の群れから目を離していたけど、いきなり敵が消えるなんてことがある訳がない。

 そう思い、ラッミスと同じ方向へ視線を向けると――平原の道の途中に大穴が開いていた。かなり深く掘っているようで、ここから底が見えない。

 長さは二、三百メートルぐらいはありそうだ。道幅が十メートル前後だとしても相当の労力を必要とするぞ。

 落とし穴……えっ、あんな大掛かりな穴を街道に仕掛けたというのか!?

 こんな数日であの規模の工事となると、何百、いや千単位でも無理があるように思える。だが、実際にやってのけているということは、優秀な土木関係の人員がいるのか土系の魔法使いや、加護持ちを大量に保有しているのかもしれない。

 防衛都市の自信の一端が見えたな。


 操られているとはいえ、大穴に自ら落ちるような真似を魔物はせずに、穴の手前で全軍が足止めをくらっている。

 自ら穴に落ちる程間抜けじゃないよな。この罠で百体ぐらいは巻きこめたかもしれないが、これだけ大掛かりな落とし穴を仕込んだら、もう罠は存在しないだろう。

 この後をどうする気なんだ?


「あれっ? 穴が消えてない……?」


 えっ、ラッミス何を言っているんだい。あれだけの大穴が急に塞がるわけがない――穴ないな。

 えええええっ! あの大穴が一瞬にして消えたぞ。

 眺めているだけの俺でも、無い顎が落ちそうになるぐらい驚愕させられたが、現場にいる魔物たちの動揺は尋常じゃないだろう。

 あの魔物たちはダンジョンで操られていた時よりも自我があるのか、消えた穴の前で戸惑っているように見える。


「ちょいと、ラッミス変わってもらってもよいかのぅ。すまんな。穴の上に幻覚で土を被せておるのか……いや、魔法のような感じはせんのぅ」


 ラッミスと交代して覗き込んでいるシメライお爺さんが、穴のあった場所を観察してそう結論を出した。

 お爺さんがそう言うのなら、幻覚魔法の可能性は低いのか。となると、本当に土を被せたのか、一瞬で。

 敵と同様に混乱している俺たちの中で唯一驚く素振りを見せていないのが、ハヤチだった。魔物が消えた場所を眺めながら、顎をくいっと上げ鼻高々といった感じで、ドヤ顔している。


