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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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避難 襲撃

「すみません、通してください!」


 ラッミスが人並みを押しのけ扉まで強引に進んで行く。

 割り込む俺たちに嫌そうな顔を向け、文句の一つでも口にしようとしていた住民たちだったが、それが俺とラッミスだと知ると道を開けてくれる。

 日頃から住民たちとの付き合いをしてきたおかげかな。


「ありがとうございま す」


 住民たちへ感謝の言葉を口にしながら、何とか扉まで到達できた。

 そこには大声を張り上げて避難誘導する熊会長と始まりの会長がいて、人波から飛び出してきた俺たちを見て驚いている。


「会長、向こうは補強したから暫くは敵の侵攻を防げるよ。その扉はそれ以上開かないの?」


「そうか、ご苦労だった。この扉はこれ以上どうやっても開かぬようでな」


「じゃあ、うちが試してみてもいい?」


「うむ、頼めるか」


 このダンジョンで随一の力持ちであるラッミスが扉に手を掛けて踏ん張っているが、彼女の怪力をもってしても扉は一ミリたりとも動かない。

 魔法や何かしらの特殊な力でしか扉を開くことは不可能なのか。


「うーん、無理みたい」


「やはりそうか。こちらは我らに任せて防衛を頼んでよいだろうか」


「うん、みんなにも伝えておくね!」


 今度は周りの迷惑にならないように一旦脇に抜けてから、バリケードを守る仲間の元へと疾走する。

 再びバリケードまで戻ると人員が増えていた。清流の湖階層から直接こっちに来ているハンターが結構いたのか。

 バリケードもコンクリートを重ねているおかげで、少し揺れる程度ですんでいる。更に補強して強固な壁を完成させてもいいな。

 ここは通路の入り口がそれ程大きくないので、もしバリケードを突破されてもこれだけハンターがいれば何とかなると思いたい。


 後はダンジョン崩壊までに間に合うかどうか。出口の僅かな隙間からだと避難するには時間がかかり過ぎる。

 扉の先は長い階段になっていて地上まで繋がっているという話だが、その道が崩落しなければいいけど。

 しかし、この階層は微振動だけで意識していなければ感じない程の揺れだ。清流の湖階層だと揺れはもっと強かったので、今の状態ならここが即座に崩れることはない。

 ただ、いつ揺れが増すのかわからない状態で安易な推測に縋るのはやめておかないと。今やれることをやろう、自動販売機にやれること限定だけど。


「ハッコン、もう少しあの石の板を出してもらえるか。念の為にもっと頑丈にしておこうと思ってよ」


「いらっしゃいませ」


 ここさえ抜けられなければ集落に敵がやって来ることはない。そう考えて、ハンターたちと一緒にバリケードの補強をしていた。


「いたいたいたあああっ! みんな、手伝って!」


 そんな俺たちの元に飛び込んできたのは、大食い団の面々だった。リーダーのミケネが息を切らして駆け寄ってくると、大口を開けてあたふたしている。


「落ち着け、ミケネ! 何を手伝ってほしいんだ」


「あ、うん、えと、集落内に魔物が発生しているんだよ! 避難中の人は何とかみんなが守っているけど、人が足りないんだ!」


「つまり、集落内に敵が現れて襲われているってことだな!」


「うん、そうだよ! だ、だからみんな早くっ!」


 そこまで聞けば充分だった。この場に最低限の人員だけ残して外へと繋がる扉へ向かって走っていく。

 疾走する先頭集団は身体能力の優れた仲間たちで形成されている。俺を背負うラッミスがいて頭の上の特等席にはヒュールミがしがみ付いていた。


「冥府の王が力の大半を奪ったせいで、魔物を好きな場所に発生できるようになったってことか。あの場所を守っている意味がなくなっちまったな!」


 走り続ける全員に聞こえるようにヒュールミが大声を上げて、現状の説明をしてくれている。ということはバリケードを強化したことが無意味になってしまったのか。

 大通りの進路方向にはさっきまでは一体もいなかったというのに、今は無数の魔物が蠢いている。ハンターたちが数名対処しているが、お世辞にも優勢とはいえない現状だ。

 その魔物も種類がバラバラで始まりの階層、清流の湖階層、闇の森林階層、その他の階層で見かけた魔物が入り混じっている。

 魔物の召喚に規制がなくなり好き勝手に呼び出せるようになったようだ。


「敵を片付けながら進むぞ!」


 苦戦しているハンターたちの敵を蹴散らして合流しながら、外へと繋がる扉へと猛進していく。

 扉が近づいてくると多くの敵が群衆に群がっているのが目に入った。

 戦えない人々を取り囲むようにハンターたちが輪になり、魔物たちを撃退している。

