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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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選抜隊

10月1日に2巻発売となりました。書店でお求めいただけると、続巻へと繋がりますのでよろしくお願いします。




「これってやっぱり冥府の王がちょっかい掛けてきたんだよね」


「そうだろうな。オレたちが永遠の階層に向かうと色々面倒なんだろうよ」


 集落を囲む壁の上で徐々に姿が見え始めた魔物の群れを眺め、ラッミスとヒュールミが雑談をしている。

 何度も修羅場を潜り抜けてきた経験があるので、二人とも無駄に力入り過ぎていることもなく自然体に近い。地平線を埋め尽くしそうな魔物の群れに体がすくみ、怯えているハンターも少なくないというのに。

 このまま勢いで攻めてくるものだと思い込んでいたのだが、魔物たちはある程度まで壁に近寄ると、そこから動かなくなってしまった。


「一キロ以上まだ距離があるよな」


 双眼鏡にフォルムチェンジをした俺を覗き込み、ヒュールミが目測で距離を調べている。

 今は昼過ぎだから夜を狙っているのか。確か蛙人魔も双蛇魔も鰐人魔も夜行性だという話だった。

 全員が警戒態勢を維持したまま夜を迎えたのだが、相手が動く気配もなくそこに居座っているだけで状況に変化がないまま日が昇る。


「んー、動かなかったね」


「時間稼ぎか兵力を蓄えて一気に滅ぼすつもりか、両方ってこともあり得るが……ふあぁぁぁ、ねみぃ」


 一晩を明かしたヒュールミは眠たそうに目元を擦っている。

 見張りに立っていた面々も一斉に交代するようで、ラッミスたちも一度テントに戻って体を休めることになった。


「ハッコンも無理しないでね」


「わりぃな、先に休ませてもらうぜ」


「う ん」


 二人と入れ替わりで俺の隣にやってきたのはピティーとミシュエルだった。

 両方とも仮眠を取っていたようなので体調は万全のようだ。


「夜まで……一緒だね……」


「ハッコン師匠、お疲れの様でしたら、いつでもお休みください」


「ありがとう」


 二人に朝食のセットを渡してから、今度はピティーに持ち上げてもらい見張りを代わったハンターたちに飲食料品を配っていく。

 ミシュエルは護衛らしく俺と同行してくれている。一人になると自分が不安になるから付いてきているのだろうな、とは思ったが口には出さないでおいた。

 壁の上のハンターたち全員に配り終えると、壁から降りて広場で待機中のハンターたちの元に向かおうかと思ったのだが、露天商たちが商売を始めていたので自重しておく。

 ハンター協会に避難した人々も元気らしく、子供たちは協会の周りで元気良くはしゃいでいるようだ。

 敵の襲撃も初めてではないとはいえ、ここの住民は適応能力が高すぎるよな。

 そもそも、ダンジョンの中に住むことは博打要素が強く命の危険性が高い。なので、ここに住む人の殆どが元から覚悟を決めている人が大半らしい。

 前回の一件でも取り乱している人が殆どいなかったし、あれだけの死者を出しても異変が解決した次の日から逞しく働いていた。見習わないといけないところだ。


「敵はいつ動き出すのでしょうか」


「このまま……何も……ないのかな……」


 戦力を蓄えられても困るが、一気に攻めてこられるとこちらの被害も覚悟しなければならない。壁の厚さや高さが以前とは違い堅硬な守りとなり、一番の問題点である食料の心配も無用なので籠城戦が妥当だということはわかる。

