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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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ランク3

 全員からの熱い視線を浴びながら、昨晩のことをふと思い出す。

 宴会が終わった夜更け。ハンター協会前のいつもの場所で俺は一人佇んでいた。

 酔っ払い共が全員、いびきをかきながら眠っている。明日の朝は二日酔いの対応で忙しくなりそうだな。

 でも、みんな幸せそうにあれだけはしゃいでいたのだから、少々の頭痛は覚悟の上だろう。客足も途絶えたことだし、ずっと気になっていたあれを調べておこうか。

 既に200万ポイントを超えていた状況から、俺の召喚したコンクリート板をラッミスが投擲して倒した多くの魔物。そして、八足鰐に止めを刺した一撃。

 これが加算されたことにより、予想では届いている筈なのだが。


 恐る恐る現在のポイントを覗き見ると――324万ポイントとなっていた。

 よっし、夢の300万ポイント突破だ!

 機能欄に増えた〈ランク3〉の文字を見て以来、ずっと気になって気になってしょうがなかったのだが、ようやく手が届く。

 〈ランク2〉を覚えた時に増えた機能は〈自動サービス機〉とオプションパーツの追加だった。最近愛用しているコンクリート板も〈ランク2〉から使えるようになった機能の一つ。

 ならば〈ランク3〉になれば何が増えるのか、自動販売機マニアとしては弥が上にも期待は高まる。

 何の説明も表示されていないことに若干の不安を覚えるが、ランクが上がって損をすることだけは無いと断言できる……と思う。今までがそうだったから。


 これだけのポイントがあれば加護を三つ新たに覚えることも可能なのだが、俺はどうしてもランクアップをしたい。この成長は仲間たちとのこれからに絶対に必要だと信じている。

 決して、自動販売機マニアの血が騒いで盲目になっている訳じゃない。そこは信じて欲しい。そうこれは仲間の為なのだ! ま、まあ、少しは俺の為でもあるかもしれないけど。

 自分への言い訳は完了したので、そろそろランクアップさせていただくとしよう。

 俺は今まで貯めた300万ものポイントを注ぎ込み、ランク3へと進化した。


 ぬおおおおおおっ、何だこの体中に溢れるパワーはっ! これがランク3の実力なのかっ! と、なることもなく特に変化が感じられない。

 自分の能力の欄には確かに〈ランク3〉が存在する。これは久しぶりに心の中でカーソルを持って行くようなイメージで説明を聞いてみるか。

 頭に浮かぶイメージ映像で〈ランク3〉を調べてみると、脳内に説明の文章が浮かんだ。


《ランク3になると、加護と念動力の有効範囲が一メートルから二メートルへ伸びます》


 おおっ、これは嬉しい変更点だ。こういった能力の強化はないと思い込んでいたので純粋に嬉しいな。〈結界〉〈念動力〉の距離が増えたら使い勝手が更に良くなる。

 まだ文字は続いているようだから期待できるぞ。


《他の自動販売機へのフォルムチェンジ可能時間が二時間から四時間に増えます》


 地味にありがたい。今まで時間制限でやれなかったこともあったので、倍に伸びるのは夢が広がるな。


《選べる自動販売機や機能が大幅に増えます。実際に存在している、もしくはしていた自動販売機全て選ぶことが可能となります。未購入未使用でも可能となります》


 な、なんだとっ。つまり、海外にある自動販売機や過去に存在していたが既に姿を消した自動販売機も選べるようになったのか!

 これは凄過ぎる。海外の自動販売機で幾つも利用したいと思っていた物があったので、それが選べるとなるとテンションが上がるな!

 イギリスのアレとか、アメリカのアレも選べるのか。それに自動販売機で売られていた全商品を選べるのもかなり嬉しい。飲食料品のレパートリーも一気に増えるぞ。

 喜び勇んで新たに増えた機能欄を凝視すると、自動販売機の種類と機能が驚くほど増えていた。

 こんなにあったら、嬉しさのあまり頭がおかしくなりそうだ。


 おーっ、大昔の自動販売機もあるぞ。たった二年しか稼働しなかったと言われている幻の自動販売機まであるじゃないか。

 日本では無理な物を販売している海外の自動販売機は面白いな。これにフォルムチェンジできたら今後の旅が楽しくなりそうだ。

 ざっとだが目を通して満足しかけていたのだが、一番欲しいと願っていた自動販売機が見つからなかった。それに、幾つか俺の知っている自動販売機が存在していない。

 これって、何かしらの条件を満たさないと現れない仕組みなのだろうか。日本一の自動販売機も前提条件があったからな。それにレアな自動販売機や大型なサイズはポイントの消費が激しい。


 新規追加も俺が購入したことのある自動販売機や商品と比べてかなり割高だ。〈ランク3〉で追加された物は気軽に購入するのは避けた方が良いのは確かだ。

 でも、ランクアップをしたらもしや選べるのではないかと、期待していたあれが選べないのは痛いな。あったら、永遠の階層の旅が一気に楽になるというのに。

 もう一度追加された自動販売機を今度はじっくり見ていると、とある自動販売機を発見した。これは〈ランク3〉になってから追加されたもので間違いない。


 消費ポイントは幾つだ……21万! よっし、これなら足りる!