 人々が扉に押し寄せパニック状態になっているのではないかと危惧したが、意外にも人々は冷静に対応していた。


「皆、大丈夫だ。必ず我々が守る!」


「女子供老人が先だ!」


「焦りは何も生み出さないぞ!」


 熊会長が吠え、ゴルスとカリオスが敵を捌きながら人々を扉へ誘導している。


「うっせえっ! 先に俺を通しやが」


「こういう時に男の価値が見えますよね。このような場面で男気を見せる人って素敵ですわ」


 子供を押しのけ先頭に行こうとしていた男の前にすっと体を押し入れ、胸を密着しながら艶やかに笑っているのはシャーリィか。

 男の顔が怒りからにやけ面に変わり鼻の下が伸びている。周りの苛立っていた男たちが急に大人しくなり、指示に従うようになっている、流石だ。


「スオリ様も早く避難を!」


「商人が客を第一に考えないでどうするのですか! わらわは最後で構いません! 人々の誘導と護衛を優先にしてください!」


「立派になられて……」


 よく見ると脚が少し震えているというのに気丈に振る舞うスオリ。そして、成長している主を見て感動している黒服集団。

 このまま成長すれば、あの子は将来きっと名の売れた商人になってくれるだろう。


「お爺ちゃんお婆ちゃんも逃げないと!」


「そうだよ。お父さんもお母さんももう現役じゃないのよ」


 小さな女の子と母親が老夫婦を説得している。あれは、シメライお爺さんとユミテお婆さん。ということはあの親子は孫と娘さんか。


「はっはっは、心配はいらぬよ。爺ちゃんは強いからな」


 笑いながら自分を扇子で仰ぐと、後方から押し寄せていた魔物が数体宙を舞い天井に叩きつけられる。


「お爺さん張り切り過ぎないでくださいね」


 銀の光が何条も走って仕込み杖に刃が納まる音がすると、近くにいた魔物が細切れになった。凄惨な現場を見せないように娘さんが咄嗟に孫の目を手で覆っている。

 うん、あの一帯は心配がいらない。


「おらぁ、炭になって暖炉でも温めていやがれっ!」


 あの大声と火柱は灼熱の会長か。人が多すぎて姿が見えないのだが、あの人だけは何処に居てもわかる。


「どんな状況でもハンターは焦らず冷静に、人々の為に戦うように。そして、何よりも自分の命を最優先にするのを忘れるな!」


 若手で冷静さを失っているハンターたちに始まりの会長は指示を出しながら、魔物たちをすらりと伸びた足で蹴り飛ばしていく。

 実際に戦う姿を初めてみたが、足技のみで戦うのか。結構短めのスカートを穿いているのに何故か下着が全く見えない。それも含めて神業だな。


 魔物の姿に錯乱して飛び出した若い男に魔物が殺到するが、地面から黒い影が伸びて相手を切断、もしくは体に絡みつき影へと呑み込んでいく。

 腰を抜かしている若者の影からすっと黒い人影が伸びるのだが、それは金色のコートを着た闇の会長だった。


「自分だけすたこらさっさはあかんなぁ。男はここでドンと構えるのがカッコええんやで。どんな時でも沈着冷静なワイを見習わんとアカンで、うわああっ!? なんやビックリしたなぁ」


 背後から鰐人魔が手にした槍で胴体を貫かれたというのに驚いただけで、痛がる素振りも見せずに相手の顔に影を巻き付けるとへし折っている……闇の会長の体はどうなっているのだろうか。

 無尽蔵にも思える敵が押し寄せているのだが、強さの桁が違う知り合いの奮闘により怪我人は出ているようだが、今のところ死者は出ていないらしい。

 そこに俺たちが参戦したことで守りが万全となり、押され気味だったことろが今は防衛の輪を広げ押し返せるぐらいにはなっている。


 魔物側には何体も空を飛ぶ敵がいるのだが、次々と矢で射落とされている。あれはホクシー園長先生の放つ矢か。百発百中は彼女の為にあるような言葉だ。

 他のハンターから放たれる魔法や投擲武器で空の敵にも対処できている。このまま、全員が逃げ出すまで時間が稼げそうだが……ってこういう考えはフラグになりかねないから、考えるのはよそう。


「溶岩人魔と王蛙人魔が現れたぞおおおぉぉ!」


 ほーら、こうなった。敵が魔物を自在に召喚できるのなら、強力な魔物を出してくるに決まっている。

 ハンター以外の住民はまだ半分以上残っている。足下の振動はまだ微弱だから天井が崩れることはない。となれば、全力で魔物退治を手伝うしかない。

 全員無事で帰還して戦いではなく、自動販売機として本来の業務を早くまっとうしたいな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] スオリみたいに財産を貯め込んだ層は、ダンジョン崩壊の際にはボロ損になってリセットされるのかね?? シメライ爺さんとユミテ婆さんは、子や孫に戦う能力を伝承しなかったんかいな。
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