 今の内に相手を削っておいた方がいいような気もするが、中途半端に手を出して総攻撃に移られても面倒になる。

 団体戦の駆け引きは会長たちが考えることであり、俺はその指示に従うだけなのだが、あの軍勢を目の前にして何も考えずに落ち着いていられるほど肝っ玉は大きくない。

 俺の心配をよそに今日も動きがなく、それから二日が経過した。

 日に日に増え続ける魔物の軍勢に焦りを覚えた会長たちは作戦会議を開くこととなり、俺も参加するようで会議室に運ばれて全員に飲み物を配っている。


「さて、皆集まったようだな。魔物に対する今後の方針を定めようと思っている。このまま籠城を続けるか打って出るか、それとも別の策か、忌憚のない意見を聞かせてほしい」


 熊会長がそう切り出すと、すっと手を挙げたのは灼熱の会長だった。


「んじゃ、遠慮なく言わせてもらうぜ。さっさと攻めるべきじゃねえか。このまま放っておいても敵が増える一方で状況は悪化するだけだろ」


 その意見に頷く者が多いな。俺も敵の増加を危惧していたので、灼熱の会長寄りの考えかもしれない。


「だが、打って出るのであれば多くの犠牲を覚悟しなければならない」


 始まりの会長が続いて意見を口にする。気持ち的には灼熱の会長と同じなのだが、その事も考慮していた人が多いようで、どちらの意見も理解した上で踏み切れないようだ。


「えと、少数精鋭で敵の戦力を削るってのはどうなのかな」


 今度はラッミスの発言か。


「オレもラッミスと同じ意見だ。ただし、遠距離からの強力な火力で相手の戦力を削るのが最適だと思うぜ」


 ヒュールミが助け舟を出して、ラッミスの意見の補足説明をしている。

 ただ手をこまねいて状況が悪化するよりも、その方が俺もいいと思う。

 強力な遠距離からの火力となると、自然に全員の視線が一点に集まる。注目の人物は懐から扇子を取り出して、パタパタと風を自分に送っている。


「ふむ、ワシの出番か。広範囲殲滅魔法が必要であるなら、幾らでも撃ち込もうではないか」


「お爺さん、張り切り過ぎないでくださいよ」


 ここで頼りになるのはシメライお爺さんの魔法だよな、やはり。

 仲間たちの腕が立つとはいえ数の暴力は馬鹿にできない。近距離攻撃は控えるべきだろう。


「ハッコンと……ピティーの……共同作業で……空から……攻撃する……のは……」


 おずおずと手を挙げ、小声だがハッキリと意見を口にした。

 その姿にラッミスが頬を膨らませているが、見なかったことにしよう。


「その攻撃方法は魅力的だが、空を飛ぶ魔物がいるので止めておいた方が良いだろう」


 熊会長の指摘はもっともだ。確かに空飛ぶ魚が厄介だよな。〈結界〉で囲っているので敵の攻撃を防ぐ自信はあるが、魔物の攻撃でまともに飛行することが困難になる。


「魔法の攻撃範囲まで近づき撃ち込んでもらうのが妥当か。護衛を何人か同行させて、荷車も用意させよう。敵が攻撃を仕掛けて来たら迷わず撤退するように」


 その意見に反論はないようで、護衛のメンバーを決めると会議は解散となった。

 昼までには準備が整うらしいので、選考メンバーは門の前に集合して荷車が到着するのを待っている。

 シメライお爺さんに同行するメンバーを選ぶ際に真っ先に決まったのが、シュイと園長先生だった。敵が押し寄せてきた際に相手を足止めするにも遠距離攻撃が必須だと考えたからだ。

 更にミシュエルとユミテお婆さんが選ばれた理由は、単純に戦闘力の高さを期待しての人事。近距離戦で二人に敵う者はいないとの判断だった。

 ピティーも選ばれたのは防衛能力の高さもあるが、逃げる際に荷車の重さを減らす役割がメインらしい。


 ちなみに灼熱の会長も選ばれたのだが、火力と連れて行かないとうるさいからというのが理由だ。

 他に二人追加で熊会長とラッミスも選ばれたのだが、役割は戦力ではなく荷台を引っ張る係として選ばれている。

 そして、最後のメンバーは俺となった。万が一の事態に陥っても〈結界〉で仲間を守ることが可能で、いざとなれば自力で浮いて戻ってこられるとアピールしたら採用してもらった。

 今回はそれだけじゃなく、実は一つ考えがあって参加を希望したのだが、それは現場に行ってから試してみようと思っている。上手くいけば有力な攻撃方法となってくれる……といいな。

 念の為に大量の飲食料品を大量に取り出して広場に並べて置いた。これでもし、俺が帰らぬ人ならぬ自動販売機になっても一週間は軽く耐えられる。


「いいか、危険を感じたら速攻で戻って来い。ラッミス無茶すんなよ」


「うん、わかっているよ、ヒュールミ。危なくなったら急いで逃げ帰るから!」


 ラッミスの身を案じて、さっきからずっとヒュールミが提案と忠告を繰り返していた。

 本当はついて行きたいようだけど、自分が戦場では役に立たないことを理解しているので、ぐっと堪えているのが強く握りしめた拳から伝わってくる。


「ま か せ て」


 俺がハッキリと言い切ると、ヒュールミが驚いて俺を見つめた後、ニヤリと満足そうに笑い「頼んだぜ」と拳を俺の体に軽く当てた。

 荷車を熊会長が引っ張ってきてくれたので俺たちは乗り込む。先頭は熊会長で後ろからラッミスが押す並びで行くようだ。

 門が開け放たれ俺たちは集落の外へと進んで行く。


「無理そうだったら、攻撃しないで戻って来いよ!」


「無事を祈る」


 カリオスとゴルス、それに壁の上で手を振る多くのハンターに見送られ俺たちは集落を後にした。

 出来るだけ広範囲の敵を巻き込むように魔法を放つには、最低五百メートル以内まで近づかなければならない。その間に敵が攻撃を仕掛けてこないのであれば何の問題もないが、こればかりは臨機応変に対応しないとな。

 仲間の命優先なので無理は極力避けたいが、そこの駆け引きは熊会長に一任しているので大丈夫だろう。


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