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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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八足鰐再び

「まずは足止めかのう」


 シメライお爺さんが今度は地面が陥没した絵が描かれた扇子を取り出した。

 あの絵はどんな効果を表現しているのだろうか。地面が陥没しているということは土系の魔法だろうか?

 扇子を頭上に掲げると、勢いよく振り下ろした。

 ズンッと腹に響く重低音がしたかと思うと、八足鰐が足を止めている。


「えっ、あれ、何かしたのかな。何も見えないけど」


 ラッミスの言う通り、魔法が発動したようには見えないが注意深く観察すると、体勢が低くなり八本の足が深く地面までめり込んでいる。

 もしかして……重力系の魔法なのだろうか。上から見えない何かに押さえつけられているような。


「あ奴は体の重さが数倍に跳ね上がっておるからのう。あとは何とかせい」


 やはり重力系の魔法なのか。それを聞いて前衛の面々が八足鰐に向かっていく。

 シュイと園長先生は矢で八足鰐の四つある目を射抜こうとしているが、咄嗟に瞼を閉じて弾かれた。

 中距離からヘブイが振るう鉄球が八足鰐の左前足の関節部分に何度もぶつかり、皮膚が裂けて血が飛び散っている。


「逆の……脚に……投げて……」


 俺を背負うラッミスの隣で並走していたピティーが、こっちを見ながらそんなことを口にした。

 無茶過ぎることを言い出したので、訝しげにラッミスが見ているが彼女の目は真剣で……本気で言っているのか。


「本当に投げるよ?」


「うん……やって……」


 ピティーが盾に籠る二枚貝バージョンになったので、ラッミスはそれを掴み振り上げると全力で相手の右前脚に向けて投げつけた。

 剛腕から繰り出された一投はいつもの展開ならあらぬ方向に飛んでいくのだが、的が大きいのと対象が近いこともあり――左前脚に激突してヘブイの攻撃による蓄積ダメージとの相乗効果で関節を完全に打ち砕く。

 右前脚を狙った筈なのだけど、結果オーライだよな、うん。


「め、命中ね!」


 確かに脚には命中したね、ラッミス。

 そんなやり取りをしている間に右前脚が炎上している。


「おらおら、燃え上れやああああっ!」


 炎人間と化した灼熱の会長が巨大な脚をサンドバッグにして、目にも止まらぬ速さでパンチとキックを繰り出していた。

 格闘術に長けているのというのは本当だったのか。炎の派手さに目を奪われがちだが、苛烈極まる連続攻撃は男として血が騒ぐ。

 両前足を破壊された八足鰐だったが、まだ六本の足が残っているので倒れることなく踏ん張っている。

 無抵抗の相手を一方的に叩きのめしている図は見栄えの良いものではないけど、命懸けの戦いでそこにこだわる理由はないよな。

 それにあの魔法を何処まで維持できるのかもわからない今、一気に攻め切るべき。


「私も良いところを師匠に見せないと!」


 燃え盛る右前脚の後ろの足も炎上している。それはミシュエルが炎を纏わせた竜の大剣で何度も斬りつけているからだ。

 如何にも硬そうな皮膚を容易く切り裂き、傷口が紅く焼けただれている。八足鰐の脚があれだけ太くても、あれだけ深い傷を負わされては巨体を支えることができず膝を突いた。


「お婆も頑張らんといかんねえ」


 ミシュエルと逆方向に向かっていたユミテお婆さんは、砕かれた左前足の一本後ろの脚に向けて一度刀を振るった……と思う。仕込み杖から刃が煌めき鞘走りした音がしたと思ったら、もう鞘に収まっていたので確信が持てない。

 その放ったかどうかも目視できなかった斬撃は巨大な足に一本の線を残した。


「この居合は疲れるから、あんま使いとうないんよ」


 腰を軽く叩くお婆さんがこちらに振り向くと、その背後で斜めの線が走る脚から大量の血が噴き出し、切断面から脚がずれていく。

 たった一刀であの脚を切断したのか。やはり、この老夫婦は桁違いだな。

 八本の内、半分の脚を失った八足鰐はその巨体を支え切れなくなり、前のめりに地面に伏せることとなった。


「このままでは、出番がなくなってしまうな」


「だよね、会長」


 並走する熊会長が苦笑いを浮かべると、崩れ落ちた八足鰐の体を駆け上っていく。

 鋭く伸びた爪に赤黒い炎のような何かを纏わせて、八足鰐の体に突き刺しながら首元から背中に向けて走っている。

 俺とラッミスも背中に飛び乗ると、腰骨辺りに陣取ると膝を軽く曲げて足を踏ん張った。

 軽く一度相手の皮膚に拳を添えてから、息を鋭く吸い込み拳を掲げると一気に振り下ろす!


