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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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243/277

親将軍

「ハハノアイハ シュゴイノヨオオオオオッ!」


 愛情の押し付けは子供に嫌われる元だよ。叫ぶ親将軍に、そう言ってやりたかったが、言葉足らずの俺が口にすると違う意味にとられそうだ。

 親将軍の身体から噴き出されていた闇が何本もの太い綱のようになると、突っ込んでいった闇の会長、灼熱の会長、ユミテお婆さんを薙ぎ払おうとする。

 闇の会長は影となり地面に沈んで避け、灼熱の会長が体に纏った炎で闇の綱を殴りつけて燃やし尽くす。

 ユミテお婆さんに至っては、相手の攻撃が届く前に切り刻まれて塵と化している。その際の攻撃はいつも通り全く見えない。何か光った気がするぐらいだ。


 遠距離からは園長先生とシュイが矢を撃ち込んでいるが、全て闇に絡めとられ親将軍には届いていない。ピティーは弓二人組の護衛をしてくれているので、安心して攻撃に専念できているようだ。

 シャーリィさんが鞭を振るうと、風を斬る音が耳に届く前に目標に到達した鞭が、闇の綱に何度も叩きつけられる。

 俺たちは仲間が注意を引きつけている間に相手の背後に回り込むと、全速力で特攻していく。

 守りの心配は無用だから、本気の一撃を叩きつけていいよ!


 十メートルはある距離を、たった二歩で飛ぶように間合いを詰める。黒い闇の綱は仲間に集中していて、こちらに攻撃を加える余裕はない。

 腰を落として上半身を捻り、突進力と怪力が合わさった凶悪な拳を親将軍の背中に突きつける。

 威力、速度、タイミングの全てが完璧だと思えた一撃だったが、その拳は空を切った。

 拳圧で風が吹き荒れ周囲の闇は吹き飛んだのだが、肝心の親将軍の姿がない。


「あれっ、外れた!?」


「あ っ ち」


 拳を突き出したポーズのまま固まっているラッミスの目の前に、ペットボトルを一本浮かばせると勢いよく頭上に向けて弾き飛ばした。

 ペットボトルを目で追うラッミスは、上空に浮かぶ親将軍の姿を捉える

 当たる直前に引っ張られるように空へ退避したのだが、よく見ると飛んでいるのではなく、両肩に闇の紐が巻き付けられている。あれが空に引っ張り上げたのか。


「ヨッテタカッテ イジメルノネッ モウユルシテアゲナイ ジョン タベチャイナサイ」


 親将軍が上空から見下ろしたまま手を振り下ろすと、地面に黒い線が走り複雑な模様を描き始める。これって、あの時の。


「そこから離れるのじゃ!」


 シメライお爺さんが珍しく取り乱した声を上げている。あの焦りようは尋常ではない。

 全員が即座に従い地面を走る闇から離れていく。

 似たような光景を最近見た記憶がある。冥府の王が始まりの階層で見せた魔法陣に酷似している。ということは次の展開は――。

 地面の巨大な魔法陣が濃い黒を立ち昇らせる光景は、漆黒の柱が突如平原に現れたかのようだ。


「これは召喚魔法の一種じゃと思うが……いかんのう、これは」


 眉をひそめているシメライお爺さんの頬を、汗が滑り落ちる。


「お爺さん、それ程までなのですか」


「うむ、これはかなりの魔力、それもかなり異質な魔力じゃ。もしや、異界の魔物か」


 異界の魔物? ここも俺にとっては異世界だけど、更に別の異世界とも繋がれるのか。

 それを利用したら元の世界に戻れたりしないのだろうか……って、そんな状況じゃなかった。

 全員がどう行動していいか判断がつかない状況下で黒い柱は目の前で消滅する。

 さっきまで柱のあった場所に佇んでいるのは異形の化け物だった。


 頭は煮込み過ぎた魚のようでもあり、腐りかけのバッタのようでもある。顔のど真ん中に幾つも目があるが、それ全て赤で瞳が存在せず、本当に目なのかも怪しい。

 体は肥満気味のトカゲで背中に九つのカラスのような漆黒の羽。

 濁った薄汚い紫の皮膚はブクブクと泡立ち、弾けるたびに黄色い粉が霧状に飛び散る。尻からは六体の大蛇が生え蠢いていた。

 空には分厚い雲がかかり、辺りは日が落ちたかのように暗くなっている。


「ひいぅっ、な、な、何あれっ! あれ何っ! ねえ、ハッコンあれ何なの!?」


 異世界に来てから結構な数の魔物を見てきたが、これは異質過ぎる。

 今までも気持ち悪さや若干の恐怖を感じたが、この異形の化け物はそんな次元じゃない。おぞましさなら断トツでナンバーワンだ。

 俺は自動販売機だからまだ動揺が少なくて済んでいるが全員の顔は蒼白で、特にシュイ、シャーリィ、ピティー、ラッミスは全身の震えが止まらないようで、立っているのが精一杯といった感じだ。


