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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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最下層

 懲りない面々が地面に倒れ伏している。

 男女問わず呻き声を漏らしながら、俺を目指して這いずり寄ってくる姿はゾンビの群れのようだ。


「二日酔いが……ましになる……あれをくれぇぇ」


「あ、あかん、しんでまうぅぅ」


 一番に辿り着きそうなのはカリオス、時点で闇の会長か。というか、闇の会長はあんな体なのに二日酔いになるのか意外だ。

 スポーツドリンクが一番妥当かな。お酒って利尿作用があるから脱水症状になるらしい。あとは定番のしじみの入った味噌汁缶か好きなのを選んでもらおう。

 炭酸の独特な感覚で胃と頭がスッとするという人も多いらしく、大体この三種が二日酔いの定番商品になっている。


「死屍累々だな。もう少し上手く酒を飲む努力をするべきだ」


「あら、皆様。早く復活してくださいね。今日もお店でお待ちしておりますわ」


 熊会長とシャーリィが平然と歩み寄ってきているが、この二人は横たわる酔っ払い共よりも酒を飲んでいたよな。

 酔いが一切残っていないように見えるが。


「嘘だろ……俺たちの数倍は飲ませたよなぁ」


「シャーリィさんを酔い潰すのは無理なのかっ」


 下心満載の男性陣の悔しがる声が届く。そういや、昨日、シャーリィさんの周りに群がっていた男たちが次々と沈んでいく光景を目の当たりにした。

 男たちが数人で取り囲み返杯を続けていたのだが先に酔いつぶれていき、最後まで残ったシャーリィが夜空を眺めながら酒を煽っていたのが印象的だったな。


「ハッコン、こやつらの看病が終わったら永遠の階層に向かってもらいたいのだが、大丈夫だろうか」


「いらっしゃいませ」


 最終階層らしき永遠の階層へ挑む時が来たようだ。

 最低でも片道一年もの距離を進まなければならないらしく、共に攻略をする仲間たちは長い旅を覚悟している。

 一年かけて右の道を制覇した人は中級ランクのハンターだったそうだが、そんな人でもそれだけの日数が必要だった。普通に道を進む気なら一年では済みそうにない。


「ハッコン、早くぅぅぅ、すっとする飲み物をくれぇぇ」


 悩むのは後にするか。まずは、この屍の群れを何とかしないと。





 酔いつぶれた人々の介抱を終えると、転送陣へと運ばれて行った。

 永遠の階層に挑む面子は既に揃っていて、全員の顔を改めて見まわしてみる。

 ラッミス、ヒュールミ、ピティー、シュイ、ミシュエル、ヘブイ。やはり、固定メンバーで決定したようだ。

 灼熱の会長と闇の会長が同行したがっていたが、全員一致で御遠慮していただくこととなった。あの二人と一年間以上も毎日共に過ごすのはきついと判断したようだ。

 そもそも、俺たちが断らなくても会長たちが同行するのには無理があるのだが。

 今回、清流の湖階層が襲われたことにより、まだ壊滅していない階層への警戒度も増すこととなり、特に灼熱の会長は自分の階層を守る仕事がある。


「では、永遠の階層に向かうとしましょうか」


「昨日あれだけみんなで騒いだから、お別れは必要ないよね!」


「そうっすね、死にに行くわけじゃないっすから」


「だな。ちょいと一二年旅に出るだけの話だ。湿っぽいのはなしにしようぜ」


「うん……ハッコンと……ずっと一緒……嬉しい……」


「私もハッコン師匠と一緒にいられて嬉しいです!」


 みんな思ったよりも元気いっぱいなようで何よりだよ。

 この面子だったら数年もの間、道を進むだけだったとしても退屈はしないな。


「んじゃ、転送陣を発動させるぜ」


 ヒュールミがいつものように操作をすると転送陣から青い光が溢れ出す。

 これも見慣れた光景だ。このダンジョンの最下層らしき永遠の階層か、事前に情報は得ているとはいえ、この目で確かめてみないと正しい判断はできない。

 自動販売機として体が動かせない分、人より物事を深く考えるぐらいのことはしないと。

 光が消え去ると、そこは暗い闇の中だった。

 正確には松明や魔道具の灯りに照らされた数件の建物が闇に浮かんでいるのだが、明かりの届く範囲外は真っ暗で何も見えない。

 足下は湿り気のない固い土で地面は平らに均されている。円状に灯りが設置されているようだが、内側には建造物があるが外側には何もない。そこから先は断崖らしく闇が佇んでいるだけだ。


「思ったより狭いですね、ハッコン師匠」


「う ん」


「ここは宿屋と道具屋、あとハンター協会しか存在しない。迷宮の階層と似たような感じだな。必要最低限の人員と建物だけ。敵とも遭遇しなけりゃ、ただひたすら前に進むだけの階層だからな、こんなもんだろ」