「といやあああっ!」


 俺の全身に震えるような衝撃が駆け抜けると同時に、八足鰐の体がすり鉢状に陥没した。

 ベギベギと硬質の物が割れる音が八足鰐の内部から微かに響く。


「もういっちょおおおっ!」


 更にもう一撃、ラッミスの遠慮なしの正拳がクレーターにめり込む。

 今、八足鰐の巨体が跳ねた気がする。そこまでの衝撃を与えられる攻撃力があるのか。立派になったどころの騒ぎではないぐらい成長したな。


「とう、ちょいや、あちょう!」


 よくわからない掛け声を上げながら、凶悪な破壊力を秘めた拳が連続で叩き込まれていく。陥没した腰が見るも無残な姿になっているが、それでもラッミスか拳を止めない。

 これだけの巨体だとこのダメージでも倒しきれるのか確信が持てないでいる。


「そろそろ、動き始めるぞ」


 後方に居る筈のシメライお爺さんの声が耳元で話したかのようにハッキリと届いた。どうやら、風に声を乗せて届けたようだ。

 みんなが離脱していく中、ラッミスはじっと俺を見つめてまだ動いていない。


「あれをやる?」


 おっ、流石ラッミスだ。俺が何をしたいのか言う前に察してくれた。

 俺の必殺技をこの状況で放つのか確認してくれている。それに対する答えは決まっているよ。


「いらっしゃいませ」


 最大威力をほこる最近の決め技をここで放たないで、いつやるんだ。


「本当はハッコンにこんな事させたくないけど……相棒は信じないとね!」


「う ん」


 以前までなら俺を武器扱いすることを極力避けてきたのだが、最近はお互いの理解が深まってきたような気がする。


「じゃあ、いっくよー!」


 背負子から俺を外して肩に担ぐようにして持ち上げると、真上に勢いよく放り投げた。

 体がぐんぐんと上空へと昇っていく。眼下には八足鰐の背から撤退していくラッミスの姿が見える。

 充分な高度を確保すると、そこからは急降下が始まるのだが、ここでいつものフォルムチェンジだ!

 最近定番の日本一大きな自動販売機に成ると、更に足下にコンクリート板の基礎を召喚する。これで重量を上げて威力を更に増す!


 重力の拘束が解けたらしい八足鰐が歩み始めようとしているようだが、半分の脚を失い思うように動けず地面でもがいている。

 無防備な背中を晒す八足鰐に急降下した俺が激突すると、その衝撃で八足鰐の体が海老ぞりになった。

 足下から肉が弾け骨を砕いた音と振動が伝わってくる。前回は内部から破壊したが今回は外からの破壊だ。

 ラッミスの攻撃で皮膚が破れていたのも威力を上げた要因だったのだろう。俺の一撃は相手の腹まで突き抜け八足鰐は真っ二つに分断された。


 元の自動販売機に戻ると周囲はグロ画像だった。臓器や骨や肉の断面図に取り囲まれている。自分がやったことなので消えるまで大人しく視界を閉じておこう。

 暫くすると肉が全て消え去り骨だけが残っている。前と同じ状況だな。

 これだけあっさり倒せたのは、みんなの協力があったからこそ。美味しいとこだけいただくことになって申し訳ない。


「ハッコン師匠、お見事でした!」


 いち早く駆け寄ってきたミシュエルが目の前で片膝を突いて頭を下げた後に、眩しい笑顔を見せて褒め称えてくれている。

 どうやら彼の中でまたも俺の評価が上がったようだ。


「ハッコン、大丈夫! どこか壊れてない?」


 続いて現れたラッミスが俺の体を隅から隅まで撫でまわしている。


「も ん だ い ね」

「い よ」


「よかったー。ちょっと高く投げ過ぎたかと思ったから」


 肉のクッションもあったし、頑丈も上がっているから平気だったよ。

 これで冥府の王の嫌がらせも一段落ついたのだろうか。

 逃げ出した小将軍カヨーリングスの行方と永遠の階層の探索が残っているが、まずはこの勝利を喜ぶべきだよな。

 今日はお祭り騒ぎになるのは間違いない。今から酒とおつまみの選定をしておこう。


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