「あれが守護者様の力です!」


 堂々と言い放たれても、よくわからないです。畑だから土を操れるとでもいうのだろうか。

 まあ、今は魔物たちの動向を観察する方が優先事項だ。

 魔物が一体、恐る恐る穴があった場所に踏み出している。地面の上をゆっくりと歩いているのだが、再び穴が開くこともなく無事渡り切った。

 つまり、幻覚ではなく本当に土があるってことだよな。

 少数で渡るなら大丈夫だと思ったのか、魔物たちは二三体ずつ道を進んで行く。危険地帯を抜けた魔物の数が百近くになったところで、またも戦場に変化があった。

 今度は穴のあった場所の手前で順番待ちをしていた魔物たち消えたのだ。魔物たちがいた道には――大穴が開いている。


「えっ?」


 シメライお爺さんに変わって今度はヒュールミが双眼鏡を覗き込んでいたのだが、不意を突かれた様で可愛い声が漏れた。

 さっき穴があった場所より手前の道で同じぐらいの大きさの穴が開いているのだ。またも百単位で魔物が呑み込まれている。


「なっ!?」


 その穴は大口を開けたまま、まるで生き物のように魔物たちへと進んで行く……穴が自ら動いているのだ。あ、俺は正気だから、故障もしてないから。

 呆気にとられて次々と穴に落ちていく魔物たちだったが、正気に戻ると大穴から懸命になって逃げ惑っている。

 不思議なことに穴が移動した後の地面は元に戻っている。抉られたような長い溝ができる訳じゃなく、穴だけが不自然に地面を走り魔物を落としていく。


「えっ、はっ、へっ」


 どうやらヒュールミの理解を超えてしまったようで、変な声と吐息しか聞こえない。

 異常な事態に冥府の王も腰を上げたようで、合体階層主が始動した。

 あの巨体なら、穴に落ちたとしても足首辺りまでだろう。

 大穴も合体主に気づいたのか、他の魔物を無視して相手の前に移動すると、その場でぐるぐる回りだす。まるで挑発しているかのように。

 合体階層主の上を漂っている冥府の王は骸骨なので表情がわからないが、イラついているように見える。

 その大穴を踏み潰すように合体階層主が前足を振り上げ、一気に踏みつけると――穴がすっと後方に避け。相手をバカにするように合体階層主の周辺をぐるぐる回り始めた。

 今度は穴が通過した場所の地面が抉れたままで、深い溝にぐるっと取り囲まれることになった合体階層主が立往生している。


 これが作戦にあった足止めの合図なのだろうか。

 なら、こっちも行動に移さないといけないなと思った矢先、合体階層主の足下が盛り上がったかと思うと、そこから無数の巨大な土の拳が現れた

 腕の一本が五メートル以上はあるのではないだろうか、それが真下から無防備な腹に無数の拳を叩きつけている。

 距離があるというのにここまで、ドゴドゴドゴ! と激突音が轟いてきているぞ。

 信じられないことに、土の拳の連撃で合体階層主の体が浮き、そのまま吹き飛ばされると仰向けに地面に転がった。

 その光景を目の当たりにした俺も仲間も完全に硬直している。正直な話……訳がわからない。


 今、頭が考えることを拒否しているのがわかる。えっと、今、地面が拳で、ラッシュで――。

 なんとか冷静さを取り戻そうとしていた矢先に、今度は地面が浮き上がっていく。合体階層主がいた地面から土が隆起している。

 それは四角の巨大な土の塊で、たぶん奥行きと幅が百メートル近くあるんじゃないだろうか。高さは十メートルぐらいに見えるけど。

 側面には地層が見えて、まるで土のケーキのようだ。

 まあケーキにあんなにごっつい土の腕が側面から生えてないけどな……。

 四角い土の塊を支えるのは、側面から生えている土の腕。それも右側面に十本、左側面にもう十本、合計二十本もの手が生えている。


「えっ、キモい……」


 あっ、うん。俺も思ったけどヒュールミのように口にはしなかった。

 仲間は大口を開けて呆然とソレを眺めているだけだ。思考回路がショートしているのだろう。

 巨大な四角い地面に無数の腕が生えている。それも大きさが尋常じゃない。なんなんだあれは……。

 合体階層主と畑? が向き合う様は、まるで怪獣映画だ。


「おおっ、守護者殿! 今日も凛々しいお姿をしている!」


 目を輝かせてアレを見つめているハヤチさんの言葉が聞こえてくる。

 ですよねー。この状況から、そうだとは思っていたけどあれが畑か。なんか、自動販売機に転生して悩んでいた自分が馬鹿らしくなってきた。

 って、眺めている場合じゃない。俺たちにはやるべきことがある。


「あたりがでたらもういっぽん」


 最大音量で俺が発声すると、全員がハッとなり我に戻った。

 慌てて車に全員が乗り込むと、宙で呆然と浮かんだままの冥府の王へと向かっていく。

 このままじゃ、畑に美味しいところを全部持っていかれてしまう。決着はこの手でつけないとな!


申し訳ありませんが、11月は本当にやるべきことが多く、忙しくてストーリーを考えている余裕がありません。暫く更新を休ませていただきます。

12月には再開する予定ですが、続きは畑視点からとなりますのでご注意ください。

畑が介入している部分は外伝的な感じで書き終えてから、ハッコンたちメインで最後を締めるのが理想の形だと思っています。

最終章は思う存分、私が自由に楽しむつもりでいますので途中で投げ出したりはしません。その点はご安心ください。


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自動販売機「このままじゃ、畑に美味しいところを全部持っていかれてしまう。決着はこの手でつけないとな!」 なにこれ(歓喜)
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