「お主らは下がっておれ、ここはワシらの出番じゃな」


「この歳になると怖い物なんてありませんからねぇ」


「私は先輩お二人が未だに怖いですわ」


「ワイもそうやで。二人とも怒るとえげつないもんなぁ」


 ハンターチームの元メンバーである四人は軽口を叩きながら、相手を正面から見据えている。顔色も若干良くなっているようだ。


「燃える展開じゃねえかっ! 邪悪な存在に立ち向かう正義の軍団、かああっ、最高だぜええっ!」


 灼熱の会長は怖気づくという単語とは無縁らしい。全身の炎がいつにもまして激しく燃え盛っている。こういう場面ではありがたい存在だな。

 戦闘に参加しない俺らはひと塊になって戦況を見守るしかない。

 血の気の失せた顔をしたシュイとシャーリィが傍に寄ってきて、俺の体に手を添えている。触れた部分から二人の震えが伝わってきた。

 ラッミスも体が硬直して一歩も踏み出せないでいる。今はみんなの邪魔にならないように〈結界〉を張って安心させないと。


 しかし、まさか恐怖で萎縮して戦線離脱になるとは思いもしなかった。

 彼女たちを落ち着かせるためにリラックスさせる飲み物でも提供しよう。ハーブティーかココアがいいかもしれない。ホットの方がいいよな、うん。

 震え続けている四人に〈念動力〉で温かい缶のハーブティーを渡す。今の状態だと缶を開けるのにも一苦労しそうなので、ちゃんと開けた状態にしている。

 手に温かい缶を押し付けると、ずっと異形の化け物から目を逸らせないでいた彼女たちが手元に視線を落とす。

 そして、怯えた表情のまま飲み口に唇を添えて、一口だけ飲んだ。

 震えが少しだけ治まったか、でも、戦える状況じゃない。今は任すしかないのか。


 四人が戦力外となった状況下だが戦いを続けている仲間に視線を向けた。

 異形の化け物は手が存在しないので、どうやって攻撃を仕掛けてくるのか疑問だったのだが、その攻撃方法は余りにも特殊で思わず我が目を疑ってしまう。自動販売機に目はないけど。

 顔中に張り付いている赤い目が弾丸のように飛び出して、仲間を狙い撃ちしているのだ。あの目から光線らしきものが出るなら、まだ想像の範囲内だったがまさか目玉を弾にして打ち出すのか。

 相手が巨体なので目玉の大きさは人間の頭よりも大きく、速度も相当なもので俺は目で追うのがやっとだった。


 灼熱の会長は飛び込んでくる目玉を鬱陶しそうに、燃え盛る腕で払った瞬間――爆発した。その爆音にラッミスたちの体が大きく縦に揺れる。

 爆炎と爆風が過ぎ去ると、地面が大きく抉られた跡があり、その中心部に灼熱の会長が平然と突っ立っていた……よかった、無事だったのか。


「おー、これやべえな! 衝撃加えると爆発するみてえだから、気を付けろよ! 俺だからよかったけどよおっ!」


 あの口振りからして全身炎の灼熱の会長は、爆発や炎に対して耐性があるのだろう。

 忠告を聞いた闇の会長は影となり地面に潜り込み、相手の自分の場所を悟られないようにしている。

 ユミテお婆さんは見えない飛ぶ斬撃で近づく前に迎撃しているので、爆風で髪がそよぐ程度の影響しか受けていない。

 シメライお爺さんに至っては風を操り、飛んできた目玉を相手に返してダメージを与え、園長先生は発射される前に目玉を射抜き、魔物の顔面辺りで爆発を引き起こしている。

 ……格が違うな。余裕を持って凌いでいるが、決め手にも欠けているというのが現状。目玉を飛ばした後の空洞には再び目がせり出してきて、幾らでも補充が利くようだ。

 自分の目玉の爆発に巻き込まれているのに、繰り返しているということはダメージを殆ど受けてないということなのだろうか。

 みんな間合いを詰めるのに苦労しているようで、このまま消耗戦になると体力の問題も出てくる。


 俺も手伝いたいところだけど、この状態の彼女たちに戦闘を強いるのは可哀想だし、せめて相手の注意を引きつけて、少しでも気を逸らすことができれば。

 商品一覧に目を通していると、面白い商品を発見した。平和になったら夜にでもみんなで楽しもうと思っていた品なんだが、これなら相手もこっちを見てしまうに違いない。

 これはノーマルの自動販売機では売れない商品なので体もそれ仕様に変更する。大きさは通常時の自動販売機と変わらないのだが、ボディーの色が煌びやかになった。


 背負っているラッミスは見えないが、残りの二人がじっと俺の体を見つめている。

 その視線を無視して〈結界〉の大きさを半径二メートルから一メートルに変更して、取り出した商品を〈念動力〉がギリギリ届く二メートル先に設置していく、大量に。

 ラッミスも俺がやっていることに興味が移り、少しだけ恐怖が薄れている様に見えた。

 全ての設置が終わると、ノーマルの自動販売機に戻り百円ライターを取り出し口に落とす。

 さてと、やる前に仲間に伝えておいた方がいいよな。最大音量で……、


「あ か り ゅ く」

「す り ゅ よ」

「こ っ ち」


 これだけだと普通なら意味が通じるか怪しいが、何だかんだ言って付き合いの長い人たちだ。察してくれると信じているよ。

 俺は百円ライターを操り、取り出した新商品に次々と火を付けていく。

 導火線に火が付けられたそれら――花火は発射音を響かせ、連続で天高く打ち上がっていく。


「た ま ゃ」


 辺りが急に暗くなっていたお蔭で、花火も綺麗に見えるな。

 そう、俺が準備していたのは花火。とある有名チェーン店限定で花火の自動販売機が存在していると知って、深夜一時にわざわざ買いに行ったんだったよな、懐かしい。

 実際に買ったことあるのは二種類だったのだがランク3になったことにより、全種類の花火が使えるようになっている。

 花火って、一人でやると虚しいからね……だから、マニアな俺でも全種類購入するようなことがなかった。ランク3になっていてヨカッタナー。

 天を彩る華やかな光景に思わず目を奪われるラッミスたち。そして、動きがピタリと止まった異形の化け物。

 どうやらこちらに注目してくれたようだ。さあ、ガンガン花火打ち上げるよ!


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