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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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文明の利器

 三十分ほどドライブを楽しんでいると分岐路に差し掛かったので、そこでいったん停車をする。

 そこには魔道具の灯りが設置されていて、三つの道を照らし出していた。

 三方向とも道幅が十メートルはありそうで、車で充分通れる道幅だ。経験からすると三車線の道路ぐらいはありそうに見える。

 右の通路の真ん中には看板が設置されているのだが、そこには異世界の文字で何かが書かれていた。


「何々、この先行き止まり探索完了済み。ってあるぜ」


「聞いていた通りだね。じゃあ、真ん中と左端どっちに行くの?」


 運転席と助手席で会話しているのだが、どっちに進むのかはヒュールミに一任している。

 じっと道の先を見つめて腕組みをして黙り込んでいたのだが、ぱんっと勢いよく太股を叩き真ん中の道を指差した。


「ど真ん中を突っ切ろうぜ。わかんねえなら、真ん中一本勝負だ!」


「うん、間違えてもこのクリュマに長く乗れるだけだし。みんなもそれでいい?」


 ラッミスが振り返ると、荷台のメンバーは全員親指を立ててOKサインを送っている。

 全員の許可が取れたことだし、じゃあ真ん中の道を進むとしますか。

 車は順調に真ん中の道を進んでいる。速度は今のところ50キロに留めているのだが、運転に安定性が出たらもう少し飛ばしてもいいかと思っている。

 人の歩行速度がだいたい5キロだったとうろ覚えしているので、単純計算で十倍の速さとなる。まあ、人は休憩も必要だし、その速度を持続できるわけでもないから実際はもっと差が開くだろう。

 半年進んだ人の報告によると道は平らで曲がりもせず真っ直ぐに伸びているだけらしいので、事故の心配もない。

 重量で道が崩れる可能性も考慮しているが、ピティーの〈重さ操作〉でかなり軽くなっているので安全性は高い。もちろん万が一谷底に落ちた時の対応策も考えている。非常手段なので使わないで済めば、それに越したことはないのだが。





 真っ直ぐひたすら進み続けて一週間が過ぎた。今日は運転席にミシュエルが座り助手席にヘブイがいる。

 今、車の運転席と助手席は二時間前後で交代することが義務付けられている。その理由はDVDやブルーレイが再生できる高性能ナビゲーションシステムの存在だ。

 異世界ではナビゲーションシステムに何の価値もないと思っていたのだが、再生機能が思わぬ活躍を見せている。

 運転席と助手席にいる二人は真剣に洋画を鑑賞中だ。荷台にいる残りのメンバーはどうにかして覗き込もうとしているが、俺の巨体が邪魔でどう足掻いても無理らしい。


 何故、こんなにも好評かというと、みんな暇なのだ。暗闇をひたすら真っ直ぐ進み続けているのですることもなく、初めは雑談や道具の手入れをしていたが暫くするとやることがなくなってしまった。

 そこで、俺は〈DVDレンタル自動販売機〉にフォルムチェンジをして、言葉が通じなくても大丈夫そうな作品をジャンル選ばず取り出し、ナビで再生したところ絶賛となり運転席と助手席の人気がさらに上がってしまったのだ……うん、俺のせいだね。

 アクション映画とアニメと地球の自然や動物の映像が特に人気のようだ。

 ずっと車に乗っているのも体に良くないので、丁度映画が一本終わるタイミングで休憩をしてから席の移動も行っている。

 じゃあ、後ろの荷台の人は何をしているのかというと、俺が出したカードゲームや玩具を使って盛り上がったりしているんだよな、これが。


「ここでカードを伏せて終わりっす!」


「ふっ、甘いぜシュイ。ここで罠カードを発動するぜ! 更にスペルを発動してお前の壁モンスターに光の一撃を喰らわしてやるっ!」


「うああああっ、やられたっす!」


 ヒュールミがシュイにカードを突き出すと、上半身を仰け反りオーバーリアクションで応えている……楽しそうだね、二人とも。

〈ランク3〉になって購入したことのない商品も出せるようになり、ガチャガチャで買えるカードゲームを取り出して簡単なルール説明をしたら、局地的ブームを巻き起こしてしまった。

 ちなみに最強のプレイヤーはヒュールミだ。

 他にも遊び道具は充実している。古い機種なのだが、子供のおもちゃを詰め込んだ自動販売機が昔にあって、それからトランプやマグネット式のオセロを取り出して楽しんでもらっている。