 ヒュールミの説明を聞いて納得はできるのだが、それにしてもこれがダンジョンの最下層なのか。もっと、攻略に力を入れているのかと思っていた。


「えっと、まずはハンター協会に顔を出すって話だったよね、ヒュールミ」


 ラッミスの質問にヒュールミが軽く頷く。

 このメンバーを取り仕切るのはヒュールミということで話はついているのだが、戦闘中はヘブイが指揮を執ることになっている。


「それじゃあ、まずはハンター協会に行ってみるか」


 ここでは迷うことなく目的のハンター協会を見つけることができた。建物が三件しかなくご丁寧に看板を掲げてくれているので、間違いようがないのだけど。

 簡素な木造平屋建ての扉を開けると、ハンター協会の制服を着た小太りのおじさんが、もう一人の制服を着た、同じ体格のおばさんと談笑している。


「今日は何して過ごすか」


「煮物を限界まで煮込むというのはどうですか」


 暇を持て余しているのが即座に伝わる会話内容だ。言葉に力も感じられず、全身から力が抜け出ているかのような二人だった。

 魔物が襲ってくることもなく常に薄暗い階層で暮らし続けていたら、こうなるのも頷けるけど。


「すまねえが、ここはハンター協会で間違いないよな」


「おや、お客さんか」


「あっ、清流の会長が前に言っていた、攻略目的のハンターさんですか」


 事前に話を通していると熊会長は言っていたが、この二人は忘れていたようだ。業務に対する意欲が薄れているのか。


「ああそうだ。この階層の攻略具合を教えて欲しい」


「はいはい、資料は整えていますよ。ええと、ここだったかな……あれ、こっちか」


「いやですよ。あそこの棚に片付けたじゃないですか」


 手間取りながらも取り出された資料を渡され、全員が目を通している。


「数年前までは結構頻繁にハンターも訪れていたのですが、右の通路を制覇して帰ってきたハンターの報告があってからは人足が途絶えましたね。稀に現れる野心あるハンターが挑むことがあるのですが、殆どが一ヶ月で戻ってきましたよ」


「帰ってこなかったハンターいたのか?」


「ええ、十人に一人ぐらいの確率でお戻りになられていません。右の通路を制覇された方は途中で餓死されたハンターの遺品を持って帰ってきていましたね。それを知って挑む人が減ったようなものですし」


 死因はやはり餓死なのか。

 それから資料を詳しく調べ、魔物に襲われたという前例がないことと三つの分岐路の内、まだ調べ終わっていない真ん中と左端は、現在の報告では半年間進んだが終わりが見えなかったそうだ。

 何処まで進んだかわかるよう引き返す前に、ハンターは細く軽い金属の赤い棒を突き刺すことが決まり事らしく、俺たちもその赤い棒を渡された。


「つまりこの赤い棒が途切れたところが最深部ってことか」


「うちらは一番奥まで到達するから、これ刺すことなさそうだよね」


「まあ、そうっすね」


「うん……何年かかっても……大丈夫……」


 女性陣は職員の話を聞いても全く動じてない。それどころか何処か楽しそうだ。本当にただの旅行に行くノリに見えてきた。


「最大の敵は変わりのない日々のような気がしますね」


「体が鈍れば鍛錬をすれば良いのです。そうですよね、ハッコン師匠」


 男性陣もいつもと変わらない様子だ。

 全員が覚悟した上で果てしない道を進むことに決めた。もう、俺が口を挟むことじゃないよな。


「あのぅ、先日に清流の会長から渡された荷台は引き取ってもらえるのでしょうか」


 申し訳なさそうに話に割り込んできた職員の男性が唐突にそんなことを口にした。


「あれっ、そういえば荷台がどうとか言っていた……ような気がするっす。食事に夢中で忘れていたっすけど」


「オレはちゃんと聞いていたぜ。徒歩では限界があるからな。立派なウナススも用意してくれているんじゃねえか」


 ヒュールミが期待を口にすると、周りの仲間も同調して頷いている。

 職員の男性が促すままにハンター協会を一度出て、脇に設置されている物置小屋の扉を開けた。

 そこには清流の湖階層で活躍した荷台――だけが置かれている。ウナススは何処にもいない。


「んんっ? ウナススがいねえようだが」


「はい、ウナススは必要ないと仰っていました。何でもハッコンさんという方に任せておけばいいと」


 全員の視線が俺に集中した。

 ふふふふっ、とうとう俺の新たな力を見せる時が来たようだ。

 今までのポイントと清流の湖階層での騒乱で稼いだポイントを合わせて300万を超えた俺が得たランク3の力をっ!


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