 残りポイントが3万と少しになってしまうが、背に腹は代えられない。それだけの価値がこれにはある。それに、後で熊会長が報酬を持ってきてくれるそうなので、数万ポイント補充できるかもしれない。

 それに今回の防衛戦で大量消費した飲食料代金も支払われ、尚且つ別の階層での活躍に応じた報酬。更に八足鰐の骨は高額で取引される素材らしいので、その買取り金額の一部も貰えるそうだ。

 それだけあれば永遠の階層を進むのに問題はない。

 ポイント計算が終わったので、後は朝まで新たな機能と自動販売機の種類を愛でることにしよう。いやー、久しぶりに心が弾むようだ。

 それから俺は一晩中、新たな自動販売機と商品を眺め続け、興奮冷めやらぬ夜を過ごしたという訳だ。

 そんな俺が新たに得た自動販売機をここでお披露目するとしよう。


「の い て」


 俺がそう発言すると、ラッミスが地面に降ろして距離を取ってくれた。

 全員が充分離れたのを確認すると、お待ちかねのフォルムチェンジをする。


「えっ、何これ!?」


「な、なんだこれ! おい、ハッコン、これなんだ!」


 ラッミスが口元に手を当てて驚き、ヒュールミに至っては俺の体に両掌を当てて額をぶつけて凝視している。今までで一番のリアクションだ。

 残りの仲間もソレが何であるか理解できないようで、目を見開き大口を開けて、そのまま硬直している。

 どんな姿に変貌したかというと、体は横に伸び奥行きが増えベースが黒になった。

 更に正面の八割以上をガラスが占めて、中にある商品が見える仕組みになっている。

 この自動販売機の中身はたった一つしかなく、黄色のボディーに四つの車輪。二人が座れる座席しか存在しない――コンパクトカーだった。


 つまり、二人乗りの自動車が入った自動販売機に俺はフォルムチェンジをしたのだ。

 この自動販売機は実際に購入できるわけじゃなく、商品の代わりに缶を模したパンフレットを貰うことが可能になっている。

 だが、中に入っている車は本物なので俺が商品として扱える。

 海外の有名なメーカーの車でプロモーションの一環として東京タワーやデパートに実際に置かれていた。

 変わり種の自動販売機の中でも中々の逸品だ。

 この自動販売機には重要なポイントがある。自らが車にフォルムチェンジしたわけではなく、車はあくまで商品の為、制限時間関係なく使用できる点だ。これで時間制限なしで車を運転することが可能となる。

 張り付いているヒュールミに離れるように頼んでから、コンパクトカーだけを残すイメージで自動販売機の体を元に戻した。

 自動販売機から解放された車に仲間たちが群がっている。


「これは車輪があるから、幌付きの荷台っぽいが……いや、それにしては」


「丸くて可愛いね、この子」


「中は椅子が二つだけっすか。それだと、荷台として役立たずじゃないっすか」


「ハッコンと……ピティー……専用……」


「かなり重い物体の様ですが、どういう意図で出されたのでしょうか」


「ハッコン師匠は深い考えがあってのことですよね!」


 全員からの期待と疑惑の視線を向けられているので、ここで俺の力を見せる時が来たようだ。

 まずはここでもう一度フォルムチェンジをしなくてはならない〈ガソリン計量機〉へと。仲間が見守るなか〈念動力〉で車内の操作をして給油口を開き、そこにノズルを差し込んでガソリンを注入する。

 この操作も〈ランク3〉になって距離が二メートルに伸びたおかげでスムーズにやることができた。

 みんなが俺のしていることが理解できないようだが、今は余計なことをするべきではないと考えているようで、真剣な眼差しを注いでいる。

 元の自動販売機に戻ったのはいいが、これからどうしようか。運転席に乗ることも考えたがコンパクトサイズの二人乗りなので、この体で乗り込むには無理があるな。

 上に乗っけてもらってもいいのだが、ここはわかり易く見せつける為に〈ダンボール自動販売機〉になり、自動車の扉を操作して運転席を開いた。


「ら っ い す」


「の せ て」


「え、うん」


 呆けた表情をしていたラッミスが慌てて駆け寄ってきて、運転席に俺をそっと置いてくれた。


「ありがとう」


「えと、よくわからないけど頑張ってね」


 ラッミスが離れたので扉を閉めて〈念動力〉でエンジンをかけてギアを操作してアクセルを踏んだ。

 ゆっくりとスタートした車を見て「おおおおおっ!」と仲間たちから歓声が上がる。

 ここは広々とした空間で人もいないので、ちょっとだけ速度を上げてぐるっと一周してから停止した。

車の運転は自動販売機巡りの旅で鍛えられているから問題は無い。

 しかし、異世界で車を運転する日が来るとは思いもしなかったな。

 このタイミングで〈ランク3〉になり〈念動力〉の射程範囲が伸びたことで、車の運転も問題なくやれそうだ。これで永遠の階層の攻略時間がかなり短縮される筈。

 しかし、車を運転する自動販売機か……俺は何処に向かって進んでいるのだろうな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ランク3と人間があるいて1年とくればこれしかないと思ってましたが まさか本当にTVの面白ネタでもたまに取り上げられる最大級の販売機が来るとはw
[気になる点] 検索すると、シンガポールに色んな車種の入った自販機が存在するようで。
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