 灯りは俺の体の光とヒュールミの発明品があるので充分に確保できていて、暇つぶしはできているようだ。


 アニメ映画を観終えた男性二人が涙目で感動しているようだが、スタッフロールが流れているので休憩と交代の時間か。

 車を停止すると全員が地面に降り立ち、体を伸ばし柔軟を始めた。

 乗り心地は車の方がいいようだが、やはり窮屈なようで交代する際には体をほぐすのが習慣になっている。


「さて、それでは昼ごはん前にいつもの鍛錬を開始しましょう」


「うん、今日こそは負けないよっ!」


 ラッミスが拳を打ち鳴らしながら、車から離れていく。

 ヒュールミ以外が車の前へと移動したので、ライトの明かりで前方を照らす。

 体が鈍らないように毎日二時間ずつ、昼前と夜に組み手をやって互いを高め合っている。時間のロスだと思われそうだが、睡眠時間は俺が寝ずの運転をしているので実際に歩いて進んだ人とは雲泥の差がある。

 最近は慣れてきたので車の速度も上げているから、この調子だと予想より遥かに速く最奥部に到達しそうだ。

 ちなみに車のタイヤがパンクしたり部品が壊れたとしても、ポイントを消費して修理が可能なので少々の無理は問題ない。

 仲間たちの戦いを眺めていると、唯一参加していないヒュールミのことが気になり視線を向けると、車を隅々まで調べている。

 ボンネットを開けて中を見て感心しているが、彼女の頭脳でも外から見ただけではエンジンの仕組みは理解できないだろうな。


「分解してえなぁ」


「い か ん よ」


「ちっ、やっぱ駄目か」


 一応釘を刺しておいた。この階層攻略が終わった後なら別にいいけどね。

 今のところ順調と言っていいだろう。一日合計で四時間は体を動かし、睡眠も充分にとれている。野菜も提供して健康にも気を遣っているので、病気や体調不良もない。

 ハンターは一般人より体が頑丈なので、その心配はあまりしなくてもいいらしいが健康が一番だからね。

 鍛錬が終わりに近づいてきたので、全員の食事の準備を始める。いや、正確にはシュイの食事を先に大量に用意しておく。

 折り畳みの机をヒュールミが地面に置いて、商品を次々と並べてくれている。

 戦闘で役に立てないことを悔やむことが多い彼女だが、それ以外のことで充分すぎるぐらい活躍してくれているので気にしないで欲しい。


「ふぃー、お腹空いたっす」


「そればかりですね、シュイは」


「ハッコンの……ご飯……」


「今日のご飯は何かなー」


「ハッコン師匠、いつもありがとうございます!」


 全員が揃ったので食事を始める。みんな今日もいい食べっぷりだ。

 運動不足を心配していたのだが、毎日四時間思いっきり体を動かすことでなんとかなっている。


「そう言えば、赤い杭見かけなくなったね」


 ラッミスが道の端を注視しながら口にした。


「そうだな。昨日あたりから全く見かけなくなったぜ」


「もしかして、もう一番奥まで到達したっすか?」


「まだ……一週間……だよ……」


「ですが、この速度ならあり得るのでは。そうですよね、ハッコン師匠」


「う ん」


 毎日寝ずに走り続け、速度も最近は80キロを超えている。

 徒歩の数十倍の速さで進んでいるので、あっさりと最長距離を越えた可能性は高い。この調子ならあと一週間ぐらいで行き止まりか、当たりだったのかが判明しそうだ。


「おや、皆さん。アレは何でしょうか」


 さっきから会話に加わらずに、じっと車のライトが照らす道の先を凝視していたヘブイが静かに立ち上がるとすっと指差す。

 全員が釣られてその方向へと目をやると、そこには……赤と白い何かが闇夜に浮かんでいた。


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― 新着の感想 ―
自動サービスというならゲーセンの機体全部いけるよね。 プライズなら電気製品もあるし、リサイクルショップのガチャガチャは商品引換券って形で割となんでも入ってる。 まぁ券が出るだけだと意味ないけど…
[気になる点] ゲームのルールをどうやって教えたのでしょう。 [一言] カードやボードゲームの自販機がどこに設置されていたのか、情報をください。 ヒュールミなら地面に絵を書けば、内燃機関も理解できそう…
[一言] 今書いてたら、本当に自動車が出てくる自動販売機(シンガポールのやつ)を出してただろうか。 今だとあれが世界最大だよね。
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